北朝鮮で「選挙ポスター」破られ落書きも…反体制か、当局警戒
北朝鮮の道、直轄市、市、区域、郡の人民会議(地方議会)の代議員選挙が26日行われた。国営の朝鮮中央通信は、中央選挙指導委員会の集計として、有権者の99.63%が投票したと報じた。
この記事を、前回2019年の選挙結果を報じた記事と見比べると、この一節が消えていることがわかる。
選挙結果の集計によると、全国的に選挙人名簿に登録された全ての選挙人の99.98%が選挙に参加して当該の選挙区に登録された道(直轄市)・市(区域)・郡人民会議代議員候補に100%賛成投票した。
今回からは複数の候補から選ぶ形となったため、「100%賛成投票」という部分がなくなった。
今までは誰が候補かも知らないままに、ただ投票所に行って賛成票を投じるだけだったが、今回からは町の至るところに候補者の写真と経歴が掲示されるようになった。しかし、せっかくの選挙ポスターをゆっくり見ることはできなかった。いったい何が起きたのか。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が内幕を報じた。
両江道(リャンガンド)の情報筋によると、朝鮮労働党両江道委員会(道党)は13日、他の選挙区に先駆けて、道内の甲山(カプサン)郡の選挙区をモデルケースにして、予備選挙で選ばれた二人の候補の写真と経歴を貼り出した。
ところがその日の夜、ポスターが破られ、落書きがされる事件が発生した。
日本の公職選挙法の225条の第2項は、「交通若しくは集会の便を妨げ、演説を妨害し、又は文書図画を毀棄し、その他偽計詐術等不正の方法をもつて選挙の自由を妨害」する行為を行った者に対して、4年以下の懲役、禁錮、または100万円以下の罰金に処すると定めている。ただ、被疑者は概ね不起訴処分になるようだ。
一方の北朝鮮では、非常に重い罪に問われる。朝鮮労働党や金正恩総書記の権威に挑戦するものと見なされるからだ。
(参考記事:若い女性を「ニオイ拷問」で死なせる北朝鮮刑務所の実態)
本人はもちろん、家族も連座制により管理所(政治犯収容所)送りにされる可能性がある。最悪の場合は処刑される。そればかりか、勤め先の上司や選挙の関係者までもが責任を取らされることもある。
道党は、事件を極秘扱いし、選挙ポスターの本格的な掲示を遅らせた。重要な政治的行事の際にはいっさいの事件、事故の発生を許さないのが北朝鮮のお国柄だが、選挙ポスターの毀損が明るみに出ると、道党の関係者にも累が及ぶ可能性があるからだろう。
結局、18日に各選挙区の警備人員を、地域住民から地域の民防衛隊と党幹部へと総入れ替えする作業が行われた翌日になってようやく、候補者のポスターが貼り出された。道代議員候補を選ぶ予備選挙は3日、恵山(ヘサン)市の代議員候補の予備選挙は13日に行われたが、候補者の発表が遅れたのは、それだけ世論が悪化している証拠だと情報筋は見ている。
「当局への住民の不満が選挙場(投票所)の火災や掲示物毀損に繋がりかねないとして、非常警戒を行っている」
(情報筋)
しかし、警備人員の総入れ替えを受けて住民からは「党は人民を信じていないのか」と揶揄する声が上がる始末だ。
別の情報筋によると、警備があまりにも厳戒になったため、ほとんどの住民は投票所のそばに近寄ることすらためらうほどだという。
熱心にポスターを覗き込みでもすれば、警備員から疑惑の目でにらまれ、とても候補者の経歴を読むことのできる空気ではないとのことだ。これでは本末転倒だが、代議員会議は代議員がお上から示された議案を賛成するだけの「シャンシャン大会」なので、誰がなろうとあまり関係はない。