Yahoo!ニュース

『キングオブコント2023』1・2番手のファイナル進出で「出番順」に対する考え方に変化が生まれるか

田辺ユウキ芸能ライター
(写真:アフロ)

コントのナンバーワンを決める『キングオブコント2023』(TBS系)の決勝が10月21日に放送され、サルゴリラが16代目王者に輝いた。

サルゴリラはファーストステージでオチや用意されるアイテムがややこしいマジックのネタ、ファイナルステージでは甲子園進出を逃した選手に対していちいち魚で喩えて励ます野球部監督のネタを披露。両ネタともに、児玉智洋が演じるまわりくどいキャラクターの演技、その言動に苛立つ赤羽健壱の様子などで見る者を引きつけた。

サルゴリラが記録したファーストステージ、ファイナルステージの合計964点は、前年王者のビスケットブラザーズを1点上回って歴代最高得点。また、1979年生まれの児玉智洋、赤羽健壱は史上最高齢での優勝者となった(児玉智洋が43歳、赤羽健壱が44歳)。余談だが、『キングオブコント2023』が放送された大型特番『お笑いの日2023』のオープニングでは、総合司会のダウンタウンが「ふたりとも60歳」と自分たちの年齢を話題にする漫才がおこなわれた。松本人志が「よく言う人、いません? ふたりあわせたらダウンタウン120歳ですねって。なんで合わすねん。合わす意味ある? どういうこと。そんなこと言い出したらトリオはもっとすごいことになる」とボヤくなどした。年齢をネタにしたダウンタウンのオープニングの題材が、サルゴリラの最高齢優勝である意味“回収”されたようでもあった。

「トップバッター不利」「前半の出番は厳しい」の常識を覆して1・2番手がファイナルへ

歴代最高得点、史上最高齢優勝という記録が打ち立てられた今回の『キングオブコント2023』。

だが、ほかにも快挙として触れておきたいことがある。それは出番順の抽選でトップバッターを引いたカゲヤマ、2番手のニッポンの社長がともにファイナルステージへ勝ち進んだことだ。

お笑いの大型賞レースでは、「トップバッターは不利」「前半の出番は厳しい」とされている。その理由は、大会開始直後で会場全体の緊張感がピークに達していること、そしてまだ場が温まっていない状況でネタを見せることなどが挙げられる。また各審査員は、トップバッターの点数をその日の自分の基準点に設定する傾向がある。そのため「高すぎず、低すぎず」の点数が付けられる場合が多い。2番手もそれに近いものがあり、単純に出番順という部分では4番手、5番手、6番手あたりが「やりやすい」と言われている。

実際、トップバッターで『キングオブコント』を制したのは2009年大会の東京03のみ。漫才のナンバーワンを決める『M-1グランプリ』でも1番手で優勝したのは、2001年におこなわれた第1回大会の中川家だけだ。中川家の礼二は、書籍『M-1 完全読本 2001-2010』(2011年/ヨシモトブックス)のインタビューで「トップバッターを引いてしまった時は、絶対無理やと思いました」、剛も「あの後のネタは、あきらめてやってる感じですね」と明かしている。

『M-1グランプリ2021』でトップバッターをつとめて高得点を記録したモグライダーの芝は、書籍『お笑い2022 Volume5』(竹書房)のインタビューで「トップバッターでラッキーでしたね。もともとそっちの方が都合がいいくらいの芸風なので」、ともしげは「トップバッターでラッキーって思うコンビはあまりいないんでしょうけど、僕らには合ってました」と話している。モグライダーにとってはその出番順は向かい風ではなかったそうだが、それでも「トップバッターは不利」という「負の印象」にはなんらかの意識があったことがうかがえる。モグライダーはそれをプラス材料としてとらえたのだ。

途中まで前半3番手までが上位独占「次からくじ運でがっかりすることがない」

苦戦が強いられるとされる、1番手、2番手の「前半組」。だがその出番順を引いたカゲヤマ、ニッポンの社長は、9番手のサルゴリラが登場するまで1位、2位をキープした。しかもカゲヤマがファーストステージは469点、ニッポンの社長が468点。わずか1点差という部分も絶妙だった。前述した内容を踏まえると、これは歴史的な快挙ではないか。また3番手のや団も、8番手のファイヤーサンダーが出てくるまで3位につけてファイナルステージ圏内だった。1番手から3番手までがそのままファイナルステージ進出という「伝説」を築きかけた。

TikTokでは、暫定1位から3位までが座る待機室の模様がリアルタイムで途切れることなく配信されていた。8番手のファイヤーサンダーの点数発表時、テレビ中継では一旦、CMをはさんだが、そのとき暫定1位のカゲヤマ、同2位のニッポンの社長、同3位のや団は「こういう大会があっても良い」と珍しい事態について口にした。「これ超えたら(=ファイヤーサンダーの点数が自分たちに届かなかったら)、マジで現実味がある」と前半3組によるワン・ツー・スリーを夢見ていた。

さらにニッポンの社長の辻は「次からくじ運でがっかりすることがなくなる」と、これからのお笑いの賞レースでは、出番順の有利、不利はそれほど意識されなくなるのではないかと話していた。その後、9番手のサルゴリラにまくられたものの、カゲヤマは2位、ニッポンの社長は3位でファイナルステージへ進んだ。

確かにこの結果はこれからのお笑いの賞レースの出場者に、出番順に対する印象の変化や希望を与えるかもしれない。たとえトップバッターでも心が折れそうになることはないのではないか。また「トップバッターは不利」「前半の出番は厳しい」という「負の印象」が薄まることで、見る側の1番手、2番手の受け入れ態勢にも変化が生まれて、審査員の高得点を引き出しやすくなるかもしれない(特に「笑いの量」を重視する審査員には大きな影響を与えるのではないか)。

最後の出番の難しさ、ラブレターズに松本人志「もっと最初の方やったら」

ただそれでも、1番手、2番手は、その後に登場する芸人やネタをはっきり凌駕するような材料がないと苦しいのも事実。キーワードは「インパクト」だ。

カゲヤマのファーストステージのネタには、後輩のミスをかばって仕事先に全裸で土下座をする先輩の姿があった。その先輩の早着替えも印象深く、謝る見返りとして「牛丼を奢れよ!」と言う清々しさも忘れられない。ニッポンの社長のファーストステージは、ひとりの女性の旅立ちをめぐる友人同士のケンカで、拳で分からせようとするケツに辻がナイフや銃で応戦する内容だった。ともに狂気的な急展開で驚きと笑いを巻き起こした。審査員の松本人志は続くや団の審査時「(や団は)普通なら1位なんだけど、1組目、2組目のインパクトがすごすぎた」、同じく審査員の山内健司(かまいたち)も「1、2組目が凄まじいパンチのネタだったので」「インパクトが出番順で損だったのかな」と口にした。1番手、2番手で勝ち上がるには誰が見てもはっきりと「強烈」と思わせるネタが特に必要なのだろう。

一方、最後に登場することの難しさも改めて感じさせた。『キングオブコント2023』ではラブレターズが10番手だったが、6位という結果に。松本人志は「順番もかわいそうやった。もっと最初の方やったら(点数や順位は)高かった」とラストの出番が響いたとした。審査員の飯塚悟志も「おもしろかったんですけど、レベルが全体的に高すぎて」と話した。全体的なレベルが高すぎた場合、最終出番は逆にすべてを押しのけるパワーがないと厳しい。「笑い疲れ」のような現象にも勝たなければならない。その点で最後もハードルが高い出番順であり、やはり強い「インパクト」が求められる。

出番順に対する考え方に変化が生まれた可能性がある『キングオブコント2023』。なにより、序盤で高得点が出るとこれほどまでに大会はハラハラし、「おもしろい」という意味で混迷をきわめることに気づかされた。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

田辺ユウキの最近の記事