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厚生年金の積立金を活用した基礎年金給付の底上げとは #専門家のまとめ

中田大悟独立行政法人経済産業研究所 上席研究員
(写真:イメージマート)

厚生労働省が次年度の年金制度改正において、厚生年金財源を活用した基礎年金給付の底上げに関する法案を盛り込む方向で検討を始めました。これについて、会社員が納めた保険料で国民年金を救済するのか、という批判が巻き起こっています。これには、正当な批判の側面と、誤解や錯誤の側面の両方があります。

ココがポイント

厚生労働省は、将来世代の基礎年金(国民年金)の給付水準を底上げする方策の検討を始める。
出典:時事通信社 配信日 2024/11/19(火)

財政が比較的安定している厚生年金の積立金と国費を投じることで、現行水準より3割増える見通しだ。
出典:時事通信社 配信日 2024/11/19(火)

会社員が入る厚生年金保険料の一部を国民年金の給付に充てるのが柱。(中略)将来の国民年金の水準は現行制度より3割高まる見通しとなる。
出典:日本経済新聞 配信日 2024/11/15(金)

エキスパートの補足・見解

基礎年金給付が減るのは国民年金の積立金が少ないことと、その少ない積立金に反して基礎年金拠出金という分担金を多く支出しなければならないというのが原因です。この少ない積立金を100年間保たせるために、マクロ経済スライドという給付抑制機構を長期にわたって機能させて、基礎年金給付を削減する必要があるからです。また、この基礎年金削減は、国民年金加入者だけでなく、厚生年金受給者にも等しく影響します(厚生年金受給者も基礎年金を受給するからです)。

これに対して、比較的余裕のある厚生年金財源(保険料や積立金)を、これまでよりも多く基礎年金拠出金に流し込むことで、マクロ経済スライドの適用期間を短縮化し、それに併せて国庫負担(税財源)をルール通りに増やすことで、年金給付に向けられる財源の総額を引き上げようとするのが、今回の改正議論の主旨です。

これには、当然ながら、厚生労働省の丁寧な説明が必要となります。年金受給見込額は増えるものの、厚生年金加入者が支払った保険料がどう使われるのかということについては、説得的な議論が必要となるからです。社会保険制度の信用は、保険料の使途の明確さと透明性に裏付けられています。

ちなみに、現在、同時進行で議論されている106万円の壁撤廃も、ほぼ同じメカニズムで年金給付を増やすものです。そうであるならば、厚生年金はまずはこの106万円の壁撤廃の議論にエネルギーを集中させて、その後、例えば次期改正に向けた重要な検討課題として、厚生年金の財源活用、もしくは積立金統合を目指した方が、混乱が小さくなるように思われます。

独立行政法人経済産業研究所 上席研究員

1973年愛媛県生れ。横浜国立大学大学院国際社会科学研究科単位取得退学、博士(経済学)。専門は、公共経済学、財政学、社会保障の経済分析。主な著書・論文に「都道府県別医療費の長期推計」(2013、季刊社会保障研究)、「少子高齢化、ライフサイクルと公的年金財政」(2010、季刊社会保障研究、共著)、「長寿高齢化と年金財政--OLGモデルと年金数理モデルを用いた分析」(2010、『社会保障の計量モデル分析』所収、東京大学出版会、共著)など。

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