金正恩とトランプの核のボタンは押されるのか 2018年米朝戦争が勃発する 北朝鮮の「核60発」の恐怖
「ボタンは机の上にある」
[ロンドン発]2018年は北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長とアメリカのドナルド・トランプ大統領の危険な言葉の応酬で始まりました。2月には韓国の平昌で冬季五輪が開催されますが、行き過ぎた挑発行為や突発事件が引き金になって米朝戦争が勃発する恐れが非常に大きくなっています。
金正恩は元日の「新年の辞」で「アメリカ全土を北朝鮮の核の射程にとらえた。核のボタンは私の執務室の机の上にある。これは現実だ。脅しではない」と述べました。その一方で「冬季五輪は北朝鮮の威信を示す良い機会だ。南北が緊急会談を開く可能性がある」と対話を呼びかけました。
北朝鮮との対話を唱える韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領を取り込み、韓国と日米を分断する作戦に出てきたようです。
これに対してトランプ大統領はツイッターで即座にこう反応しました。
「北朝鮮の指導者、金正恩は『核のボタンはいつも自分の机の上に置かれている』と言った。干上がった食料不足の北朝鮮の誰かが金正恩に私も核のボタンを持っていることをどうか伝えてもらえないか。私のボタンは金正恩のボタンよりも随分大きくパワフルで、完全に機能することを」
アメリカが北朝鮮を先制攻撃する確率70%
トランプ大統領が、金正恩の挑発に乗る形で緊張を高めているのは、北朝鮮の背後に控える中国を揺さぶる狙いのほか、中国の協力が得られない場合は軍事オプションも視野に入れているからに違いありません。2018年秋に中間選挙を控えるトランプ大統領は北朝鮮を先制攻撃する口実がほしくて仕方がないのかもしれません。
北朝鮮がアメリカ本土を攻撃できる核ミサイル能力を手に入れる前に、アメリカが2018年に北朝鮮に先制攻撃をかける確率は30%――と米共和党のリンゼー・グラム上院議員は米メディアに答えています。北朝鮮が7回目の核実験を強行した場合はその確率は70%にハネ上がると警告しています。
昨年9月実施された米ギャラップの世論調査では、経済制裁や外交努力が失敗した場合、北朝鮮に対する軍事行動をやむなしとする意見は58%にのぼっています。トランプ大統領の強硬姿勢はアメリカ国内の世論を反映したものだと言えるでしょう。
ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、アメリカが保有する核兵器は6,800発で、ロシアの7,000発と双璧をなしています。一方、北朝鮮は毎年12発の核弾頭を製造することが可能で、アメリカの情報機関は昨年、北朝鮮の核兵器は最大で60発と見積もっています。
問題は対話や経済制裁では北朝鮮が核兵器や弾道ミサイルを放棄するとは全く考えられないことです。大気圏の再突入技術に疑問が残るものの、北朝鮮は今年中にアメリカ本土を攻撃できる大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発に成功する可能性が非常に高くなっています。
陰で北朝鮮を支援する中国とロシア
トランプ大統領は、北朝鮮がアメリカ本土を攻撃できる核ミサイル能力を獲得するのを許さないでしょう。このため中国を揺さぶって北朝鮮に圧力をかけるよう軍事オプションを最大限にちらつかせているわけですが、中国もロシアも陰では石油の密輸などを通じて北朝鮮支援を続けています。
中国やロシアは北朝鮮の「抑止核」保有を容認しているように見受けられます。アメリカがアジアから撤退することが地政学上、中露両国にとって最大の利益になるからです。北朝鮮の核・ミサイル開発を止めるためにアメリカに残されているのは実際のところ軍事オプションしかありません。
しかし北朝鮮への先制攻撃は、核戦争にエスカレートする危険性をはらんでいます。アメリカの有力シンクタンク、ランド研究所の報告書から北朝鮮の軍事力を見ておきましょう。
【北朝鮮の軍事力】
世界4位の常備軍100万人以上。戦車3,000両以上。数百機の戦闘機とヘリコプター。大砲とロケット砲推定1万4,000門を配備。800発以上の短距離・中距離弾道ミサイル。有事に韓国に潜入して後方撹乱をする特殊部隊は世界最大。推定2,500~5,000トンの毒ガスと、弾道ミサイルに搭載できる化学兵器の弾頭を最大で150発保有。
米朝が通常戦争に突入した場合、韓国では日に2万人の死者が出ると専門家は分析しています。北朝鮮の核兵器計画を完全に破壊するためには地上部隊を投入する必要があるそうです。トランプ大統領が北朝鮮に先制攻撃を仕掛ければ、金正恩が体制の崩壊を防ぐために核兵器を使用するのは十分考えられるシナリオです。
北朝鮮分析サイト「38ノース」のマイケル・ザギュレク氏は北朝鮮が保有するすべての核ミサイルを東京とソウルに撃ち込んだ場合どうなるか、人的被害を推計しています。北朝鮮が使える核弾頭を25発と想定。核出力25キロトン、ミサイルの到達率を80%すると死者約210万人、負傷者約770万人にのぼるそうです。
1962年のキューバ危機と同じように米朝戦争という悪夢のシナリオが杞憂に終わることを祈らずにはいられません。
(おわり)