日本におけるインバウンド観光の歴史と現在について
本記事では、日本におけるインバウンド観光の歴史および現在の状況についてみていこう。日本も、実は長いインバウンド観光の歴史があり、それを踏まえて、現状があるのだ。
1.2020年以前
まず日本におけるインバウンド観光のこれまでの歴史についてみていこう。
当時の日本を代表する実業家の渋沢栄一が、1893年(明治26年)に、国際観光事業の必要性および有益性を唱え、訪日外国人をもてなすという目的で、日本初の外客誘致専門民間機関である「喜賓会」を設立した。同会は、海外要人を多数迎え入れ、各種旅行案内書の発行などを実施したのである。
これが、日本におけるインバウンド観光の起源ともいうべき出来事であった。
その後、1912年(明治45年)になると、後に日本交通公社(JTB)になる「ジャパン・ツーリスト・ビューロー」が、鉄道省の主導の下に創設された。JTBは、外国人への鉄道院の委託乗車券の販売や海外での嘱託案内所の設置等、さらに訪日外国人観光客の誘致などを実施した。これにより、日本は本格的にインバウンド観光を実施する体制が構築され、明治中期のインバウンド施策は、世界の観光立国とも比肩しうるものになったのである。
その後は、世界大戦などがあり、インバウンド観光にとり追い風の状況にあったとはいえない状態が続いた。
そして、第二次世界大戦後になると、日本は、外貨獲得のために外国人旅行者の誘致に重きを置いた。そしてまた、1964年(昭和39年)には、東京オリンピック開催に向け、外国人旅行客の受入のインフラ整備を行った。
他方、日本は、高度経済成長期(1954年(昭和29年)12月から1973年(昭和48年)11月)には、海外渡航が自由化される中、インバウンドよりも、日本人が海外に出るアウトバウンド市場が盛況を極めていった。
より具体的にいえば、この時期には、日本の観光業界が国内市場に重点を置いたことや、1964年の観光目的の海外渡航の自由化などの要因から、アウトバウンドである海外渡航の日本人の数が増加し、先に述べた先進的な日本のインバウンド市場は、1970年(昭和45年)を境に成長が鈍化することになったのである。
インバウンドは、大阪万博開催の1970年に85万人で当時のピークに達した。しかし翌年アウトバウンドが逆転し、それ以降は円高影響等でアウトバウンドの市場がインバウンドよりも増大した。アウトバウンドは、1964年に22万人だが、1971年(昭和46年)には96万人に達し、その後1995年(平成7年)には1530万人であった。これに対して、当時のインバウンドは335万人(前者が後者の5倍近くに増加)であった。
このような状況を改善するために、運輸省(当時)は、1996年(平成8年)に、訪日外国人旅行者数を2005年(平成17年)時点で700万人に倍増させることを目指す「ウェルカムプラン21」を策定した。
その後、2002年(平成14年)の日韓ワールドカップサッカー大会の開催などはインバウンドにとってプラスとなったが、アジアへのアウトバウンドの増加等、インバウンドおよびアウトバウンドの両者の開きは拡大の一途をたどった。
そこで、政府(当時は小泉純一郎政権)は、2003年(平成15年)に、ビジット・ジャパン・キャンペーンを立ち上げ、国をあげて観光の振興に取り組み、観光立国を目指す方針を示した。
そのような国全体をあげての支援や国際状況の変化や海外の国々の経済状況の向上などから、2013年(平成25年)には訪日外国人客数が目標であった年間1000万人を突破した。さらに政府は、新たに2020年までに2000万人、2030年までには3000万人という目標を掲げた。
また、2013年に2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催が決定されたり、円安なども追い風となり、2015年(平成27年)は訪日外国人客数1973万7000人(約2000万人)を記録した。これは、大阪万博開催の1970年以来45年ぶりに、入国者(インバウンド)数が出国者(アウトバウンド)数を上回ったことを意味した(図表1参照)。
さらに、訪日外国人客数が予想を上回るペースで増加した。そこで、政府は2016年(平成28年)春には、「2020年に4000万人、2030年に6000万人」とインバウンド観光における目標を上方に再修正した。実際にも、インバウンドの観光客は、2016年には初めて2000万人を突破し、2018年には3000万人を突破した。
このようにして、近年における日本政府の観光立国に向けての政策が功を奏して、インバウンド観光において、年々訪日外国人数の増加が認められるといえる(図表2参照)。
図表2を見てもわかるように、訪日外国人数は、全体としては徐々に増加傾向にはあるが、その数が1,000万人を超えたのは2013年、2015年にほぼ2,000万人(約1974万人)、2016年約2,404万人、2017年約2869万人となり、2018年には実に3,000万人(約3119万人)を超えたのである。そのことは、訪日外国人数は、この5年間で約3倍に増加したことを意味するのである。
2.コロナ禍(2020年)以降
ところが、2019年の末ごろに、中国の武漢市で初の感染者が発見されたといわれる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、その後全世界に急速かつ短期間にその感染が拡大した。そして、3月11日には、WHO(世界保健機関)のテドロス・アダノム事務局長が「パンデミック(世界的大流行)」を宣言した。だが、その後も、同感染症は、世界的に急速に拡大し、多くの国や地域では、ロックダウンや移動制限や海外渡航制限や査証の無効化等の措置がとられ、世界的に移動の制限がなされ、多くのモノ、特に人の動きは、ほぼ完全に停止され、訪日外国人旅行者数は、2020年4月には、前年比同月比で99.9%減(JNTO推計)となり、インバウンド観光は正に大打撃を受けたのである(図表3参照)。
このような上記の現状であったが、昨年秋ごろから、コロナ感染の先がやや見え出してきた状況で、日本も国などの政策も背景に、観光業も徐々に回復してきている。今正にアフターコロナの状況が起きつつあるのである。
(注)2019年および2020年は、日韓関係の悪化および中国武漢における新型肺炎感染の広がり等により、日本への外国人旅行者数の減少やそのさらなる打撃によりインバウンド観光が大きな影響を受けていることも忘れてはならない。
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上記の記事で記したような状況を踏まえて、今後のインバウンド観光に向けて考える機会を設けた。
ご興味がある方は、ぜひご参加ください。観光分野でない方にとっても、ビジネスにおけるデータの活用の仕方やマーケティングについて学ぶ絶好の機会になります。
城西国際大学大学院国際アドミニストレーション研究科
アフターコロナにおける観光振興の可能性と展望
観光理解促進フィールドワーク:
インバウンド×マーケティング×データサイエンス
下記の要領で、観光振興への理解促進につながるフィールドワーク&発表会を開催。
同イベントでは、「インバウンド×マーケティング×データサイエンス」をコンセプトに、都民や都内在勤・在学者と共に、都内観光地域を対象としたフィールドワークも実施しながら、対象地域の観光戦略の成果は公開され、アフターコロナにおける新しい観光の可能性について考えていくものです。多くの方々のご参加をお持ちしています。
記
〇開催日時
・1日目:令和5(2023)年2月4日(土)9:00~17:00
内容:講義、バーチャルツアー、フィールドワーク(グループワーク)など
・2日目:令和5(2023)年2月11日(土)10:00~17:00
内容:グループワーク、講演・成果発表会(公開・対面・オンライン)
〇会場:城西国際大学東京紀尾井町キャンパス(東京都千代田区紀尾井町3-26)など
〇対象者・定員:都内在住・在勤又は在学の方
①フィールドワーク参加者(定員:20名)(※先着順・両日参加できることが条件)
②発表会(会場参加又はオンライン視聴)(定員:会場20名、オンライン100名)
〇参加費:無料。会場及びフィールドワーク現地までの交通費、昼食代等は自己負担。
〇募集期間:
①フィールドワーク参加希望者:令和5(2023)年1月25日(水)17時まで
②発表会の聴講希望者:令和5(2023)年1月25日(水)17時まで
〇申込方法:申込フォームより申込み。
詳細は城西国際大学HP参照。
〇本企画は、東京都の「都民の観光振興への理解促進事業」の一環で実施。
【問い合わせ先】城西国際大学事務局:info@tokyo-jiu.net