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ITの今を表すボブ・ディランの詩

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

シンガーソングライターのボブ・ディラン氏がノーベル文学賞を受賞した。ミュージシャンとして、ノーベル文学賞を受賞したのは初めて。その功績を、スウェーデンの国立アカデミーは、「アメリカの偉大な歌の伝統の中に、新たな詩という表現を創出した」ことを受賞の理由としている。

ボブ・ディランは「風に吹かれて(Blown in the wind)」や「500マイル」、「ライク・ア・ローリング・ストーン(転石のように)」など有名な歌が多いが、どれも全てきちんと韻をふむ美しい歌詞を持っている。当時は反戦歌をはじめとするメッセージソングが多かった。

彼の歌に「時代は変わる(Times, They are a-changin)」という曲がある。米国がベトナム戦争を始めた1960年代に、戦闘開始を宣言したニクソン大統領をはじめとする保守派を批判し時代は真の民主主義へと変わるだろう、というメッセージを伝えた歌である。この詩が時代を超えて、今から8年前、2008年6月のDAC(Design Automation Conference)のパネルディスカッションで、この曲を紹介し、今のIT/エレクトロニクスの時代がまさにこの歌の通りだと述べた講演者がいた。

「次世代ワイヤレスマルチメディアデバイス」と題したパネルディスカッションで、ノキアのJohn Shen氏が、ボブ・ディランの「時代は変わる」を紹介した。携帯電話にPCが搭載され(これが今のスマホである)、さらにインターネット+セルラーネットワークが加わり、コンバージェンス(統合)という言葉が大流行の時代だった。彼は、コンバージェンスよりコリジョン(衝突)状態ではないか、と時代を評した。コグニティブソフトウエア無線やユビキタスのインターオペラビリティなど新しいテクノロジーや規格を生み出す標準化手法が続出する中で、大きな変革期に来ていることを述べた。最後に紹介した歌が「時代は変わる」の最後の歌詞の部分だった。

The slow one now

Will later be fast

As the present now

Will later be past

The order is rapidly fadin'.

And the first one now

Will later be last

For the times they are a-changin'.

今遅いものでも将来は早くなるかも

旬のものはそのうち古くなる

序列やランクは急速に色褪せ、

今トップのものが将来はビリかもしれない

時代はまさに変わりつつあるから

彼のプレゼンが終わると、パネルディスカッションのモデレータであるカリフォルニア大学バークレイ校のJan Rabaey教授は、DACの講演にボブ・ディランの歌が出てきたのは初めてだ、とユーモアを交えながら感想を述べていた。現代をよく表していると思う。

「DACは本来、半導体LSI設計のEDA(Electronic Design Automation: いわば電子回路のCAD)ツールや技術の会議と展示会である。2008年に初めて参加し、もはや単なるEDAだけの世界ではないことを知った。LSI設計はVHDLやVerilogで設計するだけの仕事ではなく、いまや次のアプリと時代認識を読み取り、さらにユーザーへのマーケティングにより新しいビジネスを勝ち取る時代へ変わりつつあった。ワイヤレス技術、ミクストシグナル技術、最新プロセス技術、など新しい時代の新しいアプリと技術に注目したセッションが予想していたよりも多かった」。

筆者は当時のブログで上のように述べていた。この考えは今でも当てはまる。だから、いろいろな講演会で、最後のスライドに現代を表す言葉として、ボブ・ディランの詩を時々引用させてもらっている。

(2016/10/14)

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

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