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ヘンリー公爵の回想録『スペア』でウィリアム皇太子とのハルマゲドンが始まった

木村正人在英国際ジャーナリスト
故エリザベス英女王の葬送で行進するウィリアム皇太子とヘンリー公爵(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

■「ウィリアム皇太子は内心、燃え盛っている」

英王室を離脱したヘンリー公爵=王位継承順位5位=が1月10日発売の回想録『スペア』で王位継承者に何かあった時の「予備」としての宿命を赤裸々に語ったことについて、英日曜紙サンデー・タイムズは「兄のウィリアム皇太子は沈黙を守っているが、内心は燃え盛っている。兄弟のハルマゲドン(終末戦争)が始まった」と報じている。

同紙によると、兄弟の友人は「ウィリアム皇太子は自分がヘンリー公爵の怒りの『格好の標的』になっていることを自覚している。それでも兄弟は5月6日に執り行われる父、チャールズ国王の戴冠式で相まみえることを期待している」と語っている。かつて王室をともに盛り立てる「戦友」だったヘンリー公爵はウィリアム皇太子を今や「宿敵」とみなしている、

ヘンリー公爵はジャブで相手の出方を探るボクサーのように、米人気司会者オプラ・ウィンフリー氏とのインタビュー、大手ストリーミングサービス、ネットフリックス(Netflix)のドキュメンタリーでウィリアム皇太子の反応を見たあと、『スペア』で最後の攻勢に出た。サンデー・タイムズ紙は「ヘンリー公爵はウィリアム皇太子の人格暗殺に出た」と分析する。

■「報復はウィリアム王子の流儀ではない」

兄弟の友人は「ウィリアム皇太子が沈黙を守っているのは、報復がウィリアム皇太子の流儀ではないからだ。彼には威厳があり、信じられないほど君主と王室に忠実だ。報復などしない。ヘンリー公爵は兄が報復してこないことを知っている。ウィリアム皇太子はいいカモなのだ。反撃してこないカモには何発でも当てられる」と同紙に打ち明ける。

それによると「ウィリアム皇太子は不安であり、悲しんでいる。彼は妻キャサリン皇太子妃とジョージ王子、シャーロット王女、ルイ王子に集中し、王室の他のメンバーにも気を配らなければならない。彼は外見上うまく対処しているが、内心は燃え盛っている」「故エリザベス女王を見習って個人的な感情より王室や公務を優先させるだろう」。

『スペア』ではチャールズ国王も哀れで感情のない父親として描かれている。故ダイアナ元皇太子妃の死を息子たちに伝えた時も抱きしめもせず、2人の王子が「継母」はいやだと嘆願したにもかかわらずカミラ王妃と再婚。王子やその妻の人気が自分を凌駕することに嫉妬している。しかし「それでもウィリアム皇太子への攻撃よりはましだ」(同紙)という。

■「ヘンリー公爵は5月6日の戴冠式のために英国に戻る」

ヘンリー公爵の行いは戴冠式への出席に疑問を投げかけるものの、同紙によると、彼に近い筋は「ヘンリー公爵は5月6日の戴冠式のために英国に戻る。父の重要な瞬間に敬意を評したいと思っている」と考えている。ヘンリー公爵が戴冠式に出席したとしても、チャールズ国王の王冠に触れ、右頬にキスをする前に跪くのはウィリアム皇太子ただ1人だ。

英BBC放送は各メディアの報道も含めてヘンリー公爵が『スペア』で行ったセンセーショナルな主張をまとめている。それによると――。

(1)ヘンリー公爵とウィリアム皇太子はチャールズ国王にカミラ王妃と再婚しないよう懇願した。ヘンリー公爵はカミラ王妃が自分にとっていつか「邪悪な継母」になるのではないかと心配した。しかしカミラ王妃がチャールズ国王を幸せにできるなら、ヘンリー公爵もウィリアム皇太子も心の中でカミラ王妃を受け入れるつもりだった。(英大衆紙サン)

(2)ダイアナ元妃が亡くなった時、自分の感情を表現するのが苦手だったチャールズ国王はヘンリー公爵を抱きしめなかった。心の整理をつけるためヘンリー公爵はダイアナ元妃が亡くなった事故の車のルートをたどってみたが、逆にダイアナ元妃の死因の公式発表に疑問を抱くようになった。

■ヘンリー公爵が童貞を捨てたのは17歳

(3)ヘンリー公爵は17歳の時、パブ(大衆酒場)の裏の野原で年上の女性と初めて体験した。「女性はヘンリー公爵を若い種馬のように扱った。屈辱的な体験だった」。コカインを勧められて使用したのも17歳の時だった。

(4)2005年の仮装パーティーの前、ナチスの制服を着けたヘンリー公爵をウィリアム皇太子とキャサリン妃は笑った。

(5)12~13年アフガニスタンでヘリコプターのパイロットとして勤務していた時、6つのミッションに参加した。「戦闘の熱と混乱の中に身を置いている時、25人を人間だとは思わなかった。彼らは盤上から取り除かれたチェスの駒であり、善良な人々を殺す前に排除された悪人だった」

(6)13年の夏の終わりまで、無気力と恐ろしいパニック発作の時期を交互に繰り返していた。

(7)ウィリアム皇太子とキャサリン妃はメーガン夫人が出演していた米人気テレビシリーズ『スーツ』のファンで、ヘンリー公爵が交際していた恋人を明かすと、2人の「開いた口はふさがらなかった」。しかしウィリアム皇太子は「彼女は米国の女優だ。何が起こるか分からない」と忠告した。

(8)メーガン夫人が18年イベントの直前にリップグロスを貸してほしいと頼み、キャサリン妃を怒らせた。メーガン夫人が指に少しつけて唇に塗ると、キャサリン妃は嫌な顔をした。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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