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皮膚むしり症の最新治療法【行動療法・薬物療法・代替療法】完全ガイド

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:アフロ)

皮膚むしり症の最新治療法

~行動療法・薬物療法・代替療法を徹底解説~

皮膚むしり症は、自分の皮膚をむしったり引っ掻いたりする衝動を抑えられず、皮膚に損傷を与えてしまう疾患です。19世紀から医学文献で報告されていましたが、近年になって精神疾患の一つとして認知されるようになりました。むしり症は「病的なスキンピッキング」「神経性皮膚むしり」などとも呼ばれ、米国精神医学会の診断基準DSM-5では「抜毛症(トリコチロマニア)」などと並ぶ「強迫性障害および関連症群」に分類されています。

皮膚むしり症の有病率は1.4%~5.4%と推定され、一般人口の中でも無視できない割合と言えるでしょう。思春期に発症することが多く、むしり症患者の大半は女性です。発症のきっかけはさまざまで、ニキビや湿疹などの皮膚疾患がある場合は、むしり行為がそこから始まることが少なくありません。一方、ストレスや怒り、不安などのネガティブな感情が引き金になることもよくあります。むしり行為は、一時的に快感や解放感をもたらすかもしれませんが、やがて皮膚の損傷や醜状、そして羞恥心につながっていきます。

【認知行動療法が第一選択の治療法】

皮膚むしり症の非薬物療法として、現在最も有望視されているのが認知行動療法(CBT)です。CBTは、皮膚むしりの原因となる認知(考え方)や行動のパターンに働きかけ、より適応的な対処法を身につけるアプローチです。たとえば、「むしらないと気が済まない」といった非合理的な信念を見直したり、むしりたい衝動が高まった時の代替行動を練習したりします。

習慣逆転療法(HRT)は、CBTの中でも特に注目を集めている手法の一つです。HRTでは、皮膚むしりの衝動に気づいたら、それと両立しない動作(グーパーや拳の握りしめなど)で乗り切ることを学びます。4週間のHRTで皮膚むしり症状が大幅に改善し、2ヶ月後もその効果が持続したという無作為化比較試験の報告もあります。HRTはむしり症に特化したシンプルな技法なので、治療導入のハードルは比較的低いと考えられます。

自助マニュアルを使ったCBTも開発されており、インターネットを通じて多くの患者に届けられています。専門家のサポートを受けながらCBTに取り組むのがベストですが、アクセスの問題などから難しい場合は、自助マニュアルも選択肢の一つと言えるでしょう。ただし自助マニュアルは、むしり症状が軽めの方向きで、重症の場合は専門的な助けを求めることが大切です。

CBTの他にも、マインドフルネスや受容コミットメントセラピー(ACT)など、新しいタイプの心理療法も注目されはじめています。これらのアプローチでは、むしりたい気持ちをコントロールするのではなく、そのままに受け入れながら価値ある行動を選択していくことを目指します。エビデンスはまだ限られていますが、今後有望な選択肢になるかもしれません。

【薬物療法も症状改善に有効】

皮膚むしり症の薬物療法としては、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を中心とした抗うつ薬が使われることが多いです。SSRIは、むしり症患者の50%前後に効果が認められたという臨床試験の報告が複数あります。SSRIは脳内セロトニンの働きを高めることで、むしりの衝動を和らげ、むしり行為そのものを減らすと考えられています。

ただSSRIは万能ではなく、効果の個人差も大きいのが現状です。そこで、抗てんかん薬や、サプリメントのN-アセチルシステイン(NAC)など、他の薬剤の可能性も探られています。抗てんかん薬の有効性を示す小規模な試験はありますが、プラセボとの差は証明されていません。一方、NACについては最近発表された無作為化比較試験で、プラセボを上回る効果が認められました。とはいえ薬物療法全体について見ると、質の高いエビデンスはまだ限られているのが実情です。

薬物療法に関して押さえておきたいのは、皮膚むしり症の第一選択はあくまでも認知行動療法だということです。薬はむしり症状を和らげるサポート役として使うのが望ましく、安易に薬だけに頼るのは避けたいところです。むしり症の背景には、強い感情の起伏やストレス対処の問題が潜んでいることが多いので、薬と並行して心理社会的なアプローチを続けることが大切だと言えます。

【代替療法は補助的な選択肢】

皮膚むしり症の治療法は、行動療法と薬物療法が二本柱ですが、最近では代替療法への関心も高まっています。ヨガ、有酸素運動、鍼灸、催眠療法などが代表的なものです。これらの治療法は、むしり症そのものへの直接的な効果は限定的かもしれません。しかし、ストレス緩和やリラクゼーション、注意の転換などを通じて、間接的にむしり衝動を和らげることが期待されます。

ただし現時点では、代替療法の有効性を実証した質の高い研究は乏しいのが実情です。むしり症の主要な治療法として位置づけるには、もう少し科学的なエビデンスの積み重ねが必要でしょう。とはいえ、認知行動療法や薬物療法との組み合わせで、補助的に活用するのは十分アリだと思います。むしり症との長期的な付き合い方を考える上で、代替療法の選択肢を持っておくのは悪くないはずです。

以上、皮膚むしり症の代表的な治療法を概観してきました。むしり症は身体面でも精神面でも、本人の負担が大きい疾患です。けれども適切な治療を受けることで、症状は必ず改善に向かいます。最後になりましたが、皮膚むしり症でお困りの方は、一人で抱え込まずに専門家に相談することをおすすめします。皮膚科や精神科の医師、臨床心理士などが、みなさんの良き相談相手になってくれるはずです。認知行動療法と薬物療法を柱に、一人一人に合った最善の治療法を見つけていきましょう。

参考文献:

- Grant, JE. et al., Skin picking disorder. Am J Psychiatry. 2012, 169(11), 1143-1149.

- Lochner, C. et al., Excoriation (skin-picking) disorder: a systematic review of treatment options. Neuropsychiatr Dis Treat. 2017, 13, 1867-1872.

- Selles, RR. et al., A systematic review and meta-analysis of psychiatric treatments for excoriation (skin-picking) disorder. Gen Hosp Psychiatry. 2016, 41, 29-37.

- Schumer, MC. et al., Systematic review of pharmacological and behavioral treatments for skin picking disorder. J Clin Psychopharmacol. 2016, 36(2), 147-52.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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