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映画「スーパーマリオ」の大ヒットが予感させる、ゲーム映画の黄金時代

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
(出典:映画「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」公式サイト)

日本でも先週末から公開された映画「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」の勢いが止まりません。

日本での公開初日から3日間の観客動員数は、ユニバーサル作品としても歴代No1の18億円を達成。

さらに、一足早く公開された海外でも、4週連続でトップの座を守りつづけ、全世界の興行収入は10億ドルを突破。

公開から1ヶ月足らずで早くも歴代のアニメ映画史上で10位の興行収入となり、今年最大のヒット映画になる可能性も見えてきました。

参考:映画「スーパーマリオ」世界興行収入10億ドル突破、アニメ映画史上10位に浮上

映画全体の興行収入でも歴代43位まであがっており、今の勢いを考えれば歴代トップ20やトップ10もあり得ない話ではなくなってきています。

ここで注目したいのは、今回の映画「スーパーマリオ」の大ヒットは、単なるヒット映画の1つとしてではなく、ゲーム映画の黄金時代の扉を開いた映画として歴史に名を残す可能性が高いという点です。

ゲームを原作とした映画は失敗する?

ゲームを原作とした映画は、この30年近くの間にさまざまな映画が制作されてきましたが、映画の興行成績上歴史に残るような10億ドル超えの大ヒットは生まれてきませんでした。

もちろん、日本では「ポケットモンスター」の映画が23作品と、世代を超えて長く愛される映画となっていますし、海外でも「バイオハザード」や「トゥームレイダー」など様々なゲームが映画化されています。

ただ、興行収入の面で見ると、バイオハザードが3億ドルを達成した事がある程度。

一方、ゲーム映画化の失敗事例としては、1993年に50億円を投じて歴史的な大失敗と言われた「スーパーマリオ」の実写映画や、2001年に150億円以上を投じて130億円もの特別損失を計上することになった映画「ファイナルファンタジー」のケースがあり、ゲームを原作とした映画は失敗するイメージを持っている業界人が多かったのです。

ゲームを積極的にプレイする人と、映画を観に行く層は根本的に違う、というのが業界の基本的な認識だったと言えるでしょう。

ゲーム映画が徐々に安定してヒットするように

しかし、この傾向が、ここ数年変わりはじめています。

2019年に公開された映画「名探偵ピカチュウ」は4.3億ドルを超えるヒットになりましたし、2022年に公開された映画「アンチャーテッド」や映画「ソニック・ザ・ムービー/ソニック VS ナックルズ」も4億ドルを超えました。

いずれの映画も、現在の映画の歴代興行収入トップ200に入ることはできていませんが、安定してゲーム映画が3億〜4億ドル台の興行収入はあげられるようになってきているのです。

そして、今回映画「スーパーマリオ」が10億ドルを楽々と越える大ヒットになったことで、映画業界のゲーム映画に対する視線は大きく変わることになるはずです。

もちろん、今回の映画「スーパーマリオ」だけが特別という可能性も否定はできませんが、実はここ数年、これからゲーム映画のヒットが増えると考えられる変化がいくつも起きています。

特に大きなポイントは下記の3点です。

■ゲーム世代が大人にも拡がった

■ゲーム会社に映像化のノウハウが溜まってきた

■映画館での映画鑑賞の意味が変わってきた

1つずつご紹介しましょう。

■ゲーム世代が大人にも拡がった

まずこの点については説明は不要でしょう。

ファミコンが世の中に登場したのは1983年、プレイステーションが登場したのは1994年のこと。

家庭用ゲーム機が世の中に登場して、40年という月日が流れているわけです。

当時、家庭用ゲーム機のゲームというのは子ども向けの娯楽のことであり、大人が遊ぶものではありませんでした。

1993年に映画「スーパーマリオ」が公開され大失敗したときには、まだまだ映画の対象は子ども世代だけでした。

それが現在、当時ファミコンでマリオブラザーズをプレイしていた世代は立派な大人になっており、マリオのゲームを体験している世代が大きく拡がっているのです。

今回の映画「スーパーマリオ」では、大人世代がドンキーコングやマリオブラザーズの歴史について、子ども世代に説明するシーンが全国の映画館で観られます。

幅広い世代に、それぞれ自分のマリオのゲーム体験が存在するわけです。

なにしろ、世界のゲーム人口は今や37億人で、世界の2人に1人がゲームをプレイしているという調査結果もあるほど。

参考:今や世界の二人に一人がゲーマーの時代!世界的なゲーム人口が37億人を突破

実は、ゲームには、マリオブラザーズ以外にも、マンガや小説よりもはるかに原作のファンが多いコンテンツがたくさんあるわけです。

■ゲーム会社に映像化のノウハウが溜まってきた

さらに、ゲーム会社側も自社のゲームの映画化やドラマ化のノウハウが溜まってきている点も、重要な変化と言えます。

今回の任天堂の映画「スーパーマリオ」への挑戦と成功には、おそらくは2019年の映画「名探偵ピカチュウ」での経験が生きていると思われます。

どちらの映画でも、任天堂やポケモンのメンバーが、映画制作会社側とかなり密なコミュニケーションを取っていたようです。

一方のソニー、プレイステーション陣営も、2019年に同社のゲームコンテンツの映像化のための専門会社として「PlayStation Productions」という子会社を設立。

この会社が映画「アンチャーテッド」や「The Last of Us」のドラマシリーズ化などの映像化の立役者として機能しており、直近では9月に「グランツーリスモ」の映画公開を発表するなど、複数の映像化プロジェクトが走っているようです。

参考:映画『グランツーリスモ』予告編公開。実話に基づく「ゲーマーからプロレーサーへの道」

実は、これに呼応するように、任天堂も2022年7月に、モーションキャプチャー事業を主力としていたダイナモピクチャーズ株式会社をベースに、ニンテンドーピクチャーズ株式会社を設立しています。

ゲーム会社自体も、映像化への注力や組織作りを明確に行ってきているわけです。

■映画館での映画鑑賞の意味が変わってきた

さらに最も重要な変化と言えるのが、映画館での映画鑑賞自体の意味の変化です。

今回の映画「スーパーマリオ」をめぐる議論で非常に興味深い現象と言えるのが、映画を観た一般の観客による映画への評価は非常に高いのに対して、映画のプロの批評家の評価が非常に厳しいものだったという点です。

これは、映画のプロの批評家が、映画「スーパーマリオ」を従来の「映画」の枠の中で評価しているために、おきている現象だと説明できます。

従来の「映画」として期待して観るから、「映画にはストーリーが必要」という議論が発生するわけです。

参考:「マリオにストーリーは必要なのか?」映画公開を受けあらためて考える

一方、映画をご覧になった方は納得されると思いますが、映画「スーパーマリオ」はある意味でゲームプレイ応援的な側面が強い映画と言えると思います。

実は、昨今の大ヒットする映画の多くが、こうした応援や推し活的な要素を含んでいることが分かってきています、

映画「ONE PIECE FILM RED」のように音楽ライブを疑似体験できる映画。

映画「THE FIRST SLAM DUNK」のように試合観戦を疑似体験できる映画。

劇場版「名探偵コナン」のように推しのキャラを応援することができる映画。

そうした映画は、映画館でこそ観る意味がある映画と言えますし、ファンが何度も映画館に繰り返し足を運ぶ意味があります。

そのために、大きな興行収入をあげることができていると考えられるのです。

大ヒットした劇場版「鬼滅の刃」でも、煉獄さんを応援するファンが多数発生したことが記憶に新しい方も多いのではないかと思います。

実は、従来の映画評論家が高く評価するようなストーリー重視の映画は、Netflixなどの動画ストリーミングサービスで、家で観れば十分と考える観客が増えてきています。

これから映画館にとって重要なのは、従来通りのストーリー重視の映画ではなく、映画「スーパーマリオ」のような応援や体験要素の強い映画になる可能性が高いとも考えられるわけです。

ネットのライブ配信も、試合観戦も

冷静に振り返ってみると、実はゲーム観賞やゲーム応援というコンテンツは、既に様々な分野で重要な人気コンテンツとなっています。

YouTubeのライブ配信で人気のコンテンツと言えば「ゲーム実況」ですし、ライブ配信の同時接続数の世界記録をもっているのも、ゲームの世界大会です。

こうしたゲーム実況人気はテレビ番組にも派生しており、最近では「有吉ぃぃeeeee!」のように、ゲームプレイ自体がテレビ番組のコンテンツになる時代になっています。

さらに、eスポーツの人気上昇に伴い、ゲームの大会の観戦も、さいたまスーパーアリーナが満員になる規模で開催される時代になっているのです。

参考:さいたまスーパーアリーナが超満員に!なぜeスポーツ観戦が盛り上がっているのか?

既にゲームは、さまざまなシーンでエンタメの主役の1つになっていると言えます。

今日まで、ゲーム原作の映画が映画業界において主役の座になれなかったのは、過去の大きな失敗がトラウマになっていた影響だと考えると、映画においてもゲーム映画の黄金時代がこれから到来するのは必然と考えることも出来るかもしれません。

ゲーム映画が映画館の主役になる日

ゲームの映画化については、映画「スーパーマリオ」にも携わった宮本さんが興味深い発言をインタビューでされています。

それは「ゲームの映画化って大体面白くならないんですよ。なぜならゲームとはインタラクティブなものであり、物語はプレイヤーの中で自然と出来上がっていきます。」というものです。

参考:【インタビュー】【完成版】宮本茂氏「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」インタビュー

今回の映画「スーパーマリオ」の大ヒットを見る限り、そうしたゲームの映画化の難しい課題の乗り越え方を、任天堂や宮本さんは1つクリアしたように感じます。

1つのステージをクリアしたからには、間違いなくさらに高いハードルを設定して次のステージに挑むことになるのが、マリオというキャラクターの宿命であり運命のはず。

これから任天堂や宮本さんが、ゲームの映画化に注力してくれるのであれば、間違いなく今回の映画「スーパーマリオ」の大ヒットは、単発での偶然や奇跡ではなく、ゲーム映画の黄金時代の到来の入り口だったと振り返ることになるはず。

まずは、今回の映画「スーパーマリオ」がどこまで記録を伸ばしてくれるかを楽しみにしたいと思います。

noteプロデューサー/ブロガー

Yahoo!ニュースでは、日本の「エンタメ」の未来や世界展開を応援すべく、エンタメのデジタルやSNS活用、推し活の進化を感じるニュースを紹介。 普段はnoteで、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についての啓発やサポートを担当。著書に「普通の人のためのSNSの教科書」「デジタルワークスタイル」などがある。

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