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支配人から訴えられた「スーパーホテル」 人気ビジネスホテルの疲弊する現場と悲鳴

瀧澤信秋ホテル評論家
合理性の追求が際立つスーパーホテル(筆者撮影)

人気ビジネスホテルとして知られる「スーパーホテル」が提訴されたというニュースが大きく拡散している。

全国で130店舗以上を展開するビジネスホテルチェーン「スーパーホテル」(本社:大阪府大阪市)の支配人だった男女が、未払いの残業代など計約6200万円を求め、5月28日、東京地裁に提訴した。提訴したのは、「スーパーホテルJR上野入谷口」で支配人として勤めていた男性Sさんと、副支配人だった女性。同ホテルの「支配人」「副支配人」の多くが業務委託契約で働いているが、その実態は「裁量の全くない24時間365日働かせ放題の奴隷労働」だと主張する。

出典:「24H労働、手取り月10万円」住み込みの“名ばかり支配人”、スーパーホテルを提訴 5/28(木) 18:04配信 弁護士ドットコム

 

 

スーパーホテルとは?

快眠追求もテーマのひとつ(筆者撮影)
快眠追求もテーマのひとつ(筆者撮影)

株式会社スーパーホテルは、ホテルチェーンの展開、土地有効活用のコンサルティングなどを事業内容とする。1989年12月20日設立で現代表は山村孝雄氏。一方、業界関係者であればスーパーホテルと聞いてイメージするのは、おそらく会長である山本梁介氏であろう。「1泊4980円のスーパーホテルがなぜ「顧客満足度」日本一になれたのか?」「5つ星のおもてなしを1泊5120円で実現するスーパーホテルの「仕組み経営」」などの著書でも知られる。

スーパーホテルは“人気ビジネスホテル”と冒頭で書いたが、このようなビジネスホテルは、業界で宿泊特化型ホテルと呼ばれている。本来ホテルとは、宿泊の他にダイニングレストランやバー、バンケット(宴会)、ウエディングなど様々なサービスを提供する“フルサービスタイプ”であるが、宿泊に特化する(リミテッドサービス)ことにより、合理的かつ効率的な運営ができるとされる。画一的な構造で展開できることから多店舗化しやすく、全国各地にある都市の駅前にはお馴染みの看板のホテルが林立するという印象だ。

利用者からするとこのようなブランド化はわかりやすく、あのホテルはあんな客室とイメージもしやすい。開業までのハードルも低いことから、近年の訪日外国人旅行者の激増に伴い特に増加しているタイプの宿泊施設だ。チェーン間の競争も激化しており、様々なコンセプトを打ち出すことが生き残りの鍵ということになるが、スーパーホテルの場合は、眠りに特化したブランドとして知られる。

最近、様々なホテルでロビーに“選べる枕”といったコーナーが設けられているのを見かけるが、このような枕Barはスーパーホテルがパイオニアだ。ほかにも客室の照明や寝具など様々なシーンで快眠への追求が際立つ。また、大浴場を併設する施設も多く、これも快眠への導入といった設備のひとつと位置づけられている。

スーパーホテルの合理性追求

合理的な仕掛けがある客室(筆者撮影)
合理的な仕掛けがある客室(筆者撮影)

ビジネスホテルは“合理的な運営ができる”と前述したが、中でもスーパーホテルは抜きん出ている。筆者は仕事柄全国のめぼしいビジネスホテルブランドは全て利用しているが、客室のキーが無いのはスーパーホテルくらいである。チェックインすると暗証番号の書かれたレシートが発行され、ドアノブのパネルに暗証番号を入力し解錠させる。

無い、といえばスーパーホテルには客室に電話も無い。携帯電話やスマートフォンの時代なので必要ないといえばその通りであるが、客室から電話を使用しないのでホテルへ電話代を支払うことがない。さらに無いといえばスーパーホテルではチェックアウト手続きが無い。客室のキーを返却する必要がなく、電話代の追加支払いも発生しないから確かに可能だ。実に合理的。合理性の追求といえばベッド下スペースが無いが、掃除をする場所を減らすためだという。コスト削減の工夫が随所でみられる。

そんな合理的な経営が功を奏しているのであろうか業績は絶好調だ。2019年3月期(第30期)の売上高は331億4400万円、当期純利益32億1599万円、利益剰余金150億4426万円で過去からの推移をみても右肩上がりだ。その裏では、今回の提訴で問題となっている業務委託契約についてかなり以前から問題視されていた。筆者も2014年のはじめにこの問題を雑誌へ寄稿している(ZAITEN 2014年2月号(財界展望新社))。

※本件とは離れるが、同寄稿で『「稼働率89%、リピート率70% 顧客がキャンセル待ちするホテルで行われていること」などの著書でも知られる同社の社長が、テレビ出演した際に「クレームがあったら宿泊代金を返金する」ということを話したらしく「現場が大混乱した」と支配人とルームメイドが語った。』という記述をしたが、「稼働率89%、リピート率70% 顧客がキャンセル待ちするホテルで行われていること」は社長の著書ではなかったという誤りがあった。改めてここで訂正する。

住み込みの名ばかり支配人!?

深夜帯はフロントがガラス戸のシャッターでクローズされる(緊急用インターフォンを各フロアに設置)(筆者撮影)
深夜帯はフロントがガラス戸のシャッターでクローズされる(緊急用インターフォンを各フロアに設置)(筆者撮影)

今回の報道によると、提訴した支配人・副支配人は『2018年9月19日から2人で年間約1000万円(2年目からは約1200万円)の委託料で業務委託契約を結んだ』とされる。『同社のウェブサイトには、「例えば、4年間お二人で3250万円以上の報酬が手に入る!」などとして、同居住み込みで働ける男女を募集している』とされるが、『アルバイトを雇う人件費なども引かれると、月の手取りは1人あたりわずか10万円程度』だったという。

そして、『あらゆる業務内容は1400ページにも及ぶマニュアルで規定されていた。また、ホテル内の居住スペースには、フロントの監視カメラの映像が常時流れており、緊急時対応用の電話がある。これによって、客のトラブルなどにいつでも対応して出動しなければならなかった』『「事実上24時間業務」に追われている』とされる。

※『 』は冒頭記事より引用

上記はあくまで提訴の内容ということで、事実関係は裁判を待たなければならないが、こうした提訴がきっかけで同様の訴えが続くことは時折みられる。スーパーホテルについても同様のケースは続くのだろうか。

ビジネスホテル絶好調のその裏で・・・

ところで、仕事柄というか是々非々という評論スタンスゆえか、筆者へは時々ホテルスタッフからの様々な相談が寄せられる。多くがビジネスホテル、それも女性スタッフからのものが多い。確かに様々な全国チェーンビジネスホテルへ出向くと女性スタッフを多く見かける。多くが疲弊した現場のリアルな声だ。

以前、スーパーホテルではないが、名の知れた全国展開しているビジネスホテルチェーンの地方店舗に勤める女性スタッフから連絡があり取材へ出向いたことがある。

内容は、法定の所定労働時間を超過しているにもかかわらず、少なくとも彼女の勤めていた店舗においては、非正規雇用の従業員について社会保険、厚生年金保険へ加入させていなかったというものだった。彼女の在職当時の給与は時給800円程度、月額12万円ほどの手取月収(取材当時)。弁護士を雇える余裕はなく個人で労働審判の申立をしたという。

こちらも後日雑誌へ寄稿し問題提起したが、審判記録を取り寄せてみると会社側は「未加入、すなわち法令違反していた事実について認める」としたものの、謝罪や反省の表現は全くなく、さらには「(彼女が)労働審判を通じて(同社を)糾弾しようとする意思が垣間見えるが労働審判制度の趣旨にそぐわない」との内容であった(一部抜粋)。具体的な数字が出せないのは残念であるが、同社も経営は絶好調で利用者から大きな支持を集めている人気ホテルチェーンだ。

* * *

その利益率の高さの秘密はどこに? 一方で競争が激化していたビジネスホテル業界もコロナショックで苦境に喘いでいるがそのしわ寄せはどこに? そんな視点もひとつのゲスト目線として利用者が持つことも必要かも知れない。

そういえば、スーパーホテルでは深夜フロントがクローズする。支配人、副支配人は“ぐっすり眠ること”はできたのだろうか。

ホテル評論家

1971年生まれ。一般社団法人日本旅行作家協会正会員、財団法人宿泊施設活性化機構理事、一般社団法人宿泊施設関連協会アドバイザリーボード。ホテル評論の第一人者としてゲスト目線やコストパフォーマンスを重視する取材を徹底。人気バラエティ番組から報道番組のコメンテーター、新聞、雑誌など利用者目線のわかりやすい解説とメディアからの信頼も厚い。評論対象はラグジュアリー、ビジネス、カプセル、レジャー等の各ホテルから旅館、民泊など宿泊施設全般、多業態に渡る。著書に「ホテルに騙されるな」(光文社新書)「最強のホテル100」(イーストプレス)「辛口評論家 星野リゾートに泊まってみた」(光文社新書)など。

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忌憚なきホテル批評で知られる筆者が、日々のホテル取材で出合ったリアルな現場から発信する辛口コラム。時にとっておきのホテル情報も織り交ぜながらホテルを斬っていく。

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