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自民党の選挙当日の新聞広告は選挙犯罪ではないのか

渡辺輝人弁護士(京都弁護士会所属)
公選法違反にならないようにモザイク処理しました

今朝の新聞朝刊をみて驚愕しました。なんと自民党の広告が掲載されています。「アベノミクス」という、自民党自らが設定した選挙総点まで堂々と掲載されています。調べたところ、少なくとも、朝日/読売/毎日の各紙に掲載されていました。これは、長年にわたって暗黙の了解だった一線を政権党自ら超えてしまったことを意味します。

憲法と公選法

もともと日本国憲法では表現の自由、政治活動の自由が保障されています。一方、公職選挙法の選挙運動規制の枠組みは、戦前の衆議院選挙法に由来しており、すなわち、国民に法律の範囲内でしか人権がなかった時代の産物です。日本国憲法とは相容れないため、度々、問題になってきました。しかし、戦後、長く政権党だった自民党は「選挙の公正の確保」や「金のかかる選挙の防止」を旗印にして、一貫して規制の強化を追求しており、今の公職選挙法は、法律の条文だけ見れば、明治憲法下の法律よりも、規制が厳しくなっています。

政治活動と選挙運動の関係

法律の概念としては「政治活動」のなかに「選挙運動」が含まれます。選挙運動の定義は、最高裁判所によると

特定の公職の選挙につき、特定の立候補者又は立候補予定者に当選を得させるため投票を得若しくは得させる目的をもって、直接又は間接に必要かつ有利な周旋、勧誘その他諸般の行為をおこなうことをいう。

とされます。それ以外の活動は通常の政治活動ということになります。公職選挙法で主に規制を受けるのは「選挙運動」で、政治活動は比較的自由に行えます。

公選法と政党広告の関係

選挙期間中になると急増する各党のテレビ広告や新聞・雑誌の広告ですが、意外なことに「選挙運動ではないから」という理由で適法とされています。

公職選挙法は、選挙運動期間中の選挙運動用の文書や図画(インターネットやテレビの画像・映像も「図画」です)の頒布・掲示について厳しく規制しており、原則禁止した上で、法定された種類のビラやポスター、看板の類だけ、解禁されています。最近、インターネットでも選挙運動ができるようになりましたが、そのときにネット選挙「解禁」という言葉が使われたのもそのためです(以上法142条~143条)。

この解禁された文書図画のなかにテレビ広告も新聞広告(法149条のもの除く)も含まれていないため、選挙運動のためにするこれらの広告は違法(すなわち犯罪行為)となります。

では、各党、なぜ選挙期間中に広告を打てるのか。それは、上述のように、広告の内容が選挙運動ではない一般の政治活動である、と整理されているからです。選挙期間中に広告が増えるのは、たまたま、ということになります。

選挙当日に政党が行う「政治活動」はあり得るのか

しかし、選挙投票日の当日に、政党が、自党の政策を宣伝する新聞広告を打つ目的は、選挙運動以外に何があるのでしょうか。このような常識的な理解から、選挙当日の政党広告はさすがに控えられてきたのです。このような常識的な理解を前提にすれば、今日の自民党の新聞広告は公職選挙法違反(法129条。選挙当日の選挙運動の禁止)に該当する可能性が高いはずです。

では、国民が今日の自民党の広告を刑事告発したら、安倍首相が逮捕されるでしょうか。恐らく、されないでしょう。なぜなら、法律を運用しているのが安倍政権なのですから。しかし、けじめをつけ、犯罪となる境界線をはっきりさせるためにも、刑事告訴は必要なのではないかと思われます。

規制に責任を持つ側が恣意的な運用をする卑劣さ

自民党の今日の広告が許されるのなら、投票所の前で、各政党が、例えば消費税増税に反対する署名を集めたり、残業代ゼロ法案に反対するアピールを行うことも特に問題ないことになるはずです。安倍政権は、自ら、暗黙の了解を破ることで、選挙当日まで「事実上の選挙戦」(選挙の公示前にマスコミがよく使う表現ですね)が行われる途を開いてしまったように思われます。すでに述べたように、もともと、選挙運動のあり方について法律であれこれ規制すること自体がおかしなことなので、それはそれでありなのかもしれません。

しかし、戦後、公職選挙法の選挙運動規制を強化し、他党の運動員を逮捕・起訴し、今回の選挙でも、一般国民に対して、選挙運動のあり方についてあれこれと規制を掛けてきた側にいるのが自民党です。私たち国民が、特に公示前や今日(選挙当日)のツイッターでのツイートのあり方について悩まなければならないのもそのためです。そのような自民党が、「選挙の公正」も「金権選挙の防止」も目もくれず、自分だけはその規制をないもののようにする行為をやったのは卑怯・卑劣というほかないでしょう。

弁護士(京都弁護士会所属)

1978年生。日本労働弁護団常任幹事、自由法曹団常任幹事、京都脱原発弁護団事務局長。労働者側の労働事件・労災・過労死事件、行政相手の行政事件を手がけています。残業代計算用エクセル「給与第一」開発者。基本はマチ弁なので何でもこなせるゼネラリストを目指しています。著作に『新版 残業代請求の理論と実務』(2021年 旬報社)。

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