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2度目の緊急事態宣言で子どもや夫婦のイライラが蓄積 ストレスを溜めないためにできること

山脇由貴子元東京都児童相談所児童心理司 家族問題・心理カウンセラー
(写真:アフロ)

2度目の緊急事態宣言 気を付けなくてはいけないこと

 新型コロナウィルス感染拡大により、首都圏に2度目の緊急事態宣言が発令されて2週間が経ちました。飲食店の時短営業や20時以降の外出自粛、在宅勤務推奨といった状況は私たちの心にどんな影響を与えるのでしょうか。気を付けなくてはいけないことは何でしょうか。

外食や友だちと遊ぶのを控えている 子どもたちが抱えるストレス

 今回は一斉休校とはなっていないので、家族が1日中ずっと一緒に過ごす、ということはありません。ですが、外出自粛による負担を相談に来るお母さんはたくさんいます。小学校1年生と3年生の子どもがいるお母さんのご相談です。

「『ご飯を食べに行きたい!』と子どもが騒ぐんです。行けないことはないのですが、以前子どもがレストランでしゃべりながら食べていたら、周りの人に嫌な目で見られて注意もされたので、それから連れて行く気にはならないのです。」

その時は、家に帰ってからかなり厳しく叱ってしまったそうです。子どもたちは「なんでおしゃべりしちゃいけないの?」と涙ぐんでしまったそうです。

「土日も『どこか遊びに行きたい!』と毎週言われます。放課後、友だちと遊ぶのも控えさせているので、ストレスを抱えているのだろう、とは思いますし、出かけちゃいけない訳ではないのですが、今回は、人出も少なくなっていない感じがしますし、電車も混んでいますから、感染が怖くて出かける気にはならないです。」

新型コロナウィルスとの闘いは1年近く。確かに、今回の緊急事態宣言では人々の気のゆるみも報道されています。

「外出や外食できない理由は『コロナに感染したら困るでしょ?』としか言えなくて。いつまで続くのかも不安で、落ち込んでしまったりもします。」

子どもたちが騒ぐことは減ってきたそうですが、その分、お母さんの顔色をうかがっているような気がする、と言います。そう感じると、余計に落ち込んでしまうのだそうです。

登園自粛の自治体も 在宅勤務と家での育児で懸念される児童虐待

 また、一部自治体では、登園自粛要請を保護者に出しています。5歳と3歳の子どもがいるお母さんが相談に来ました。

「保育園に行けないと私は仕事を休まなくてはなりません。加えて私のパート先は飲食店なので勤務時間も減らされています。経済的なダメージも大きいです。その上、子どもは退屈して家の中で走り回るので、下の階の人に怒られるのでは、と思い、子どもたちをきつく叱ってしまいます。うちは男の子2人なので、兄弟喧嘩も頻繁で。お兄ちゃんは身体を動かしたくてイライラしているので、弟に手を出したりします。抑えるために、お兄ちゃんととっくみあいになったりもして、手をあげてしまうこともあって・・・。もうどうしたらいいのか・・・。」

さらに父親も子どもに手をあげてしまうことがあるのだと言います。

「夫は在宅勤務なので、子どもが日中うるさいと『仕事のじゃまだ!』と怒鳴り、子どもが走り回っていると、抱えて無理やり座らせたりします。子どもは痛がって泣くので、余計に夫はイライラしてしまうのです。」

 親子ともに抱える不安とストレス。長引く自粛と我慢の生活。精神的に限界になりつつある母親はたくさんいます。自粛生活の長期化は虐待の増加につながりかねません。

在宅勤務の長期化で悪化する夫婦関係

 また夫婦ともに在宅勤務が長期化していることで、夫婦関係が悪化し続けている、という相談もあります。

「夫は1日中イライラしています。もともとアクティブな人で、友人と出かけることも多かったので、在宅勤務と外出自粛は本当にストレスになっているんです。」

以前なら、会社の帰りに同僚と飲みに行って楽しむことができたのに、再びの飲食店の時短営業でそれができない。ようやく解放されたと思ったのに、また自粛。それが夫をいら立たせている、というのです。

「家で仕事を終えて、『ちょっと出かけてくる』と夫が言うと、私もつい、『どこに行くの?』と聞いてしまいます。そうすると『どこだっていいだろ、うるさい!』と怒鳴られます。以前はそんな事はなかったんです。1回目の緊急事態宣言の時は、夫もどこかで仕方ない、と思っていたようなんですが、今回は本当に限界みたいで・・・。」

妻は干渉しているつもりではないのだけれど、感染も心配だから、どこに行くのかは知りたい、という気持ちです。それが今の夫には疎ましく感じられるのです。この妻は怒鳴られる頻度が増え、夫が怖くなってきた、と言います。緊急事態宣言による自粛生活は、DVの増加につながることもあるのです。

 お互い、見えない時間、何をしているのかわからない時間があっても、それを許容し合うのが良好な関係の維持にもつながるのです。

高まる孤独感 2度目の緊急事態宣言が大きなダメージに

 そして在宅勤務の長期化による孤独感の高まりが多くの一人暮らしの人を苦しめています。

「うちの会社は前回の緊急事態宣言からずっと在宅勤務です。多分このままずっと続くと思います。オンライン会議はありますけど、誰にも会えず、家にずっと一人でいるのはもう限界です。寂しい気持ちが強まる一方です。前回もでしたが、会食は控えなくてはならないし、遠方なので、実家に行くのもためらいます。最近は、夜になるとものすごく気分が落ち込んで、涙が出たりします。何をするのも面倒な日もあります。」

ステイホーム、家族と過ごしましょう。独身の人には、一緒に過ごす家族がいません。人との接触を減らすことは、孤独感によるうつ状態につながることもあるのです。

 また、夫と子どもがいても孤独を感じる、というお母さんもいました。

「もともと、夫とはほとんど会話もなかったですから、在宅勤務だとほとんど誰とも話さないんです。もちろん、子どもとは話をしますが、今回は日中は子どもは家にいませんし、帰って来ても、自分のことは話せません。1回目の緊急事態宣言が解除され、ようやく食事や旅行に行ける、と楽しみにしていたので、2回目は本当に辛いです。友だちや同僚と他愛もない話をすることがこんなに重要だったんだって思います。最近は家事も子どもの面倒をみるのもおっくうになってきています。」

ようやく終わった、これで普通に生活ができる、と思っていたのに、そこに2度目の緊急事態宣言。それが大きなダメージとなっている人はたくさんいます。

私たちはどうすればいいのか ストレスを溜めないために

 では、私たちはどうしたらいいのでしょうか。

 不要不急の外出、20時以降の外出は自粛しなければなりませんが、全く外に出てはいけない訳ではありません。感染対策をきちんとし、密を避けて行動し、家族がリフレッシュする時間を作りましょう。公園など、いくつか行って良い場所を家族で話し合っておくのがよいでしょう。その際、子どもたちに、それ以外の場所はなぜ行ってはいけないのかをきちんと説明してあげて下さい。理由のわからない禁止は子どものストレスになります。また、安全な場所、行動についても子どもにきちんと説明しましょう。子どもたちも感染に不安を感じています。何に気を付ければ良いのかを教えておくことは、子どもたちの学校での感染予防行動にもつながります。

 食事も、今はデリバリーもテイクアウトもたくさんありますから、活用しましょう。これも夫婦や家族で、「今週の土曜日はこれを食べよう」など、楽しみとして相談しておくとよいと言えます。休校になっていないので、前回ほどの家事負担は母親にはありませんが、それでも母親の気分転換や負担を減らすことは大事なことです。

 子どもに対するイライラが募ってきている場合は、それを夫婦で話し合い、役割分担を決めるとよいと言えます。どんな時に子どもにイライラしてしまうのか、どんなサポートが必要か、何をして欲しいか。子どもが家の中で騒いだり、走り回っていることにイライラする場合は、1時間だけ散歩する、公園に連れて行く、など方策を考えておきましょう。

 お母さんがイライラしてしまう時は、お父さんが一緒にゲームをやるなども良いと言えます。子どもと楽しく過ごす時間を取り戻す。そのためには、子どもが楽しめることを夫婦一緒に考え、イライラしている方は、子どもから離れる、という方法をいくつか考えておきましょう。

 夫婦ともに在宅勤務で関係が悪くなっている場合は、別々に過ごす時間を上手に作りましょう。別室でのオンライン飲み会も良いですし、互いの外出に干渉しないことも大事です。ただ、感染予防はきちんとする約束だけはしておきましょう。

専門機関への相談やサポートを受けることも考えて

 本当に精神的に追い詰められてしまっている場合は、専門機関への相談も必要です。子どもを叩いてしまう、という場合は、児童相談所や子ども家庭支援センターに相談しましょう。子どもがまだ幼児の場合は保健所の保健師も相談に乗ってくれます。DVや夫への恐怖心は地域の女性相談窓口に相談しましょう。

厚生労働省
厚生労働省

 気分が落ち込む、ふさぎ込んでしまう場合は、心療内科やカウンセリングルームに相談しましょう。うつ状態かもしれません。心理テストなどで心の状態を知ることや、カウンセリングを受けることが必要です。相談や受診は控えないようにして下さい。また、妻や夫の様子が以前と違い、ふさぎこんでいることが増えた、などの変化に気づいた時は、パートナーが専門機関に相談するのも良い方法です。一緒に受診してあげるのも心の支えになります。

 私たち自身が、自分の心は何によって弱っていて、どんなサポートが必要なのか、家族に何をして欲しいのかを知り、家族での楽しい時間をとりもそう方法を考える。それが重要です。独身の人たちは人との接触は控え過ぎず、日中や20時前に人とコミュニケーションをとる機会を作りましょう。リモートで他愛もない話をするのも良いです。孤独ではないことを感じられる時間を作りましょう。

 そして、自分が以前の状態と違っている、と感じたら、専門家への相談し、サポートを受けるようにして下さい。気分の落ち込みや意欲の減退は長期化すると悪化してゆく危険もあります。適切なサポートを受け、回復し、以前の自分を取り戻す方法を探しましょう。

※記事の一部を加筆修正しました。

元東京都児童相談所児童心理司 家族問題・心理カウンセラー

都内児童相談所に19年間勤務。現在山脇 由貴子心理オフィス代表

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