米国アリゾナ州のユダヤ博物館、96歳ホロコースト生存者とホログラムで対話「死後も経験と記憶を後世に」
進む「ホロコーストの記憶のデジタル化」
第二次大戦時にナチスドイツが600万人以上のユダヤ人を大量に虐殺したホロコーストだが、そのホロコーストを生き延びることができた生存者たちも高齢化が進んでいき、その数も年々減少している。彼らの多くが現在でも博物館などで若い学生らにホロコースト時代の思い出や経験を語っているが、だんだん体力も記憶も衰えてきている。
現在、欧米ではそのようなホロコーストの記憶を語り継ぐために、ホロコースト生存者のインタビューと動く姿を撮影し、それらを3Dのホログラムで表現。博物館を訪れた人たちと対話して、ホログラムが質問者の音声を認識して、音声で回答できる3Dの制作が進んでいる。
あたかも、目の前にホロコーストの生存者がいるようで、質問に対してリアルタイムに答えられる。ホロコーストの生存者らが高齢化しても、亡くなってからでも、ホログラムで登場して未来の世代にホロコーストを語り継いでいくことができる。
映画「シンドラーのリスト」の映画監督スティーブン・スピルバーグが寄付して創設された南カリフォルニア大学(USC)のショア財団ではホロコースト時代の生存者の証言のデジタル化やメディア化などの取組みを行っている。南カリフォルニア大学ではホログラムでの生存者とのインタラクティブな対話の技術開発にも積極的で、同大学ではこの取組を「Dimensions in Testimony」プロジェクトと呼んでいる。戦後70年以上が経過し、ホロコースト生存者の高齢化が進み、当時の記憶も薄れていき、体力的にも証言を取るのが難しくなってきており、これまでにも多くの証言を集めてきたが、今後あと10年が勝負である。
父親が毛皮調製人で生き延びることができた
米国アリゾナ州フェニックスにあるユダヤセンターでも3Dとホログラムによるホロコースト生存者とのインタラクティブな会話が2022年11月9日からできるようになる。
96歳のアリゾナ州スコッツデール在住のオスカー・ノブラハ氏がホログラムになって登場してホロコースト時代の経験や記憶を訪問者と会話しながら伝えていくことができる。ノブラハ氏はポーランド出身のユダヤ人で、10代だった戦争中はナチスのゲシュタポで働かされていた。ノブラハ氏の父親が毛皮調製人だった。冬の寒さが厳しいヨーロッパでは重要な仕事であり、殺害されずにナチスのゲシュタポで働かされていたので、ノブラハ氏も殺害されずにホロコーストを生き延びることができた。そのようなホロコースト時代の経験をホログラムで目の前にいる訪問者とインタラクティブに対話している。
ロサンゼルスにあるスタジオで18台のカメラであらゆる角度からホロコースト生存者らを撮影してホログラムは製作される。撮影も1週間以上で2000問以上の質問が繰り返される。そのためホロコーストの生存者の誰でもがホログラムで記憶をデジタル化することができるわけではなく、撮影にも相当な体力を要する。また製作コストも1人のホロコースト生存者を撮影して3Dとホログラムで表現するために250万ドル(約3億7500万円)かかる。それでも、ホロコースト経験者の記憶と体験を未来に語り継いでいくために、欧米のユダヤ人らは積極的にホロコーストの記憶のデジタル化を進めようとしている。96歳のノブラハ氏もホロコースト時代の経験と思い出、当時の生活について2000の質問に答えている。
「私はこのようにホログラムになれてホロコースト時代の思い出を語ることができて光栄です。私は2022年11月で97歳になります。私が死んでからもホロコーストのことを伝えることができます。新たな命をもらったようです」とノブラハ氏は語っていた。
またユダヤ博物館のディレクターのローレンス・ベル氏は「近い将来、確実にホロコースト生存者はゼロになります。それでもホログラムになった人たちは永遠にホロコーストの記憶を後世に伝えていくことができます」とコメントしていた。