FA丸、「広島残留、地元ロッテより35億の巨人」は球界にとっても良い選択
広島からFAとなった丸は、巨人を選択した。条件は5年総額35億円とも伝えられている。「巨人が総取りしすぎ」「やっぱりカネか」という声も聞こえる。しかし、この結果は球界全体の将来のためには良いことだと思う。
やはり最後は巨人だった
このオフのFA市場最大の目玉だった広島の丸佳浩の契約先は巨人に決まった。古巣広島が4年17億円、出身地千葉のロッテが6年30億プラス監督手形?を提示したようだが、FA市場の文字通りの巨人である読売の5年35億円、そしてやや落ちぶれたとはいえ球界No1のパブリシティ力を前にしては敵ではなかった、ということか。
そして、ネット上では残留を祈っていたカープファンの嘆きの声が広まっているようだ。3年連続リーグ優勝の立役者で2年連続MVPであるチームの顔が流出するとなれば、心情的には理解できる。
見落としてはならない背景
しかし、冷静に事態を把握・評価するにあたっては見落とすことができない背景がある。プロ野球選手はFA権を取得するまで所属先選定の自由がないということだ。このことは、事実上年俸交渉においても対等な権利がないことを意味している。そして、やっと手に入れたFA権である。
今回の契約が示すポジティブな側面
カープファンの落胆は理解できるし、歴史的にもFAをオトナ買いすること、そして得てしてそのFAが期待通りの働きを示していないケースがあることは事実だが、それでも今回の丸と巨人の契約には、プロ野球界の将来を見据えた場合に以下の通り評価すべきポイントも少なくない。
1.目玉選手がちゃんとFA宣言した
近年、「FA宣言後の残留を認めない」と公言してはばからない球団も多かった。この傾向が選手を委縮させ、FA市場がどんどんシュリンクし事実上形骸化していく懸念もあった。FAがスター選手のサラリーを引き上げる状況を作らなければ、平均年俸は上昇しないし、有力選手のメジャー流出に拍車がかかるだけだ。
2. 球団が宣言残留を容認した
これは、1.とも関連するが、西武からFAとなった浅村栄斗(楽天と契約)のケースも含め、「宣言残留を認めない」との発言がこのオフに関しては聞こえてこない。世論の変化を受けた球界内の自粛なのだろうか。本来当たり前のことだがこれもひとつの前進だ。
3. 最高の条件を示した球団を選択した
別に巨人に入ることを良しとしているわけではない。ベストのオファーを受け入れたことに意義がある。
何も「男気」だけが美徳ではない。カープの場合、2014年オフの黒田博樹の「男気」復帰の記憶があまりに鮮烈だった。もちろん、黒田の選択は一服の清涼剤ではあったが、「カネより育ててもらった球団やファンへの恩義」は絶対的な価値観ではない。目の前に5年35億があるのに、4年17億を選んでくれというのは虫が良すぎる。多少の差なら年俸の高さよりも住み慣れた街と温かいファンを優先するという「ホームタウンディスカウント」もあり得るが、この条件はその域を超えている。
「高額契約で巨人に行った選手に成功例が少ない」という声もある。しかし、それは別の次元の問題だし、そもそもFA権取得までの年数が長すぎ、その時点では全盛期の末期に近いケースが多いという事情もある(29歳の丸は違うが)。また、この手の議論においては「高額契約」と「巨人」がごっちゃになるケースが多い。しっかり分けて考えるべきだ。
4.「メジャーへの道が狭い野手でも大型契約」の前例となった
日本球界においては、投手の場合トップクラスになればポスティングでメジャー移籍&年平均10億円超の複数年契約、というのが定着しつつある。しかし、野手の場合はそうはいかない。アメリカで日本人選手への評価が高くないからだ(大谷翔平の活躍で徐々に変化すると思われるが)。
したがって、NPBではスーパースタークラスに上り詰めても、そこから先に手に入れることができる報酬に投手と野手で大きな隔たりが生じている。これは、野球の健全な発展のためには良くないことだ。その意味でも、丸がかなりの好条件を今回確保できたことは大いに意義があると思う。
カープファンよ、丸を温かく迎えよう
最後に述べておこう。来季、丸が巨人の選手として広島に戻って来た際、ファンはブーイングで迎えるのだろうか。行きすぎない程度なら良いと思う。観客にとってはそれもひとつの楽しみだ。しかし、「執拗な」レベルにはならないことを望む。丸がルールに則りようやく全球団と交渉できる権利を得て、自らの努力によって選手としての経済価値を高め、それに見合う条件を手にしたのだから。スタンドで観戦するファンの多くも、より良い労働条件を求めて転職したことがあると思う。むしろ、ここまで丸がカープに多大な貢献をしてくれたことに感謝し、今後の活躍を祈ってあげてほしい。