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『進撃の巨人』のアニメが完結!「巨人の地鳴らし」の威力を計算したところ、本当に世界は4日で滅ぶかも!

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。

マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。

さて、今回の研究レポートは……。

アニメ『進撃の巨人』が完結! 10年にわたる歴史に幕を下ろした。

エレン、ミカサ、アルミン、それぞれの想いが伝わってくる、悲しくも温かい最終回だった。

リヴァイ兵長が飴を配っているシーンもよかった。

……と、余韻に浸りながらも、この機会に考えておきたいことがある。

『進撃の巨人』の最終盤は、「巨人の地鳴らし」をめぐる攻防が描かれたが、エレンが発動したこの作戦は、空想科学的にはどれほど威力があるものだったのだろうか?

劇中では、人類の8割がこれで殺されたとされていたが、いくら巨人とはいえ、歩くだけでそれほどの被害をもたらすのか……?

◆「巨人の地鳴らし」とは?

人間を食べる巨人がウヨウヨいる世界で、主人公のエレンたちは、3重の壁に守られて暮らしていた。

いちばん外側の壁がウォール・マリア、二番目がウォール・ローゼ、いちばん内側がウォール・シーナで、それぞれの壁の高さは50mほどもある。

壁の外に出ると、巨人に食われるから、人間は壁の内側で生きるしかない。

それでも、巨人が侵入してくることもあり、母親を食べ殺されてしまったエレンは「巨人を1匹残らず駆逐する」と決意して、調査兵団に加わる。

ところが、必死で巨人と戦っていくなかで、驚くべきことが判明していく。

巨人から自分たちの街を守る3重の壁のなかには、超大型巨人がぎっしり眠っていた!

壁の外にはマーレ人の社会が繁栄し、エレンたちエルディア人を迫害していた!

3重の壁は、かつてエルディア人の王(第145代カール・フリッツ)が作ったもので、彼は「われわれに干渉するなら、壁に潜む幾千万の巨人が、地上のすべてを平らにならすだろう」と言い残していた。

対立するマーレ人から、パラディ島を守るための防衛策だったのだ。

それを実行に移したのが、エレンだった。

彼は、壁のなかの巨人をすべて目覚めさせ、彼らの一斉行進によって、世界を踏み潰そうとする。

それこそが「巨人の地鳴らし」だ。

◆やはり巨人はオソロシイ

アニメやマンガで開示された情報を元に筆者が計算したところ、3つの壁の総延長は7600kmもある。

なんと日本列島(宗谷岬から与那国島まで2900km)の2.6倍も長く、東京からまっすぐ南に延ばすと、オーストラリアに達するほどの距離だ。

たくさんの巨人が歩き回って、世界を更地にするなど、本当にできることなのだろうか?

その脅威は、①巨人の人数、②移動速度によるだろう。

壁の内部の巨人は身長50mほどで、20代男性の平均体格(身長172cm、体重67kg)から計算すると、その体重は1650tとなる。アフリカゾウが7.5tだから、その220倍だ。

巨人の人数についてフリッツ王は「幾千万」と言い残しているが、これは「数千万」という意味でなく「数が多い」という意味だろう。

実際にどれほどいるのか、前述の壁の総延長から考えよう。

アニメの描写や、マンガコマで測ると、巨人たちの肩幅は12mほど。この体格で一列に隙間を空けずに並んでいたとすると、7600kmの壁のなかに入る巨人は合計63万体!

そして、歩く速度。

巨人の身長は人間の29倍であり、この体格なら、計算上は人間の5.4倍のスピードで歩くと考えられる。

人間の歩行速度は時速4kmだから、彼らは時速21.6km。

というのは甘いヨミであり、どうやら馬の駆け足よりも速いほどのスピードで歩けるようだ。

調査兵団の馬は「トップスピードは時速75~80km」で、さらにハンジ・ゾエは「半日もあれば巨人が上陸した海岸からおよそ600kmは…被害に…」とも言っていて、「半日」を6時間とすれば、時速100km。

巨人の歩行スピードは、予想外に速い!

◆世界はたちまち滅び去る!

体重1650tが時速100kmで歩くと、1歩踏んだだけで、爆薬5.9kg=ダイナマイト30本分の破壊力になる。

人間の歩幅を60cmとして計算すれば、巨人の歩幅は17.4mで、これで時速100kmなら、1歩あたり0.63秒。1分も歩けば、地面を96回も踏むのだ。

そんな巨人が63万人、勢ぞろいしてやってくる。

彼らが1分間に地面を揺らすエネルギーを地震に換算すると、マグニチュード6.9!

その揺れが、1分ごとに!

普通「地ならし」は「地均し」と書き、地面を平らにすることを指す。

でも、マンガ『進撃の巨人』ではあえて「地鳴らし」と表記してあって、それは大変な地鳴りがするからに他なるまい。

計算すると、本当に怖い。

地面を踏むエネルギーの1%が音に変わると仮定すると、巨人の隊列から千km離れたところ(東京-鹿児島くらい)でも、地下鉄の車内と同じ100デシベルの轟音が聞こえる。

10km離れた地点だと、ジェット機のエンジン音を間近で聞くくらいの120デシベル、1kmとなると人間の聴力限界(失神してしまう)の130デシベル。

これで全世界を突き進むと、いったいどうなるのか?

アニメの描写から、巨人たちは肩幅ほどの間隔で左右に展開し、前後に10体ほど並ぶと考えよう。

この隊列なら、左右には6万3千体が並ぶことになり、端から端まで152万m=1520km(青森-鹿児島くらい)の幅で大進撃。

これが時速100kmで進むのだから、1時間に15万2千km²、北海道(8万3424km²)の1.8倍の面積が更地になっていく。

そして、『進撃』の世界の陸地がわれわれの地球と同じ1億5336万km²なら、全陸地は1009時間=42日で更地に……!

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

ハンジは「すべての大陸を踏み潰すまでには4日…掛かるだろう」と言っていたが、巨人が63万人よりも多ければ充分可能だし、筆者計算の63万人でも、横一列に並べば4.2日で更地化は完遂される!

オソロシイ! 人類の8割がこれで命を失ったというのもナットクの脅威である。

エレンはミカサやアルミンのことを思い、パラディ島を守るために、「巨人の地鳴らし」を発動した。

だが、その力があまりに強大だったがゆえに、悲しい戦いに至ってしまった。

全体の構想も、そこで描かれた戦いも、壮大なスケールの作品であった。

10年間(マンガを含めれば14年間)も楽しませていただき、深く感謝したい。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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