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“リアル桜木花道”と称される晴山ケビンが見据えるさらなる高み

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
その才能が高く評価されている晴山ケビン選手。まだまだ伸びしろ十分だ(筆者撮影)

 シーズン開幕から好調を維持し続ける京都ハンナリーズ。現在も第11節を終えた段階で12勝9敗と西地区で単独2位につけ、チームが目標に掲げるチャンピオンシップ進出を狙える位置をキープしている。

 そんなチーム状況の中でここ最近の4試合で先発起用されるようになったのが晴山ケビン選手だ。このオフに川崎ブレイブサンダースから移籍した24歳の若手SFで、これまでU-16日本代表(2009年)、U-18日本代表(2010年)、ユニバーシアード日本代表(2013、15年)──に名を連ねてきた有望選手だ。

 昨シーズンは出場機会に恵まれず32試合の出場機会に留まっていたが、今シーズンはここまで21試合中20試合に出場し、すでに昨シーズンの総出場時間を超えている。ただ試合によって出場時間がまちまちで、プレーに安定感がなくまだ若さを露呈している感がある。それでも浜口炎HCも晴山選手の才能を高く評価し、経験を積ませようと積極的にコートに送り出ししている。

 「新しいチームに来て、新しいことをやらなければならないし、新しいことを憶えなければならないし、役割も違いますし…ていう部分で苦しんでました。ただ練習で結果を出しながら今は非常に上り調子ですし、僕の求める得点のとり方も掴んできていますし、あとはディフェンスとリバウンドで頑張ってほしいと彼に伝えています。やっぱりシュートを打って得点を奪えないと試合に出られないというマインドになる選手が多いと思うんですけど、彼はそこを理解し始めて、ディフェンスとリバウンドでさらにしっかり頑張るようになりました。

 どうして最近先発で起用しているかというと、もちろんディフェンスとリバウンドで期待していますけど、サイズが大きい(189センチ、93キロ)ので3番、4番で佑也(永吉選手)と2人でコミュニケーションしながらスイッチして守れる可能性が高い部分も期待しています。それと経験ですね。ゲームへの慣れというか、ゲームの流れに乗るということを(学んで欲しくて)彼にチャンスを与えるかたちになっています」

 晴山選手のアマチュア時代の経歴からも、彼が身体能力に優れた才能溢れる選手であることは疑う余地もない。だがその才能もさることながらそれ以上に興味を惹かれたのが、彼に“リアル桜木花道”というユニークな肩書きがつけられているという事実だ。

 もちろん桜木花道といえば井上雄彦氏が手がけた不朽の名作『スラムダンク』の主人公の名だ。改めて晴山選手の経歴を調べてみると、彼は高校時代からバスケットを始め、わずか4ヶ月後の1年の夏にインターハイのコートに立つという、まさに桜木花道と同じ道を辿っていたのだ。長年『スラムダンク』を愛読してきた身としては、自然と桜木花道の将来の姿を晴山選手にオーバーラップさせてしまう気持ちを抑えることができない。これは愛読者なら自然な感覚だろう。

 「僕でいいのかというのはありますけど、そういう風に言われるのは嬉しいですよね。バスケットを知らない人でも桜木花道っていう名前は有名じゃないですか。そこで検索して自分の名前が出てくるというのは嬉しいですけど、ただ井上さんに対して恥じないようにしないと、という部分もありますよね。プレー中にオフェンス・リバウンドにいったり、キャプテンのおしりを叩いたりというのはしないですけど(笑)。

 実は自分自身は大学に入って初めて(『スラムダンク』を)読んだんです。高校からバスケットを始めて高校時代は本当にきつかったんですよ。まったくルールも知らないし、8秒(ルール)も知らなかったんです最初は。とにかくバスケットのきつさを知った3年間で、大学に行って楽しさを知ることができたんです。その時にいろいろ将来のことも話して今に繋がる感じで…。ちょっと桜木花道とは違うかなとは思いつつも、周りがそう言ってくれるのは有り難いなと思います」

 中学時代まで9年間野球を続けていたが、いつも一緒に楽しく遊んでいた友人たちが皆バスケ部だったという。友人からの「一緒にやろう」という一言でバスケットを志す気持ちになり、やるからには県で一番強い高校で挑戦しようということで皆で盛岡市立高校に進学。1年のインターハイ出場は「自分は何もしていないです。行かせてもらっただけです」と振り返るが、新米バスケ選手は着実に頭角を現し続け、高校卒業後はバスケの強豪校である東海大学へと進学し、さらにプロ選手までステップアップしてきた。

 各世代の日本代表を経験してきた晴山選手だけに、浜口HCのみならず誰もが彼のさらなる成長に期待を寄せている。それは当の晴山選手自身もヒシヒシと感じ取っている。

 「ここまで21試合が終わった中で、徐々に自分の持ち味のシュートだったり、リバウンド、ディフェンスだったり、そういうのが出てきているんですけど、まだ炎さんの信頼性を勝ち取れてないというのがあるので、もっともっとチャレンジャー精神ていうか、チームメイトにもチャレンジしていきたいですね。

 まだコミュニケーション部分がたくさんあるので経験(不足)からと言われたら仕方ないと思うんですけど、自分は経験と言われるのがあまり好きじゃないんです。経験しないと仕方ないと言われるのが悔しい感じがあります。今の若いうちにベテラン勢に勝ちたいという気持ちがあるので、じゃないとベテラン勢とまったく同じ経験を歩むことになるので…。信頼も大事ですけど、自分も持ち味を出しつつ京都ハンナリーズの色に染まれればというのがあります」

 もちろんバスケットはチーム競技だ。個人の能力を伸ばすことも大切だが、チームとしてしっかりと機能するプレーが最優先に求められる。だがその点でもコート上で自ら考えてプレーすることを理想とする浜口HCの指導方針は、バスケットIQを含めた晴山選手の資質を向上させる上で最高の環境だといえる。

 「自分のキャリアとしてはすごくステップアップできるチャレンジの年だと思っています。言われたことだけをやる“ロボット・バスケット”だと他のチームに行った時にうまく対応できないと思います。言われたことをしっかりやるという力はあるけど、もし相手が別の守り方をしてきたら、そうした時でも自然と身体が動くようになるためにも、京都ハンナリーズでやれば絶対にそういう動きが出てくるようになると思うので、早くその領域に行きたいですね。

 自分が一番意識しているのがファースト・プレーなんです。チームとしての一番最初のリバウンドだったり、一番最初のシュートだったり、一番最初のディフェンスだったり、そういう時に自分個人で集中してている時と、していない時がまだ自分で分かってしまうんです。集中できている時は何も考えずにボールも回ってきますし、空いてるところに動けているんですけど、まだ考えてバスケットしている時は一歩遅いですし、身体が動けないというのがあります。ファースト・プレーを意識しながらそこをもっと追求していきたいです」

 まだ晴山選手自身ももどかしさを感じている部分はあるようだが、着実に前進しているのは間違いない。今後晴山選手の出場時間が安定し、試合終盤でもコートに立つことができるようになれば、京都のチーム力はさらにアップしているはずだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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