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情報氾濫時代の就活をどう乗り切るか、就活の真実に迫る。

佐藤裕はたらクリエイティブディレクター
新型コロナウイルスで大きく影響を受ける21就活市場(写真:森田直樹/アフロ)

新型コロナウイルス感染防止対策を受けて、学校の臨時休校、イベント中止、外出自粛など、この先どうなるか分からない2020年度の就活。さまざまな情報が飛び交う今だからこそ、“真の情報”を得ることが就活を成功に導くことになる。新卒者向け求人サイトや合同説明会では教えてくれない就活の真実と、新しい取り組み方。学生に有益な情報を発信する、就活クチコミサイト「ワンキャリア」の寺口 浩大氏をゲストに迎えて話を伺った。

SNSで広がる就活生の「不安の声」を払拭するために、真実を届けます

寺口:Twitterで「リアルタイム検索」をしてみると、「就活不安」、「合説中止」、「就活中止」、「コロナ就活」、というワードがライムライン上に溢れていますね。

佐藤裕:そりゃそうですよ。学生にとっては、ただでさえ、就活って何をしたらいいかわからず不安を抱きやすいのに、新型コロナウィルス感染拡大の影響で、さらに先行きが不透明な状況になっていますからね。

寺口:就活生はどうしたらいいのか、一日一日が不安で仕方ないと思います。こういった状況だからこそ、企業の採用担当や、社会人の先輩である我々の存在意義が試されると思うんです。

佐藤裕:同感です。新型コロナウィルスの感染が拡大する前までは、7月に開幕する予定だった東京オリンピック前に一斉に内定を出すというのが、企業側が立てた2020年度の新卒採用スケジュールでした。ところが東京オリンピックの1年延期が決まり、多くの企業がコロナの影響次第で秋採用まで戦う準備をするなど人事界隈は大混乱しているようです。ただ、その事実がちゃんと学生に届いていない。

寺口:そこに、長らく続く日本式就活の不透明性が露骨に表れていますね。確かな情報をきちんとキャッチし、日々状況が変わる新型コロナウィルス対策による就活への影響を把握したうえで、今年は就活に向き合わなければなりません。そういった意味でも、何が正しい情報か、就活にとって有益な情報は何か、そを精査する能力が問われています。

佐藤裕:それが出来ず、浅い知識のままだと、きっと人気企業ランキングに名を連ねる企業に上から順にエントリーするような“超ミーハーな就活”になってしまうでしょう。そこが心配です。新型コロナウィルス対策が就活に与える影響については、きちんと伝えしなければなりませんが、まず就活生には就活関連のイベントが次々と中止になる状況を重く捉えて、就活への取り組み方をきちんと理解してもらうことが必要ですね。

ワンキャリア寺口 浩大氏(撮影:干田 哲平)
ワンキャリア寺口 浩大氏(撮影:干田 哲平)

情報を斜めに読み解いて、「就活」の戦闘力をアップさせる

寺口:まず、知っておいてもらいたいのが、裕さんが出版した本にも書かれていましたが、日本で「熱意を持って働いている人」の割合が6%しかいなかったり、社会人10年目までの人の約40%が就活を後悔していたりというショッキングな事実があること。

佐藤裕:実際に数字で表されるとリアルで、怖いですね。

寺口:ただ、これが就活の実情なんです。

佐藤裕:こういったネガティブな情報は、企業側は発信することを避けたがりますからね。

寺口:むしろ、こういった情報の方が、就活生にとっては有益なはずなのに。

佐藤裕:企業と学生の中立的な立場のように見えますが、「新卒者向け求人サイト」って、応募者を集めることが企業にとっては最大の目的なので、ポジティブは面をアピールすることが大半。ネガティブな情報はほとんど掲載さていないんですよ。このことからも、就活において、企業と学生がフェアという考えを、学生には捨てて欲しい。

寺口:厳しいですが、そこまで言い切っていいと思います。採用する企業にとっては、就活が毎年恒例のイベントになっていますが、就活生のほとんどは「就活1年生」として就活に向き合うので、企業と就活生の経験値に大きな差がありますよね。この点からも、フェアとは言いにくいです。内定が出てからも、承諾するか、辞退するかの選択を失敗すると、明らかに企業よりも就活生の方がダメージが大きい。

佐藤裕:そういった企業と就活生のズレって本当にたくさんあって、 3月に多くのメディアが報道する「就活解禁」というのも、ちょっと間違っていて。あれは本来、経団連に所属する企業が採用活動行うにあたって、「広報解禁」することを意味していますからね。

ワンキャリア寺口 浩大氏(撮影:干田 哲平)
ワンキャリア寺口 浩大氏(撮影:干田 哲平)

寺口:メディアがキャッチーな聞こえ方に、変換しちゃったんでしょうね。

佐藤裕:そうやって就活中に耳にするたくさんの情報を、「本当の情報か?」と1度疑って、正しく読み解くことができると、就活における戦闘力はグッとアップしていきます。

寺口:“偽りのない情報”で言うと、学生時代の先輩に話を聞くことをおすすめしたい。実体験に基づく確かな情報が仕入れられるはずです。

佐藤:利害のない関係性なら、さまざまな忖度も無いので、確かな情報と言えますね。先輩に話を聞くなら、複数の方に話を聞くことをおすすめします。また、学生の先輩だけでなく社会人として第一線で活躍している人や、30歳前後でマネジメントを経験している人などにも話を聞くと、多くの価値観に触れることができるでしょう。

寺口: こういった“情報の仕入れ方”はあくまでも、就活を始める前に知っておいてもらいたい基本的な話になりますね。では、どうやって志望企業に出会い、入社する企業を決めるかということをお伝えしていきましょう。

「就社」と「就職」の違いを、きとんと理解しておこう

はたらクリエイティブディレクター 佐藤 裕(撮影:干田 哲平)
はたらクリエイティブディレクター 佐藤 裕(撮影:干田 哲平)

佐藤裕:まず、志望企業を見つける上で、職に就く「就職」と、会社に就く「就社」が違うことを伝えたいです。

寺口:よく言われることですが、終身雇用が破綻し始めた現代においては、入社することがゴールではありませんからね。

佐藤裕:そうなんです。もし、新卒で有名企業に入ることをキャリアデザインのゴールに置くなら、その企業の情報収集と面接練習を徹底的にすれば、かなりの確立で内定を獲得することができると思います。ただ、就職はあくまでもキャリアデザインの始まりであって、ゴールではありません。自分の人柄や能力をありのまま伝えて、選考に落ちてしまったとしても、それは就活生の適性がその企業に合わないと判断された結果。つまり、入社したとしても、その後にミスマッチが起こる可能性が高いと考えられるため、入社しない方がいいとも言えますね。

寺口:ある大手企業の人事部長に、「最近の学生は、なぜみんなビジョンを語ってくるの?」と聞かれたことがあって。その人は、「なんだか分からないけど、とにかくがむしゃらに頑張りたいです」と素直な声を聞きたいと言っていました。面接では、何を話すかという「ワード」よりも、真摯に仕事と向き合おうとする「姿勢」が重視されるんだと思います。

佐藤裕:社会に出て働いた経験が無いんだから、ビジョンが漠然としているのは、むしろ自然なことですね。私も、面接官を務めることがあるので、とても共感できます。寺口さん、突然なんですが、ガイアナ共和国って知っています?

寺口:ガイアナ共和国? 知りません。

佐藤裕:学生に同じ質問をすると、もちろん知らない。それで、国旗を見せると、その少ない情報から、なんかアフリカの国っぽいぞ、とイメージを膨らませて話し出す。実際は、南米にある国なんですが、情報や経験が少ない中で、ガイアナ共和国について詳しく語るなんて無理ですよね。就活も、これと同じで、社会い出て働いた経験がないのに、“この仕事に就きたい”と決め込むのって、とても怖いことなんですよ。それを学生自身に気づいてもらいたい。

寺口:なるほど。就活が始まると、大人が将来のビジョンについて質問をしすぎるから、「何か答えを持っておかなきゃ」と学生を焦らせるのかもしれませんね。ただ、就活用に絞り出したビジョンを何度も真剣に語っているうちに、それが夢だと自分を洗脳してしまって、何が自分の本質か分からなくなっていく学生が多くなっていそうですよね。

佐藤裕:まさにその思い込みが、入社後に会社とのミスマッチが生まれてしまう原因ですね。

あなたは、自分の時間をどの企業に投資するか。それを決めるのが「就活」

寺口:実際にインターンを通じて興味を持った職種なら、まずはその道からキャリアを始めるということがいいと思います。そういった経験が無い学生であれば、自分の働く時間を、どの職、どの企業に投資したいかと考えるといい。そうすると、入社したい企業を見つけやすくなると思います。

佐藤裕:社会人になると分かるけど、「時間」は「お金」以上に価値がありますからね。

寺口:将来性がある分野に自分の時間を使いたいとか、高齢者のために自分の時間を割きたいなど…。そこで費やした時間が、ビジネスパーソンとしてだけでなく、将来の自分への先行投資にもなるわけです。

佐藤裕:その考え方だと、企業のIR資料を見ると、目的が達成できる会社を見つけやすくなりそうですね。

寺口:そうなんです。IR資料は、採用ページよりもその企業の事実が記載されていますから、就活にも有益な情報を得ることができます。

佐藤裕:就活生を、働く場所を企業から与えてもらっている側ではなく、自分の時間や労働力を企業に投資している側として捉えると、企業に選ばれる立場から、企業を選ぶ立場に逆転しますね。

寺口:私も、その意識改革が狙いです。この価値観が広がれば、就活の不透明性が解消されていくと思っています。

佐藤裕:立場を逆転させるためにも、就活生が面接官に対して、「なぜ、この企業で務めていますか?」と質問して、その理由を説明してもらう。そうすることで、建前だけでない、いち個人の目線で企業の実態や体質を知ることができますね。

新型コロナウィルス感染拡大による、今後の「就活」をどう乗り切るか

寺口:新型コロナウイルスに関しても、就活と同様に情報収集が大切ですね。

佐藤:混乱を極める有事の際には、SNSで広がっているフェイクニュースや、悪気のない友人からの噂話をあまり真に受けないことが重要です。

寺口:そのような情報によって、不安になり時間を浪費するのは、無駄すぎますからね。こんな時こそだらこそ、特に裏取りを厳しく行なう固いメディアを、例えばNHKや日経新聞といったメディアをこまめにチェックし、情報をキャッチする能力を高めてほしい。

佐藤裕:いつも就活生に就活の有識者に話を聞く時は、その人のプロフィールを読み込んだ方がいいと伝えてきました。自分にとってメリットがありそうな話ならしっかり耳を傾け、そうでなければ流してしまうということもありです。私たちの言っていることも、どう捉えるかは就活生の判断でいいと思っています。

寺口:就活が成功だったかどうかを決めるのは、最終的には本人の“納得感”ですもんね。私もリーマンショックを経験している世代です。敢えて厳しい言い方になりますが、就活が上手くいかなかったとしても、新型コロナウィルス感染拡大を言い訳にはできないし、誰も責任を取ってはくれない。ただ、あまり思い詰めず、たまには緊張の糸を緩めることがあってもいい。例年よりも長丁場の就活になる可能性が高いので、たまには孤独から解放される時間を作って、この大きな変化を何とか楽しむ工夫をしてみてほしいです。

ワンキャリア寺口 浩大氏×はたらクリエイティブディレクター 佐藤 裕(撮影:干田 哲平)
ワンキャリア寺口 浩大氏×はたらクリエイティブディレクター 佐藤 裕(撮影:干田 哲平)

これまでの世界、常識が通用しない環境だからこそ

今回の寺口氏との対談では「出来る限り人事の裏側」をオープンにしていこうという軸で話はスタートしています。今の21就活、22就活でカギになるのが「正しい情報」です。Simpleに新卒採用のリアルを把握することで見える景色、やるべきアクションが見えてきます。

コロナ禍の就活を先輩は経験していません。もちろん親も企業もキャリアセンターも経験がないのです。つまり、就活に関わるすべての人が初めての異常体験をしている中でそれぞれが思考して行動しているのです。だからこそ、就活生は誰が最前線のリアル情報を持っているのか。そして利害なくその情報を提供してくれるのかを把握することが重要になる。

今、就活生が出来る事は「公式と本物」を選定すること。企業の「公式HP、SNS」には最新情報がある。そして、コロナ禍での新卒採用最前線、学生・大学・エージェント市場の動向を理解している社会人は、「どの場所で、どの方向に向かって、どれくらいのパワーで」活動すべきかを支持してくれる。

目的は就社ではなく就活。外出自粛で家で考える時間がある今だからこそ、自身の状況やコンディションを客観的に整理して、市場動向をみてまず、どこから一歩踏み出すかを考え抜きましょう。

はたらくを楽しもう

はたらクリエイティブディレクター

はたらクリエイティブディレクター パーソルホールディングス|グループ新卒採用統括責任者、キャリア教育支援プロジェクトCAMP|キャプテン、ベネッセi-キャリア|特任研究員、パーソル総合研究所|客員研究員、関西学院大学|フェロー、名城大学|「Bridge」スーパーバイザー、SVOLTA|代表取締役社長、国際教育プログラムCAMPUS Asia Program|外部評価委員などを歴任。現在は成城大学|外部評価委員、iU情報経営イノベーション専門職大学|客員教授、デジタルハリウッド大学|客員教員などを務める。 ※2019年にはハーバード大学にて特別講義を実施。新刊「新しい就活」(河出書房新社)

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