Yahoo!ニュース

前田敦子さん、勝地涼さん、「別居」から「離婚」か~夫婦の「同居」と「別居」を考える

竹内豊行政書士
前田敦子さん勝地涼さんが互いに弁護士を立てて離婚協議に入ったと報じられました。(写真:つのだよしお/アフロ)

本日、サンケイスポーツが、元AKB48の絶対的エースで女優、前田敦子さん(29)と実力派俳優、勝地涼さん(34)が互いに弁護士を立てて離婚協議に入ったと報じました。

記事によると、お二人は、前田さんのご両親が住むマンションの別の部屋で新居を構えていましたが、昨年の春から「別居」を始めたようです。

夫妻を知る関係者の話を総合すると、別居したのは昨年春。当初、勝地のアドバイスもあって、女優を続ける前田が育児のサポートを受けやすい環境で暮らせるようにと、夫妻は前田の両親が住むマンションの別の部屋で新居を構えていた。

だが、育児への不安もあってか、前田は出産前からナーバスになることがあったという。前田が育児ストレスをかかえたときには実家を頼るように。孤立した状態になった勝地は自宅を離れて、仕事場として借りていた別のマンションで暮らすようになった。

前田も生活を仕切り直すために、実家から車で少し離れた場所にある別のマンションに引っ越していた。ただ、夫婦の仲が完全に壊れたわけではなく、別居はあくまで冷却期間を置くためだったという。その直後の昨年6月、週刊誌に報じられ、別居が発覚した。

引用:前田敦子、離婚へ…シングルマザー決意、弁護士立てて協議 勝地涼は子育てサポート継続

夫婦関係が思うように行かなくなることは、どこのご家庭でも多少なりともあることだと思います。状況によっては、関係修復のために一定期間「別居」を選択することもあるでしょう。前田さんと勝地さんも関係を修復するための冷却期間として別居を選択したようです。

そこで、今回は、夫婦間の「同居」と「別居」について考えてみたいと思います。

結婚をすると「同居」義務が発生する

まず、結婚をすると夫婦は互いに「同居」義務を負います(民法752条、以下「本条」といいます)。

民法752条(同居、協力及び扶助の義務)

夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。

この「同居義務」は、「協力」「扶助」義務と合わせて、婚姻共同生活を維持する基本的な義務とされています。

同居義務違反は「離婚原因」になる

そして、同居義務違反は離婚原因となり(770条1項2号「悪意の遺棄」)、離婚慰謝料の理由にもなります。

民法770条(裁判上の離婚)

1.夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。

一 配偶者に不貞な行為があったとき。

二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。

三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。

四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。

五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

2.裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。

「正当な理由」があれば同居義務違反にならない

本条でいう「同居」は、夫婦としての同居を指し、単に場所的な同居を意味するわけではありません。その結果、同じ家に住んでいても障壁を設けて生活をするのは同居ではないとされる一方、場所的に隔たっていても同居は成立しうるとされ、単身赴任や入院加療など「正当な理由に基づく別居」は同居義務違反にはならないとされています。

「同居」の法的義務に疑問の声も

しかし、女性の雇用が進んでいる今日、別居したまま婚姻を継続する夫婦も実際います。そこで、同居を婚姻の典型として法的義務とすることは、婚姻生活の多様化に反するものであり、立法論として、同居を「夫婦の協力義務の一形態」とすべきという意見があります。

そこで、「民法752条は、夫婦はその性格上同居することを原則とする。しかし、同居するかどうかは、夫婦間の協議で決めることができる。そして、『お互いに同居する』と合意した場合は、正当な理由がない限り同居の義務を負うと柔軟に考えるべき」という主張もあります。

「何年」別居すれば離婚できるのか

ところで、「3年別居をすれば離婚は認められる」と勘違いしている方がたまにいらっしゃいます。これは、前掲の裁判上の離婚の「配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。」(民法770条1項3号)を「3年別居すれば離婚できる」と読み違えた結果と考えられます。

では、何年別居すれば離婚できるのでしょうか。判例を見る限り、別居に至った経緯、別居間の経済的援助の状況、未成年の子の有無など個々の事情に応じて総合的に判断されているのが実情のようです。

つまり、一律に「何年別居をすれば離婚できる」と規定するほど結婚生活に終止符を打つのは簡単ではないということです。

縁あって結婚したふたり。夫婦関係が悪化して、すぐに別れてしまうのも残念な気がします。確かに夫婦には「同居義務」が課せられていますが、お互いに冷静になって今後のことを考えるには、当事者が顔を合わせている状況では難しいでしょう。

個人的には、「夫婦関係の継続の可否を熟考するための別居」は「正当な理由」に入れてもよいと思うのですが、いかがでしょうか。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

竹内豊の最近の記事