厚生年金の積立金を活用した基礎年金給付の底上げとは #専門家のまとめ
厚生労働省が次年度の年金制度改正において、厚生年金財源を活用した基礎年金給付の底上げに関する法案を盛り込む方向で検討を始めました。これについて、会社員が納めた保険料で国民年金を救済するのか、という批判が巻き起こっています。これには、正当な批判の側面と、誤解や錯誤の側面の両方があります。
ココがポイント
エキスパートの補足・見解
基礎年金給付が減るのは国民年金の積立金が少ないことと、その少ない積立金に反して基礎年金拠出金という分担金を多く支出しなければならないというのが原因です。この少ない積立金を100年間保たせるために、マクロ経済スライドという給付抑制機構を長期にわたって機能させて、基礎年金給付を削減する必要があるからです。また、この基礎年金削減は、国民年金加入者だけでなく、厚生年金受給者にも等しく影響します(厚生年金受給者も基礎年金を受給するからです)。
これに対して、比較的余裕のある厚生年金財源(保険料や積立金)を、これまでよりも多く基礎年金拠出金に流し込むことで、マクロ経済スライドの適用期間を短縮化し、それに併せて国庫負担(税財源)をルール通りに増やすことで、年金給付に向けられる財源の総額を引き上げようとするのが、今回の改正議論の主旨です。
これには、当然ながら、厚生労働省の丁寧な説明が必要となります。年金受給見込額は増えるものの、厚生年金加入者が支払った保険料がどう使われるのかということについては、説得的な議論が必要となるからです。社会保険制度の信用は、保険料の使途の明確さと透明性に裏付けられています。
ちなみに、現在、同時進行で議論されている106万円の壁撤廃も、ほぼ同じメカニズムで年金給付を増やすものです。そうであるならば、厚生年金はまずはこの106万円の壁撤廃の議論にエネルギーを集中させて、その後、例えば次期改正に向けた重要な検討課題として、厚生年金の財源活用、もしくは積立金統合を目指した方が、混乱が小さくなるように思われます。