気管支喘息と新型コロナ 喘息患者の新型コロナ重症化リスクと感染リスク、治療継続の必要性について
喘息は新型コロナの重症化リスク因子か?
気管支喘息は日本人の約10%が持つ国民病とも呼べる疾患ですが、喘息患者が新型コロナに感染すると重症化しやすいのかについては、流行初期から長らく分かっていませんでした。
喘息患者がインフルエンザなどの呼吸器感染症に罹ると重症化しやすいとされており、喘息を持っている方は「新型コロナでも重症化しやすいのではないか」と心配な日々を過ごされていたのではないでしょうか。
かく言う私も喘息持ちの一人であり、喘息と新型コロナとの関連には人一倍注目をしてきました。
新型コロナの流行が始まって1年以上が経ち、喘息患者における重症化リスクについても多くのことが分かってきました。
喘息患者が重症化しやすいというエビデンスはない
結論から言いますと、喘息患者は、喘息を持っていない人と比べて新型コロナに感染した際に重症化しやすいというエビデンスはありません。
これまでの喘息患者を含む研究を複数まとめて解析するメタ解析という手法による研究では、喘息患者は、喘息を持っていない人と比べて、
・重症化リスク、死亡リスクは変わらない(Clin Exp Allergy. 2020 Nov;50(11):1274-1277.)
・ICUへの入室、人工呼吸器の使用リスク、死亡リスクは変わらない(J Asthma . 2021 Apr 1;1-14.)
という結果が複数出ています。
日本呼吸器学会が2020年7月1日に行ったアンケート調査でも1460例の新型コロナウイルス感染症の症例のうち49例(3.4%)が基礎疾患として気管支喘息を持っていましたが、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、間質性肺炎、肺癌を持っている人と比較しても死亡率も人工呼吸管理も頻度として少なかったという結果でした。
しかし、これで全く安心というわけではなく、一部の研究では、
という結果を示したものもあり、特に喘息のコントロールが良くない人が新型コロナに感染してしまった場合には、呼吸状態が悪化しやすく人工呼吸器を使用するリスクが高くなる、そして使用する期間が長くなる可能性がありそうです。
コロナ禍においても吸入ステロイドなどの喘息の治療は継続すべき
気管支喘息の治療には、吸入ステロイドが用いられることが多く、またコントロール不良の場合には内服のステロイドや生物学的製剤が使用されることもあります。
ステロイドや一部の生物学的製剤には免疫を抑える作用があることから、特定の感染症に感染するリスクが高くなることが知られています。
そのため「ステロイド吸入をしていると新型コロナに感染しやすくなるのではないか?」と心配される喘息患者さんもいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、ステロイド吸入や内服の有無は、新型コロナによる経過に影響を与えない、とする報告も出ており、海外の各専門機関は「現在の喘息の治療は継続するように」と推奨を発表しています。
もちろん個人個人で対応を検討することも大事ですので、ご心配な方は現在の喘息の治療内容についてかかりつけ医と相談するようにしましょう。
また、吸入ステロイドであるシクレソニドが新型コロナウイルスの増殖を抑える作用があることが基礎実験から分かっており、国内でもシクレソニドの吸入によって重症化を防げるのではないかということでランダム化比較試験が行われましたが、残念ながらシクレソニド吸入をしていた方がコロナによる肺炎の増悪が多かった、という結果でした。
一方で、ブデソニドという別の吸入ステロイドは、新型コロナによる受診・入院を減らし、回復までの期間を短縮した、という結果が報告されています。
吸入ステロイドによる新型コロナに対する効果についてはまだ結論は出ていませんが、少なくとも喘息患者が症状のコントロールのために吸入ステロイドを継続することは、新型コロナに罹ってしまった際に重症化することを避けるためにも重要です。
私も毎日欠かさず吸入を継続しています。
喘息患者はコロナに感染しにくい?
興味深いことに、あるメタ解析では、喘息患者は一般人口と比較して「新型コロナに感染しにくい」「新型コロナによる入院が少ない」という結果が示されています。
この原因については明らかではありませんが、新型コロナウイルスが細胞に侵入するために必要なACE2受容体が関連しているのかもしれません。
ACE2の発現量は性別、年齢、ライフスタイルなどによって個人差があると言われており、ACE2の発現量が多いほど新型コロナに感染しやすいと考えられています。
ACE2の発現量は喘息患者と健康な人とでは変わらない一方で、吸入ステロイドを使用している喘息患者では喀痰中の細胞のACE2はむしろ少ないという研究結果が報告されていることから、喘息患者、特に吸入ステロイドを使用している患者ではACE2の発現量が少ないことで新型コロナに感染しにくい、という可能性はあるかもしれません。
また、喘息の病態悪化に重要なIL-13というサイトカインが喘息患者さんでは健常人より高いレベルで存在しています。IL-13はACE2の発現を抑制するため、喘息患者ではコロナにかかりにくい、重症化因子とも関連しにくいという機序も考えられています。
いずれにせよ、喘息患者が新型コロナに感染しないというわけではありませんので、このような研究結果に油断することなく、引き続き感染対策を徹底するようにしましょう。
また、現時点では「気管支喘息の人は新型コロナワクチン接種によるアレルギー反応が起こりやすい」というエビデンスはなく、喘息持ちだからといって接種をためらう必要はありませんので、順番が来ればぜひ接種をご検討ください。
参考:
放生雅章. 新型コロナ感染症と気管支喘息:疫学と治療について
※ この記事は呼吸器専門医の田中 希宇人先生(キュート先生@cutetanaka)に監修いただきました