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店名は「椎良神水」(シーラカンス)。「スリヴァ」「ポリィ」がメニュー名?これ、鹿児島ラーメンの話です

上村敏行ラーメンライター
鹿児島市・小川町「椎良神水(シーラカンス)」の「コートニィ」(味噌ラーメン)

まずは、屋号がおもしろい。

「椎良神水」と書いて“シーラカンス”。

そして店主も、メニューもやはり個性むき出し。「スリヴァ」「ポリィ」「コートニィ」「ラウバズ」etc. 初見では何のことやらであるが、実はこれらすべてラーメンのメニュー名である。鹿児島市・小川町に2022年5月にオープンし、独特の世界観、味わいで連日行列を作っているラーメン店が「椎良神水」(シーラカンス)。

「椎良神水」の看板。女性人気も高い
「椎良神水」の看板。女性人気も高い

前情報として、鹿児島は昭和22年創業の「のぼる屋」(現在は閉店)を原点に、九州で唯一、久留米ラーメンの影響を受けずに進化してきたエリアだ。豚骨と鶏ガラの共ダシスープに中太麺、黒糖なども用いて甘く濃厚な味に仕上げたチャーシュー、さらに大根の千枚漬けが出されることなども鹿児島ラーメンの一般的な特徴である。筆者は鹿児島出身で、幼少時からTHEかごんまラーメンに親しんできた。後にライターとなり郷土のラーメン沿革も見てきたが、特にここ10年の変化は著しい。今年2月に開催されたイベント「鹿児島ラーメン王決定戦」の圧倒的な集客をみても「鹿児島は今、ラーメンが熱い」をビシバシと感じる。

このように、鹿児島ラーメンもボーダーレス時代へと突入している。それを象徴するような気鋭店代表が冒頭の「椎良神水」なのである。

穴場的立地の「椎良神水」
穴場的立地の「椎良神水」

「椎良神水」の場所は、繁華街天文館からも徒歩圏内である小川町エリア。入り組んだ小路の角、黄色とピンクを基調とした外観が目を引く。屋号の通りシーラカンスのイラストが掲げられているが、言わずもがなこの古代魚が素材というわけではない。あくまでキャラクターだ。

カウンター7席のみのコバコ店で迎えてくれるのは、岸良倫明、虎太郎さん、鹿児島出身の親子。岸良倫明さんは、名店「五郎家」での修業を経て、2012年に「NOODLE LABORATORY金斗雲」を創業。全国のラーメンイベントやフードテーマパークにも積極的に出店し、“鹿児島ラーメン”というカテゴリを広めてきた人だ。そして「金斗雲」の経営を退いた後、当時18歳であった息子と再出発、新たなラーメン店「椎良神水」を開いた。

岸良倫明さん(右)、虎太郎さん(左)。親子で営む
岸良倫明さん(右)、虎太郎さん(左)。親子で営む

「僕の好きな音楽でalternative rock(オルタナティブ・ロック)ってジャンルがあるんですけど、 ラーメンにおいてのオルタナを表現してみようと。『オルタナティブラーメン』。つまり、一線を画す味わい、ラーメンの選択肢を広げるようなイメージです」と岸良倫明さん。筆者自身、岸良さんとは長い付き合いであるが、彼はバンドもやっていた無類の“音楽”好きであり、もちろん“ラーメン”好き。遊び心をもって、その2つを融合させ自己表現する。「スリヴァ」(しょうゆ)、「ポリィ」(しお)、「コートニィ」(みそ)、「ラウバズ」(辛いしょうゆ)などのユニークなメニュー名は、ロック好きならピンとくるかもしれないが、ニルヴァーナの曲やアルバム名などを、“もじって”付けられたもの。

「作り手、食べ手も“自由!”であることがラーメンの魅力。とにかく楽しんでほしいですね。味付けにおいても、ひと口目からガツンとくるインパクトにこだわってます」と岸良さん。

「霧島ロイヤルポーク」の肩ロース肉をチャーシューに使用
「霧島ロイヤルポーク」の肩ロース肉をチャーシューに使用

スープは黒さつま鶏、霧島高原純粋黒豚、長崎県産カタクチイワシ、大分県産シイタケなどを使用し、たぎらせない、白濁しすぎないよう火加減に注意しながらダシを取る。カエシは香川県「丸島醤油」が主体のものや、鹿児島県産醤油をブレンドしたものなど数種をメニューにより使い分け。ジャンルとしては醤油ラーメン、塩ラーメン、煮干しラーメンなどであるが、決して“あっさり”ではなく、岸良さんの言葉通り“インパクトのある”濃厚味、塩気もビシっと効かせてあるのが特徴だ。

この日はまず、味噌ラーメンの「コートニィ」(1,200円)を注文した。レンゲ、丼のデザインもかわいい。

鹿児島産の甘めの味噌を使った味噌ラーメン「コートニィ」。煮卵を割ると超リキッドな黄身が流れ出す
鹿児島産の甘めの味噌を使った味噌ラーメン「コートニィ」。煮卵を割ると超リキッドな黄身が流れ出す

甘く濃厚な鹿児島県産の味噌を合わせたスープが麺にねっとりと絡んで美味。豚と鶏の低温調理のレアチャーシューや黄身が超リキッドな煮卵がのる洗練の味噌ラーメンであるが、地元産の味噌を使っているため、筆者自身も幼少時に食べた鹿児島のイニシエ系味噌ラーメンを思い出し、懐かしさを感じた。甘く、マイルドなスープが体の奥に染み渡る。ニンニクチップと七味をベースにしたスパイス、刻みタマネギがいいアクセントに。

あまりのうまさに違うメニューも試したくなった。2杯目は“メタル系清湯煮干しラーメン”の「ブリュウ」(1200円)をオーダー。“メタル系”。ナイスなネーミングだ。

“メタル系清湯煮干しラーメン”の「ブリュウ」。シーラカンスのオブジェも置いてある
“メタル系清湯煮干しラーメン”の「ブリュウ」。シーラカンスのオブジェも置いてある

こちらは煮干し100%のスープ。さらには煮干し油も使うことで“ニボっぷり”を強調する。スープの粘度はサラサラでなく程よいとろみ系。小麦・はるゆたかの麺との相性もいい。

小麦「はるゆたか」の麺を使用
小麦「はるゆたか」の麺を使用

「新たなラーメン観を広げるような革新的なメニューを心がけていますが、僕自身のDNAにも刻まれている伝統の鹿児島ラーメンの要素をさりげなく忍ばせるような仕掛けもしています。いつかは自分のフィルターを通した“ノスタルジック鹿児島ラーメン”もメニューに加えるかもしれません。それはどんなメニュー名にしようかな」と笑う岸良さん。

若き職人、虎太郎さん(左)がこれからの鹿児島ラーメンを引っ張っていく
若き職人、虎太郎さん(左)がこれからの鹿児島ラーメンを引っ張っていく

最後に、十代後半(現在20歳)でラーメン道に入門した息子の虎太郎さんに話を聞くと。

「ウチはラーメンを“選べる”楽しさも提案しているのでメニューの種類が多く、仕込み、オペレーションも複雑で大変ですが、お客様の“おいしかったよ”の言葉で苦労は一気に吹き飛びます。飲食業の魅力に目覚めました。鹿児島でラーメンといえば『椎良神水』という存在になりたいですね」と頼もしい言葉。

個性的なメニュー名にも注目。これら以外に、新作のラーメンもラインナップしている
個性的なメニュー名にも注目。これら以外に、新作のラーメンもラインナップしている

称するならNEO鹿児島ラーメン。しかしながら、その言葉だけでは表せない驚き、満足感、そして親子愛を感じることができる『椎良神水』。

鹿児島グルメの選択肢として覚えておいて欲しい。

【椎良神水】(シーラカンス)
住所:鹿児島市小川町16-3
電話:なし
営業時間:11:00〜15:00、17:00〜20:00、土・日曜〜19:00
休み:火曜
席数:7席(カウンターのみ)
駐車場:なし
アクセス:鹿児島市電水族館口電停より徒歩約3分

ラーメンライター

1976年鹿児島市生まれ。株式会社J.9代表取締役。2002年、福岡でライター業を開始。同年九州ウォーカーでの連載「バリうまっ!九州ラーメン最強列伝」を機にラーメンライターとして活躍。各媒体で数々のラーメンページを担当し、これまで1万杯以上完食。取材したラーメン店は3000軒を超える。ラーメン界の店主たちとも親交が深く、ラーメンウォーカー九州百麺人、久留米とんこつラーメン発祥80周年祭広報、福岡ラーメンショー広報、ソフトバンクホークスラーメン祭はじめ食イベント監修、NEXCO西日本グルメコンテストなど審査員も務めてきた。その活躍はイギリス・ガーディアン紙、ドイツのテレビZDFでも紹介

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