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Dバックスと契約のパナ吉川の永久追放処分で、連盟は次のパワハラ告発ターゲット?

豊浦彰太郎Baseball Writer
平野の活躍もありダイヤモンドバックスは地区優勝争いを展開している(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

パナソニックの吉川俊平投手が同社野球部に在籍したままの状態でMLBアリゾナ・ダイヤモンドバックスとマイナー契約を結んだことに対し、社会人野球を統括する日本野球連盟は事実上の永久追放処分を課した。この一件で、Dバックスの狡猾さ、吉川とパナ野球部幹部の無知、そして連盟の行き詰まりが浮き彫りになった。

今回の吉川との契約に対するDバックスのエクスキューズは、吉川は高卒時、大卒時、そして社会人1年目の昨年と一切ドラフトに掛かっていない。したがって、「互いのドラフト候補へは手を出さない」なる日米の紳士協定にも抵触しない、ということだろう。同球団の国際スカウト部門には日本人もいるようで、その人物は今回の契約に際して退部届けを事前に出すよう促してあげればよかったと思うが、それをしなかったのは「裏で糸を引いている」印象を避けたかったのだろうか。あくまで、それは本人と所属会社の責任事項として距離を取った方がリスクがないと判断したのかもしれない。

しかし、同球団フロントには、2008年に当時ENEOSの田澤純一を釣り上げたレッドソックスフロントの主要メンバーだった人物が複数含まれている。日本の社会人球界がアメリカでは見落とされがちだが有望な人材源であることを認識しているのだろう。

しかし、吉川とパナソニックは愚かだったと言わざるを得ない。社会人野球界の規定を熟知していなくても、野球の能力を買われ会社から雇用されている者が、野球選手として他の団体と契約することは社会規範としてのコンプライアンス上問題だ(プロ野球選手が会社員ではなく、個人事業主だったとしても)。これは収入の少ないサラリーマンが生活費の足しにするため深夜にコンビニでバイトすることとは根本的に違う。別に、退部届を出してからDバックスと契約しても何も失うものはないはずだが。それとも、Dバックスとの契約を既成事実化しておかないと、退部や退社に障害があると考えたのだろうか。もし、そうだったとするとこれは別の人権問題である。

日本野球連盟もどうかと思う。吉川が処罰を受けるのは致し方ないと思うが、これは単に吉川と所属野球部の無知と怠慢が原因だとすると「永久追放」とするほどのことか?と思う。少なくとも彼らに悪意と呼べるものはなさそうだ。永久追放なるものは、八百長や不正な金品の授受などの重大な行為以外に対しては適切ではないと思う。連盟は、選手の流出を防止したいのか、メンツを潰されたことに復讐したいのか。それとも、吉川が退部と退社により社会人野球の管轄を外れるので、彼に対し拘束力のあるペナルティを課そうとすると「今後は仲間に入れてあげない」という措置しかなかった、ということなのか。

社会人からアメリカへ、というパターンは今後増えることはあっても減ることはない。むしろ、選手サイドから見た社会人野球の存在意義のためには、MLBを志す高校生に大学に進学するより利便性が高いと思わせた方が得策だと思う。また、今回事前に退部届があれば何の問題もなかったはずで、個人的には二重契約という事態の再発防止に必要なのは啓蒙であり、永久追放策ではないと思う。むしろ、スポーツ協会パワハラ体質吊し上げの次のターゲットとなるリスクを背負ってしまったのではないか。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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