世界同時多発的な干ばつ、食料価格への新たなリスクに
世界で同時多発的に厳しい干ばつ被害が報告されていることが、食料供給・価格に対する大きなリスクになっている。2020年夏に発生したラニーニャ現象の影響とみられるが、今夏は北半球の各地で歴史的ともいえる規模の干ばつが多数発生している。
欧州委員会は8月23日、欧州では過去500年以上で最悪の干ばつ被害が発生していると報告した。欧州干ばつ観測所(EDO)の8月報告書によると、欧州全土の47%の地域で注意報、17%の地域で警報が出されている。土壌水分不足から植物への影響に懸念が示されると同時に、ほぼ全ての河川で水位の低下が報告されている。
【Situation of Combined Drought Indicator in Europe(8月1-10日)】
欧州委員会が7月28日に公表したデータだと、2022/23年度の欧州穀物生産高は2億7,850万トンと前月の2億8,640万トンから2.8%下方修正されており、前年度の2億9,380万トンを5.2%下回る見通しになっている。前年度比でトウモロコシが9.5%減、軟質小麦が4.8%減となっているが、EDOは8月に入ってから乾燥が更に深刻化しており、11月にかけてこうした状態が続く可能性を警告している。現在、北半球の穀物生産は受粉期を終えて穀粒の成長・成熟期を迎えているが、秋の収穫期に向けて更に生産高見通しが下方修正を迫られるリスクが高まっている。
しかも、中国では長江流域を中心に干ばつ被害が報告されており、農業や畜産業への影響が懸念されている。中国政府は灌漑の支援、更に人工降雨も活用する方針を打ち出しているが、各地で最高気温が40度を超える熱波が報告されており、欧州と同様に河川水位の低下も深刻化している。このまま収穫期に向けて干ばつが続くと、国内供給の不足で海外からの穀物輸入を拡大せざるを得ない状況に追い込まれ、国際穀物需給・価格に混乱が生じる可能性がある。熱波や水不足の影響で豚肉生産量が落ち込むと、食肉や飼料分野でも想定外の需要が発生し、日本の食卓に影響が生じるリスクもある。
米国でも、「ホット・アンド・ドライ(高温乾燥)」と呼ばれる干ばつ型の異常気象が報告されており、米農務省(USDA)の作柄報告も毎週のように悪化している。直ちに不作が警戒される状況にはなっていないが、8月22日から始まったPro Farmer社の産地調査(クロップツアー)では、USDAの想定以上の厳しい報告が目立ち、シカゴ穀物相場でも作柄環境に対する懸念の声が強まり始めている。
8月1日からウクライナ産穀物の輸出が約5カ月ぶりに再開されるなど、穀物需給環境の安定化を促すための国際的な取り組みも活発化している。ウクライナ国内の2,000万トンとも言われる在庫を国際市場に供給することで、需給と価格の安定化が目指されている。しかし、世界各地の干ばつによって、こうした努力を帳消しにしかねない規模の生産障害が発生するリスクが徐々に高まっている。
今後、北半球では新穀と収穫直後の荷が出回ることで、シカゴ穀物市場では「ハーベスト・プレッシャー(収穫期後の売り圧力)」によって穀物価格が値下がりし易い時期を迎えるのが例年のパターンになる。しかし世界同時多発的な干ばつによって想定されていた生産量が確保できなくなると、改めて穀物価格が高騰しかねない状況になっている。
マーケットでは、徐々にではあるが干ばつのリスクを価格に対してプレミアムとして加算する動きが観測されている。収穫期に向けた今後数か月の世界の気象環境によって、日本の食料価格環境も急変する可能性があることに注意したい。