夫が死亡したら、「復氏」「死後離婚」する?しない?
結婚生活は、いつか必ず終わりの時を迎えます。その時は、「パートナーの死亡」(当事者の一方の死亡)、「婚姻の取消」そして「離婚」の以上3つの形があります。
今回は、当事者の一方の死亡について解説します。
パートナーが死亡するとこうなる
パートナー(配偶者)が死亡すると民法によって次の4つの法的効果が起こります。
1.結婚前の氏(姓)に戻すことができる
生存配偶者(夫が死亡した場合は妻)が婚姻によって氏を改めた者である場合、そのまま婚姻中の氏を称するか、婚姻前の氏に復するか(このことを「復氏」といいます)、自由に選択できます(民法751条1項)。
751条(生存配偶者の復氏等)
1.夫婦の一方が死亡したときは、生存配偶者は、婚姻前の氏に復することができる。
2.姻族関係は当然には消滅しない(死後離婚の選択権)
姻族関係【注】は当然には消滅しません。たとえ上記1でご説明した「復氏」をしても姻族関係は終了しません。
生存配偶者が姻族関係終了の意思表示をする(戸籍係へ「姻族関係終了の届出」をする)ことによって終了します(民法728条2項)。
この姻族関係の終了の意思表示は、一般に「死後離婚」と呼ばれています。
728(離婚等による姻族関係の終了)
1.姻族関係は、離婚によって終了する。
2.夫婦の一方が死亡した場合において、生存配偶者が姻族関係を終了させる意思を表示したときも、前項と同様とする。
上記の1と2を組み合わせると次のようなことができます。
・婚姻中の氏を称しながら、姻族関係を終了させる
・婚姻前の氏に戻しながら、姻族関係を継続させる
また、再婚は姻族関係の終了とは無関係です。したがつて、前婚によって生じた姻族関係をそのままにして再婚することもできます。
一方、死亡した配偶者(パートナー)の親族側からからは、生存配偶者との姻族関係を終了させることはできません。
【注】姻族関係とは、夫婦の一方と他方の血族との関係であり、婚姻の効果として発生する。民法は、一般的に6親等内の血族、配偶者、3親等以内の姻族を「親族」と規定する(民法725条)。
725条(親族の範囲)
次に掲げる者は、親族とする。
一 六親等内の血族
二 配偶者
三 三親等内の姻族
3.単独で親権を行使する
離婚と異なり、親権者や監護者の決定を必要としません。生存配偶者が単独で親権を行使します。
4.相続権を持つ
離婚と異なり、財産分与の適用はなく、生存配偶者は相続人として、死亡配偶者の財産に対して相続権を持ちます(民法890条)。
そして、生存配偶者の相続分は次のようになります(民法890条)。
1.子どもがいる場合:2分の1
2.死亡したパートナーの親が生存している場合:3分の2
3.子どもがなく、死亡したパートナーの両親も死亡しているが、パートナーの兄弟姉妹がいる場合:4分の3
4.子どもがなく、死亡したパートナーの両親も死亡していて兄弟姉妹もいない:全て
890条(配偶者の相続権)
被相続人の配偶者は、常に相続人となる。(以下省略)
900条(法定相続分)
同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
いくら仲が良い夫婦でも、いつかはいずれかが亡くなります。それはずうっと先のことかもしれないし、ある日突然やってくるかもしれません。残念ですが避けることはできません。
その時に備えて、民法は復氏・姻族関係の終了(死後離婚)の選択、親権の行使、相続権の発生といった規定を用意しています。
その中でも、復氏・姻族関係の終了(死後離婚)の選択は夫が先に死亡したほとんどの妻に関係します。
夫が死亡した時のことを考えるのは不謹慎かもしれませんが、頭の隅に置いておくと万一の時に役立つかもしれません。