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井頭愛海がおおさかシネマフェスティバルで新人女優賞 「不安で悩みながら大きな山を乗り越えました」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/松下茜

「全日本国民的美少女コンテスト」出身の女優・井頭愛海が「おおさかシネマフェスティバル2021」で新人女優賞を受賞した。かつて杉咲花や中条あやみらも名を連ねた賞で、初主演した『鬼ガール!!』での演技が評価されたもの。撮影中は夜も眠れないほど悩んだというが、この作品で壁を乗り越えて、その後の進境は著しい。先月20歳にもなり、さらなる躍進が期待される。

お客さんが笑ってくれて泣きそうになりました

――3月に20歳になりましたが、誕生日はお祝いとかしたんですか?

井頭 友だちがおうちでお祝いしてくれて、0時で日付が変わった瞬間にシャンパンを飲みました。あと、缶のお酒もちょっと飲んでみたんですけど、すぐ眠たくなって、そのまま寝ちゃいました(笑)。

――自分が大人になってきたと感じることもありますか?

井頭 服はちょっと大人っぽいものを選ぶようになりました。今まであまり着なかったジャケットのセットアップを買ったり。周りからは「いきなりどうした?」と言われましたけど(笑)、大人を意識してしまうところはあるかもしれません。普段は見ない服屋さんに足を踏み入れたりもします。

――初主演した『鬼ガール!!』で「おおさかシネマフェスティバル2021」の新人女優賞を受賞しました。去年の公開時から反響は感じてました?

井頭 私の地元の大阪で撮影して、大阪で先行公開になったとき、梅田や天王寺で『鬼ガール!!』のポスターがバーッと貼られているのを、舞台あいさつに行って見掛けました。街でもエスカレーターの壁に何枚も並べて貼ってあったりして、大阪の友だちからよく「愛海がいたよ」って連絡が来ました。

――大阪での盛り上がりはすごかったんですね。

井頭 私も東京に住んでいてわからなかったんですけど、大阪ではCMも頻繁に流れていたと親に聞きました。今回、大阪の映画祭で賞もいただけて、地元にちょっとでも貢献できて良かったです。もちろん私1人の力でなくて、監督始めスタッフの皆さんや共演者の方々と作った作品が、認められたんだと思います。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

――自分でも何回か観たんですか?

井頭 はい。試写会で当選された方と一緒に観たり、東京で1人で観に行ったりもしました。私はコメディをガッツリやるのが初めてだったんですけど、自分が観てほしかったところで、お客さんがリアクションしてくださって。やっと皆さんに届けられたと思って、泣きそうになりました。

――どの辺の場面で盛り上がってました?

井頭 私の演じたももかが高校の映画部でヒロインのオーディションを受けるシーンがあって、いろいろなパターンのお芝居をやったんですね。時代劇ふうとか、ヒステリックな感じとか、超棒読みとか。私なりに「どうかな?」と思いながらやっていて、皆さんが笑ってくださっていたのが本当に嬉しかったです。

考えすぎて混乱して見えないものと戦って

昨年10月に公開された『鬼ガール!!』。井頭が演じた鬼瓦ももかは鬼と人間の間に生まれた高校1年生。キラキラした青春に憧れながら、怪力をセーブしたり、興奮すると頭にツノが生えるのを隠して生きてきた。映画部の憧れの先輩からスカウトされて、ヒロインのオーディションに挑むが……。

――『鬼ガール!!』の撮影中はだいぶ悩んだそうですね。

井頭 そうですね。それが画面には出てなくて良かったんですけど、ヘンに考え込んでしまったり、不安になって、「この映画が完成しなかったら、どうしよう?」みたいに思い悩んでいました。

――演技に対する悩みだったんですか? 初主演のプレッシャーですか?

井頭 「このシーンはどうしよう?」と頭の中でシミュレーションをすると、演技プランのどっちを選ぶか悩んだり、役について考えるあまり混乱しちゃったり。今考えると「そんなことで悩んでいたのか」ということもあるんですけど、当時は「台詞が飛ばないようにしなきゃ」とか「周りに迷惑をかけられない」とか「時間内に終わらせなきゃ」とか、いろいろなことがあって。主役として「みんなに気配りしなきゃ」とも思ってました。

――夜に寝られなかったり、ごはんが食べられなかったりもしたとか。

井頭 緊張すると、食べられなくなる体質なんです。胃が受け付けなくなってしまって。夜も毎日3時間くらいしか寝られませんでした。常に見えない不安と戦っていたんです。実際に不安なことは何も起きてないのに、勝手に考えすぎてしまうところがあって。

――真面目な性格の裏返しですかね?

井頭 仕事以外ではそんなに考え込むことはないんです。たぶん自分が熱くなれるものが演技なので、絶対に失敗したくない。成功したいからこそ、ヘンに不安が出ちゃうのかなと思います。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

精神的に強くなって提案もできるように

――『鬼ガール!!』では、そういう状態がクランクアップまで続いたんですか?

井頭 周りの皆さんに支えていただいて、クランクアップでゴールまで走り切った感じはしましたけど、そのあとも1人で反省会みたいなことをしてました(笑)。『鬼ガール!!』に限らず、いろいろな作品で「ああしよう、こうしよう」と考えながら悩みすぎてしまう傾向があるんです。でも、この作品を経てから、自分が精神的に強くなったのを感じています。

――どんなことが変わりました?

井頭 今までなら「どうしよう?」となっていたところで、ものごとを簡潔に端的に考えられるようになりました。そうすると、自然と役に入りやすくなって。自分1人で考え込んでしまって人に話せなかったり、うまく伝えられなくてドギマギしてしまったのも、フタが自然に開いて、自分から積極的に監督さんに話すようにもなりました。「このシーンはこうしたらいいんじゃないですか?」とか提案もしたり。遠慮していた自分がどん欲になったんですかね? まだまだ壁は出てきますけど、『鬼ガール!!』でひとつ大きな山を乗り越えられたと思います。

――煮詰まったときに、気分転換ですることはありますか?

井頭 カラオケはめっちゃ好きで、よく1人でも行っていて、歌うことは発散になってます。

――どんな曲を歌うんですか?

井頭 清水翔太さんのバラードが好きです。あと、Mrs. GREEN APPLEさんとか。最近だと、ACE COLLECTIONさんの『鬱憤』という曲が、早口で毒舌のラップをする感じで、歌い切るとスッキリします(笑)。あと、お風呂も好きで、休みの日に父と岩盤浴や温泉に行ったりもします。

――いいですね。

井頭 この前は家族と初めて有馬温泉に行って、金泉に入りました。お湯がドロドロした黄土色だったんですけど、お肌がツルツルになりました。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

落ち込むと母の言葉が引き上げてくれます

――愛海さんは2012年に「第13回全日本国民的美少女コンテスト」で審査員特別賞を受賞して、翌年には映画『おしん』でデビュー。ここまで順調に来た感じですか?

井頭 でも、『おしん』のあとは、全然お芝居をやってなくて。中学の頃はグループ活動がメインで、高校生になってから、ちょっとずつ出させていただくようになりました。女優1本になったのは高校を卒業してからで、この2年くらいですね。

――朝ドラの『べっぴんさん』でも『明日の約束』でも、その都度「悩んだ」と話していましたね。

井頭 それこそ『おしん』のときから、だいぶ悩んでました(笑)。撮影したときは小学6年生で、ずっと山形に行ってたんですけど、親元を4日以上離れたことがなかったので、ホームシックになってました。マネージャーさんが親に「あのときは最後まで心を開いてくれませんでした」と話していたらしくて、「本当にごめんなさい」という(笑)。

――苦しいときに支えにしていたものはありますか?

井頭 母の存在はすごく大きいです。何かあったときは一番に電話をして、励ましてもらってます。落ち込んでいる自分を引き上げてくれるので、ありがたいです。今は離れて暮らしてますけど、朝早くても話を聞いてくれたり、撮影前に毎日「頑張ってね」とLINEをくれたりします。

――お母さんに言われて、特に響いたことというと?

井頭 「不安だったら準備をたくさんして、準備をしてきたら、それを出せばいいよ」ということですね。努力したことはきっと現場で出るから、信じればいい。そういうことは忘れがちなので、その言葉でハッと気づけた部分があります。

――準備というのは、練習するということ?

井頭 そうですね。不安で台詞を練習すると、また考えすぎてしまうところがあるので、現場では一回忘れて楽しめばいいかなと。自分が楽しめてないと、作品も良いものにならないので。基本的なことですけど、大事だと思います。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

いじめ役で自分の悪さを全開にしました(笑)

――放送中の『ガンガールレディ』では、女子高生たちがサバイバルゲームを繰り広げるストーリーの中、愛海さんの演じる水野千鶴は珍しく主人公をいじめる役でした。

井頭 主人公と対峙するチームに所属していて、いつも人を小バカにしているような子で、やっていてすごく楽しかったです(笑)。今まではいじめられるような役が多くて、受けの芝居でしたけど、いじめるほうは投げる芝居なので、主導権を握る難しさはあります。でも、やったことがないからこそ、「こうしてみようかな」と楽しんで演じられました。

――目線とか言い方とか、憎々しい感じが出るように意識したんですか?

井頭 監督にいきなり「ここで『うぜぇ』と言って舌打ちしてください」と言われたり(笑)、現場に行くたびに台本と変わったりするので、そういうことに対応しながら、水野千鶴のキャラクターができていった感じです。

――普段の愛海さんにない悪役感が出せたのでは?

井頭 まだまだだとは思いますけど、物語は主人公目線なので、視聴者の方にイヤなヤツと思ってもらえたら嬉しいです。そういう役もできるようになりたいので、撮影のときは自分の出せる悪さを全開にしました(笑)。

――アクションも見どころですね。

井頭 撮影の何日か前から、アクションの先生に教えていただいて、みんなで基礎的な受け身の練習とかをしました。筋肉痛になって、毎日「脚が痛いね」とか言いながら撮影してました。

――特にどの辺に痛みが来ました?

井頭 本番ではやらなかったんですけど、転がるシーンがあるかもしれないということで練習して、首が痛くなりました。あと、ずっと中腰で動いてアップダウンするシーンがあって、太ももとか普段あまり使わないところが筋肉痛になりました。

――銃の構え方もカッコ良く見えるように練習したんですか?

井頭 そうですね。ちょっと重心を前にして、肘を絶妙に引くとか。それぞれプラモデルの銃の持ち方が違って、個性を付けていただいて。私もカッコ良くキメたくて、先生の動画を撮らせていただいて、ポジションとか研究しました。

――もともとアクションは練習していたんですよね?

井頭 私が習ったのは殺陣と技斗、刀とパンチやキックだったので、銃は初めてでした。でも、基礎の受け身とかは同じだったので、ちょっと役立った感じです。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

自分の可能性を自分で見つけていく20代に

――次に獲りたい賞はありますか?

井頭 新人賞から助演女優賞、またやらせていただけるなら主演女優賞と、成長していきたいです。いつかはアカデミー賞の舞台に立てたらいいなと。でも、賞にこだわらず、いい作品にたくさん巡り合って、いろいろな方に届けられる存在になりたいと思ってます。

――これから演技で特に力を入れたいことは?

井頭 『ガールガンレディ』で悪い要素のある女の子を演じさせてもらえたので、本当の悪女とか、『デスノート』的な悪の世界の役もやりたいと思ったりしました。

――自分と真逆なだけに?

井頭 そうですね。楽しそうだなと思うので、極めたいです。でも、実際に悪いことは全然していませんよ(笑)。

――わかってます(笑)。

井頭 校則も破ってなかったと思います。わりと真面目なほうだったので。高校も厳しいところで、すぐ怒られたので、高校生役で悪いことをできたら気持ち良さそう(笑)。本格的なアクション作品に携わりたいとも思いますし、海外の映画のようなカッコイイ女性もぜひやれたら。もっと自分の可能性を自分で見つけていけるような20代にしたいと思っています。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

Profile

井頭愛海(いがしら・まなみ)

2001年3月15日生まれ、大阪府出身。

2012年に「第13回全日本国民的美少女コンテスト」で審査員特別賞。2013年に映画『おしん』で女優デビュー。2020年公開の映画『鬼ガール!!』に主演。その他の主な出演作は、ドラマ『べっぴんさん』、『明日の約束』、『さくらの親子丼2』、『少年寅次郎』、『ハムラアキラ』など。『ガールガンレディ』(MBS・TBS)、『結婚できないにはワケがある。』(ABC、tvkほか)に出演中。

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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