新バットにふさわしい投手優位の決勝だった! でも、決勝での即タイブレークってどうなの?
夏の甲子園決勝は、京都国際が関東一(東東京)と息詰まる投手戦を展開。勝負は0-0で延長タイブレークに持ち込まれ、10回表に2点を先制した京都国際が、関東一の反撃を1点に抑えて2-1で激闘を制し、初優勝を果たした。京都勢の選手権優勝は、昭和31(1956)年の平安(龍谷大平安)以来、68年ぶりとなった。
史上初の決勝タイブレーク
今春から導入された「低反発バット」に大きく影響された大会を象徴するように、京都国際は6試合で本塁打ゼロ。しかし投手陣は、エース・中崎琉生(3年=タイトル写真)と西村一毅(2年)の両左腕が抜群の安定感で、相手打者を圧倒した。準決勝で初回に2失点し、西村の救援を受けた中崎が、決勝では発奮。関東一に決定打を許さず、9回の2死満塁というサヨナラ負けのピンチも切り抜けた。関東一も得意の継投策が見事に決まり、押し気味の京都国際も攻めきれない。0-0のまま、優勝の行方は史上初の決勝タイブレークに委ねられた。
中崎の代打・西村が突破口開く
10回表、先攻の京都国際は9番からの攻撃で、小牧憲継監督(41)は、中崎の代打に西村を起用する。バントが予想される場面で、10回からマウンドに上がるはずの西村は、バントの構えからバスターに転じ、鮮やかに左前安打を放った。結果的に、この一打が勝敗を分けることになる。これで動揺したか、7回から好救援していた関東一のエース・坂井遼(3年)が次打者に押し出し四球を与え、均衡が破れた。京都国際はさらに2番・三谷誠弥(3年)の犠飛で1点を加え、その裏、関東一は2点を追って西村と対峙する。
西村が土壇場で底力を発揮
今大会、2完封を含む23回無失点の西村は、先頭打者のバント処理を誤り(犠打失策)、無死満塁としてしまう。京都国際の攻撃と全く同じ状況だ。ここまで窮地でも動じることがなかった西村にも、焦りの色が見える。西村は内野ゴロで1点を失ってなおも満塁と攻められたが、2、3番打者を内野ゴロと三振で打ち取る。マウンドには一瞬で輪ができ、選手たちが喜びを爆発させた。「気持ちの部分で絶対に負けたらあかん」という小牧監督の日頃の教えが、土壇場で生かされた瞬間だ。1イニングだけの試合参加だったが、勝敗のカギを握っていたのは、やはり西村だった。
タイブレークは非情なルール
中崎が9回無失点だったのに対し、関東一は先発の左腕・畠中鉄心(3年)が好投し、坂井との継投で、9回を無失点で切り抜けた。それだけに、タイブレークで試合の様相が一変したことは残念でならない。坂井は防御率0.00で大会を終えた。一方の西村とて、一打逆転サヨナラの場面だったことから、打たれていればどれだけの深手を負っていたことか。まだ2年生である。高校野球の頂点を決める最後の試合で、延長即タイブレークが果たして必要なのか。0-0の決着を、試合を早く終わらせるためだけの非情なルールで決めることに、疑問を感じざるを得ない。
高校サッカーですら、決勝は即PK戦ではない
高校スポーツで野球に次ぐ人気を誇る高校サッカーは冬の選手権で、試合の決着がつかない場合、PK戦を採用している。準決勝は試合時間が長くなり、決勝ではさらに延長がある。PK戦が文化として定着しているサッカーですら、できれば時間内にいずれかが勝ち切って欲しいと、準決勝、決勝とステージが上がるにつれ、時間内決着を模索している。一方の高校野球はどうか。以前は12回で未決着の場合、13回からタイブレークに入っていたが、今や延長即タイブレークになった。選手の健康管理、ケガの防止が目的だったはずで、クーリングタイムや投手の球数制限など、ほかにもさまざまな方策がとられているのは周知の通り。ベンチ入りも20人まで増やされた。
決勝に限り、12回までは通常の攻防を
以前、地方大会決勝でタイブレーク決着があった際、もう試合はないのだから、決勝にタイブレークが必要か?という疑問を呈したことがある。当時は13回からの突入であった。それがまさに、最高峰の甲子園の決勝で、しかも0-0の試合で起こってしまった。せめて決勝くらいは、思う存分やらせてあげたい。そのためのベンチ入り20人ではないのか。10時開始の決勝は、延長時のクライマックスで正午を挟んでいた。猛暑を考えれば無制限の延長はあり得ない。決勝に限り、せめて延長12回までは、お互いの死力を尽くした攻防を見たい。熱戦に水を差すつもりは毛頭ないが、タイブレークは高校野球の文化にそぐわない。その意を改めて強くした、甲子園100年目の決勝でもあった。