ドラマ『本気のしるし』特集2 深田晃司&土村芳 Wインタビュー
本日、メ~テレにて深夜0時54分から、『本気のしるし』の最終話が放送される。
星里もちるの同名漫画をドラマ化した本作は、虚無感を抱えながら成り行き任せに生きてきたサラリーマンの辻一路(森崎ウィン)が謎の女・葉山浮世(土村芳)と出会ったことから始まる転落サスペンスだ。
辻と浮世を筆頭に、次々と登場する何を考えているのかわからない人々の姿と、全く先が読めないストーリーが大きな話題となっていた。
(※辻一路の「辻」は二点しんにょうが正式表記)
現在、ドラマジャーナルではそんな問題作『本気のしるし』を特集している。
前回は上映会&トークイベントのレポートと深田晃司監督のインタビューを掲載した。
特集1はこちら
特集2となる今回は、深田晃司監督と葉山浮世を演じた土村芳さんにWインタビューをおこなった。土村さんが浮世役に選ばれた経緯や演じる際の苦労といった撮影秘話を中心に伺っている。
『本気のしるし』特集2 深田晃司×土村芳 Wインタビュー
「なるべく、何もやらないようにしました」
―― 葉山浮世の役が土村芳さんに決まった経緯について教えてください。
深田晃司(以下、深田) 今回は自由に作らせていただいて、辻を演じた主演の森崎ウィンさんも、他の役の方も、みなさんオーディションやキャスティングで決めさせていただきました。とは言え、これは企画が動き出した時から予想していたことですが、浮世の役は難航しました。たくさんの方にお会いして、みなさんそれぞれ素晴らしい方が来てくださったのですが、浮世の男を引き寄せるような台詞を駆け引きではなく自然体で言える人を探したら、土村さんがもっともハマったという感じです。
―― 土村さんは浮世の役を知らされた時はどう思われましたか? 正直、みんなが演じたい役だとは思わないのですが。
土村芳(以下、土村) ズバッと言いましたね(爆笑)
―― すいません(笑)ですが、演じるのに結構、勇気がいる役だと思うんですよ。見た人からどう受け止められるかわからないですし。オーディションと知って驚いたのですが、まず浮世さんについてどう思われましたか?
土村 オーディションを受ける時に、原作の一巻を途中まで読ませていただいたのですが、浮世のことが全くわからなくて。ですが、魅力的に描かれていたのでとても気になりました。たぶん、オーディションには受からないだろうなぁと思ったのですが、深田監督に「こんな役者もおりますよ」というアピールのつもりで受けさせていただいたので、決まったという連絡をいただいた時は「え?」っと、驚きました。何度も「私ですか?」と確認しました。
深田 こちらとしてはもう、土村さんしかいないという感じで「これでやっと進められる」と、関係者みんなが安堵するのを感じました。メインの二人が決まらないことには始まらない企画だったので。「土村さん来てくれてありがとう」という感じでした。
土村 こちらこそ「ありがとうございます」という感じです。
―― そもそも、演じる役がまったく理解できない場合や嫌いな場合は、どうやって演じるのでしょうか? 浮世さんを演じる土村さんを見ながら、そこが一番、気になっていました。
土村 (浮世のことを)理解はできなかったのですが、嫌いではなかったです。逆に興味がわいたんですよね。オーディションでも「どういう女性かはわからないですけれども興味はあります」と言いました。役が決まった後で原作を最後まで読ませていただいたのですが、浮世の友人の桑田さんが語る浮世の過去の話が、浮世を演じる上での土台となりました。
―― 第6話に出てきたシーンですね。視聴者としてもまったく同様で、あそこで浮世さんのことが少しだけわかった気がしました。見ている側も悩むんですよ。浮世さんも辻も何を考えているかわからないので。だからこそ、演じている方はどんなことを考えて演じていたのか気になって。今回、脚本はあらかじめ全話出来上がってから撮影に入られたのですか?
深田 キャスティングが決まってから準備稿でリハーサルをして、それを受けてまた脚本を書き直して、撮影が始まる前に撮影稿を全話、渡しました。
―― では、物語の流れは最初から踏まえた上で演じられたのでしょうか?
深田 最終話まで脚本をお渡ししていましたが、それで問題が生じるという心配はなかったです。役者の方によっては、こういうキャラだからこう演じるみたいな計算をされる方もいて、そう演じられると生っぽさが失われるのですが、今回はそうではない俳優さんをオーディションで選んでお願いしましたので。
土村 逆算は考えませんでしたね。「進んでいくのみ」でした。
「理解したつもりではいます」
―― 浮世さんのようなわからない人でも演じられるのでしょうか? それとも何か掴んでから演じたのですか?
土村 う~ん。そうですね。理解と共感はまた違うと思うのですが、浮世を理解したつもりではいます。私の中で。すべてかどうかはわかりませんが…。
―― 浮世さんと似た部分はありますか? 例えばお酒が好きとか。
土村 私、お酒は強くないですけど。
深田 近い(笑)
土村 そういう部分では近いですけど(笑)でも、記憶を無くすような行動は取ったことないので、本当に(浮世は)辻に抱えられたり、怒られたりすることが多いなぁと思いながら演じていましたね。
―― 第2話の喫茶店のシーンでウェイトレスが「こういう子、クラスにいたんだよねぇ」と言いますが、あの辺りはどう思われましたか?
土村 私は「いたなぁ」と思っていたタイプですね。「そういう子」と言われるタイプではなかったです。でも、だからこそ、自分が実際に見たことあるなぁという経験がヒントにはなっていたかもしれないです。
―― 演じる上で心がけたことを教えてください。
土村 浮世に関しては発する言葉が言葉なので「ああしなきゃ、こうしなきゃ」と思うほど、演技に嫌らしさが出てしまうと思いました。ですので、なるべく何もしないように心がけていました。
―― それは、このドラマ全体にも言えることですね。監督は演者の方にどのような演技指導をされたのですか?
深田 あまり本数を見てないので全部がダメとは言いませんが、ドラマの芝居をたまに見て「わぁ、しんどい」と思うことがあって。これは先程の「役をどれくらい理解して演じるのですか?」という話と近いと思うのですが、多くのドラマの芝居は「俳優が役のことを理解しすぎている」と思っていて。
ふだん生きていて、自分がどういう人間かなんてそんなに意識してないですし、歩こうとすれば自然と手足が動くように、今こういう気持ちで、自分はこういう性格だからこうして動こうとか普段は意識しないですよね。もっと言うと、自分の心なんて自分にもわからないものだと思うんですよね。
「そういうさじ加減で演じられる人を求めている」と最初にキャスト全員が集まった時に伝えました。
おそらく森崎さんにとっても辻はある程度、謎の存在だし、土村さんにとっても浮世さんは謎の存在だと思うんですよね。それくらいのさじ加減が丁度良くて、逆に全部を理解したつもりになって役を演じると単に奥行きのない人物になってしまうと思います。
―― 漫画との大きな違いは、モノローグがないことですが。
深田 普段、自分は映画でもモノローグを使わないので、最初から使うつもりはなかったです。原作では辻の内面がモノローグでフォローされていますが、今回はより想像させる方向で行こうと考えました。
―― 辻って最初から同僚の女子社員二人に二股をかけているような男だけど、それでも漫画で読んでいる時は理解できるんですよね。でもドラマでみるとすごく不気味で。先程おっしゃったように、たぶん「自分が何をやっているのかわかってない人」なんだと思います。漫画だと辻からみた浮世がヤバいって感じなんですけど、ドラマだと二人ともヤバい人に見えるというか。
深田 一番おかしいというか、闇を抱えているのは、むしろ辻なんじゃないかというのは、よく言われますね。
土村 確かに。
―― その怖さって多分、自分の中にあるもので、自分も辻みたいな部分があるよなぁって、だんだん、気付かされていくんですよね。『本気のしるし』は声のトーンが普通のドラマとくらべて小さいので、辻が声を張って「あんたねぇ」と言うと、とても威圧的に聞こえます。それが女の人からみた男の怖さみたいなものとして追体験させられているように感じて、たぶん、ああいう喋り方を自分も女性に対してしている瞬間があるんだろうなぁと気付かされて反省しました。本人(辻)は普通に話したつもりでも浮世さんがビクッと驚くことで、すごく暴力的な場面にみえるなぁと何度も思わされるんですよね。
深田 「共演者との距離感を一番大事にしてほしい」と演者には話しています。そうすると自然とそういう声のトーンになっていくと思うんですよね。声を張って喋らないでも伝わるから自然と小さくなる。でも、多くのドラマの場合は、目の前にいる相手ではなくて、そこにはいない第三者に向けて喋ってしまうんですよね。
―― 視聴者に向けて喋っているということですね。
深田 演劇の場合は、例えば1000人が入れる劇場で俳優がボソボソ話しても成り立たないので、声を張る芝居が求められるのですが、映像作品ではお客さんは0人だと考えてほしいですよね。多くの映画やドラマでも、その場にいないはずのお客さんを想定しているような芝居になっていたりするけど、今回のように距離感を大事にして喋ってもらうと、きちんと怒った時の感情が起伏として伝わるのだと思います。だからこそ、自分自身の普段のコミュニケーションをみているような気になるんじゃないかと思います。
―― 音がとても気になるドラマですよね。たとえば辻の部屋では常に水の音が流れているのですが、それが妙に気になって。
深田 水の音は結果的に面白い感じになったからよかったのですが、辻の家にザリガニを置くと決めてしまった結果、同録を使うと宿命的にザリガニの入っている水槽の音がちょろちょろと聞こえるようになってしまって。
―― じゃあ、偶然なんですか!?
深田 偶然ですね(笑)偶然だけど活かすしかないという。ただ僕の映画をみていただいたらわかると思うのですが、ほとんど劇伴がないんですよね。
―― そうですね。
深田 最初から劇伴を入れることを前提に作ってないので。そうすると日常の音がどんどん際立ってくるという構造になっています。
チームプレイで撮った長回し映像
―― 土村さんが印象に残っているシーンを教えて下さい。
土村 もう浮世にとっては全部が印象に残っているんですが(笑)、全部が強いので。
なにかなぁ。たくさんあるなぁ。
―― 個人的には第5話で、ベランダで二人が喋っていたら辻が下に降りて、浮世の夫・正(宇野祥平)に食ってかかるシーンが印象的だったのですが、あれはどうやって撮られたのですか?
深田 原始的な方法ですね。
土村 森崎さんが走るという(笑)
―― ベランダのシーンから下にいる辻と正にカメラが移動するのですが、あれは長回しの一発撮りですか?
深田 現場リハから通しで撮りました。撮り方はロケハンの段階から決めていて、最初に土村さんと森崎さんの芝居があって下に降りていくのですが、スタッフにエレベーターで待機していてもらって、辻が入って降りるという。だからスタッフ、キャスト一体感のあるシーンで。
土村 すごく、一つになってました。
深田 ロケ場所の都合で9時30分までしか撮影時間がなくて、多分2~3テイク撮れるか撮れないかという状況の中で、これ失敗したらやばいという状況で撮りました。
―― 長回しは大変でしたか?
土村 私はすごくありがたいですね。やっぱり通して撮ると会話の流れでお互いのテンションが伝わるので。ひとつのシーンをずっと撮れるというのもありがたかったですし、そういうシーンがあったからこそ、いい関係性を作るきっかけになっていたと思います。
「こういうドラマもあっていい」
―― いよいよ今夜、最終話ですね。浮世さんを演じ終えての感想を教えてください。
土村 今の自分に出来る事は出しきったつもりいます。現場ではひたすら監督を信じて、本当に全部を預けられたので幸せな現場でした。お芝居している意外でも楽しい現場だったので、一生忘れません。というか、またやりたい(笑)いつかまたご一緒させていただけるよう、私自身もっと成長できるよう精進していきたいと思います。
深田 最終話が一番、原作からは話が外れていくと思います。ですが、原作の持っている核たるエッセンスは残っていると思うので、ぜひとも辻と浮世の行く末を見守って応援してほしいです。
―― 『本気のしるし』は、終わった後も残っていく作品だと思うんですよ。最後にこれからゼロから見る方に、作品のみどころを教えてください。
深田 自分が出てほしいと思ってお願いした俳優さんしか出てないので、そこを見てほしいです。あとは星里もちる先生の原作の魅力をパッケージしたので、ドラマを気に入ったら是非、原作を読んでほしいです。
土村 ドラマ好きな方からみたら色々と裏切られることが多いドラマだと思いますが、こういうドラマもあっていいんだと思っていただけると嬉しいです。
―― すごくわかります(笑)
土村 すごく良い意味で、ドラマ好きの人もそうでない人も刺激をいっぱい受けられる映像になっていると思うので、しびれていただきたいです。
―― ありがとうございました。
『本気のしるし』
メ~テレ 毎週月曜深夜0:54~1:26 放送
TVK 毎週水曜23:00~23:30 放送
TVerとGYAO!にて全話配信中(12月24日、01時26分まで)
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