Yahoo!ニュース

【2人とも無事で何より。】ー迷わず飛び込んだ「死なんでよかった」ー記事のヤフコメまとめ解析

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
現場に近い下条川の様子(Google マップより抜粋)

川を流される男児、橋に立ち尽くす通行人…男性は服を脱ぎ捨て迷わず飛び込んだ「死なんでよかった」
(前略)5月13日午後5時頃、男性は富山市内の専門学校からの帰宅途中、小杉駅の南約300メートルの下条(げじょう)川の真ん中を男児が溺れながら流されているのを発見した。近くで遊んでいて誤って転落したらしい。「誰も助けに行かないし、苦しそうな男の子を何とか助けたかった」川幅は約30メートル。そばの橋には通行人がいたが、なすすべもなく立ち尽くしていた。雨上がりで周辺の当時の気温は15度と肌寒い日だった。しかし、迷っている暇はない。服を脱ぎ捨て川に飛び込んだ。(後略)(読売新聞6/1(土) 16:45配信

 小杉駅の南約300メートルの下条川の様子を撮影した写真をカバー写真に掲載しています。ここが現場そのものかはわかりませんが、現場そのものの特徴はこの写真によりかなり表現できていると考えられます。川幅はブロック護岸までいっぱいに広がっています。ブロック護岸は斜面になっています。草が生い茂っていて、その影響で川からの上陸は容易ではなさそうです。その一方で、写真右のガードレールに隠れている部分に川に降りることのできる階段がついています。

コメントの解析結果

 この記事には多くのユーザーからのコメントが寄せられています。6月2日10時現在で2387件に達しています。1000件ほどに達した時点でそこまでに寄せられたすべてのコメントの内容を読み、ユーザーが言わんとしているところをまとめて解析してみました。図1をご覧ください。

図1 本件記事に寄せられたコメントの内訳分布(筆者作成)
図1 本件記事に寄せられたコメントの内訳分布(筆者作成)

 コメントの言わんとしているところは、大きく分けて3つで、その他に分類される内容については比較的少なかったという結果となりました。

◆勇敢・勇気・称賛

 川に飛び込んだ男性についての感想だけにコメントの内容を集中している例です。

読んでいて涙がこぼれました。お2人とも助かって良かった!サッカー部の監督のお言葉を真っ直ぐに受け止めることができる、素直で勇敢な人に育て上げたご両親あっての男性ですね。自分さえ良ければいいという人も多い世の中、人のために…という心を持って生きていらっしゃる方。将来きっと良い事が沢山あると思います。助けられたお子さんも、命の尊さや、人に対する感謝の気持ちを身を持って知ったことでしょう。専門学校を卒業したら、警察官になって世の為、人の為にご活躍されることをお祈りしています。

 飛び込んだ男性の将来の夢が「警察官になりたい」とのことだったので、彼の将来への夢を応援している方が多くみられました。このようなコメントの中にも実は「お2人とも助かって良かった」のように一言がついていて、直接的に危険性を指摘していなくても、今回の男性の行動が危険の中で遂行されたことを感じている方が大勢いるようでした。

◆勇敢・勇気・称賛+命の危険

 特に「勇敢」や「勇気」という言葉を使って男性の行動を称賛する意識の背景に「かなり危険だ」とコメントで表現されている方が多いようです。つまり、かなり危険な行動なのによくぞ勇敢に立ち向かったという対比法です。ひとつの例を示します。

勇気ある行動を称賛したいですが、今回のケースは本当に運が良かっただけで、足がついていなければきっと二人共に亡くなっていました。救助者による2次被害の多いケースと思えます。よく海水浴場で親子で亡くなるケースに似ています。溺れる人は苦しくて、救助者の頭にしがみつきますが、浮力がなければ体を支える事は出来ません。どうしても飛び込む必要があるのなら、少なくともペットボトル、発泡スチロール、木材などの浮き具を持つか、下流で長いロープをもって飛び込み、後ろから捕まえる必要があります。それでも勇気ある行動なのは間違いありません。本当に素晴らしいと思います。

 中でも数多く見受けられたコメントには、男性と自分の行動を切り離し「自分なら川に飛び込むことはできない」との意見を出されている方がいました。次の例では、自分の家族と他人とを明確に分けて飛び込むかどうするか表現しています。飛び込まないにしても、自分が目撃者になったときには陸からできることをしようという考えに至っています。

凄い勇気です。素晴らしい。でも私は自分の家族なら命を張って助けるが、他人なら罪悪感で死にそうになりそうだけど助けにいきません。持っているペットボトルを空にして投げて渡し、連絡して見守るくらいしかしない。子供にも絶対助けるなと教えるでしょう。救助者も亡くなるパターンが多いからです…子供の頃は誰かのピンチに人助けを颯爽と自分がして尊敬される妄想をしたものですが、それは難しいと大人になるとわかる。2人とも助かったのは奇跡です。

◆命の危険

「2人とも無事で何より。」と喜びを表現しながら、素手で飛び込むことに主眼をおいて、命の危険をコメントしている方も一定数おられました。これまでの人生経験において、水の中で何らかの怖い体験をしている方にこのようなコメントを書かれる傾向があります。次の例は、立泳ぎで呼吸が確保できるほどの泳力のある方のようですが、ご本人に泳力があるほど、「勇敢」などの言葉を選ばない傾向にあります。

溺れている人を助けるのは本当に危ないです。二人とも助かり良かった。私は足がつかないところも全然大丈夫で、泳ぎには自信があったのですが、溺れた人にいきなり抱きつかれて死にそうになりました。足の届かないところで友人と立ち泳ぎで遊んでいたのですが、後ろからいきなり抱きつかれて、訳もわからないまま両肩に手を置かれ体重をかけられて沈みました。 苦しくて手を懸命に剥がそうとしたし暴れてもがきましたが、ものすごい力で肩を鷲掴みされて、体重をかけてグイグイ押し込まれ、逃げられませんでした。あとから聞いた話では、後ろで遊んでいた中学生グループの一人の子の浮き輪が外れて、その子が泳げなかったらしく咄嗟にそばにいた私に抱きつき、私を沈めることで自分の顔を何とか海面から出して息を吸っていたそうです…。あと少し救助が遅れていたら私が死んでいました。テヘペロな感じで謝罪もなく立ち去りましたけどね…涙

◆その他

 コメントにて自分の体験を述べるにとどまる方も少なからずおられました。水の中で危険な目にあった体験例は大変貴重で、このような体験談の蓄積はユーザーが人生を生き抜く上での宝になることでしょう。

 上述にて3つに分けたコメントに付随する形で、目撃者のことについてのコメントが少しありました。記事中にあった「橋に立ち尽くす通行人」という記載から考えに至ったものと思われます。例えば次のコメントでは、現場にいた目撃者の方々に寄り添った意見が出されています。

見ていた人も勿論どうにかしたいと思っていただろうね。でも中々出来ない。私だって泳げるけど、川でしかも雨上がり。プールとは全く違うから、きっと救助者を1人増やすことになってしまう。運もあっただろうし、読む限り男性が必死に冷静さを保っただろうこともよかったのだと思う。助けに行くのは相当な勇気と、それ以上に危険が伴い常に賛否あることで自分の子なら正直救助を待てと言うけれど、今はよく頑張ったね、二人共無事で本当に良かった、と言いたい。まあ凄い18歳だよ。この子の人生とご両親の人生までも救った。ほんと、死なんでいてくれて良かった。他人の私も心からそう思う。

どうしたら正解だったか?

現場により千差万別。結果論として2人とも助かったのであれば、これが正解だったということになります

 水に流されたお子さんを間近で目撃した親であれば、ほぼ飛び込んでしまう事故例が数多くあります。目撃者が他人であれば、119番通報して知らせたというニュースが目につきます。

 飛び込んだとしても、先に落ちた人が水没していたら、水中でその人を発見するのはほぼ不可能です。今回の事故では「なんとか男児に泳ぎ着き」なので、お子さんは背浮きなどで水面に浮いていて、男性は泳ぎながらでも目視できていたかもしれません。そうでなければ沈んだお子さんを探しながら、やがては低体温となり運動機能が鈍りだします。

 もし無理だと判断したら、捜索をあきらめて自分は背浮きになって呼吸を確保します。この時に幸いに先に流された人も背浮きになっていれば両人とも助かる可能性はぐっとあがります。

陸から目撃者ができること

 今回の事故の視点では、陸から見ていた目撃者のとりえる重要な役割が抜けているのではないかと推察します。つまり「誰が119番通報したか」です。目撃者が多数いて、大きな事故になればなるほど、消防本部の通信室にはたくさんの119番がかかってきます。消防では、その数をもって直感的に「大きな事故で緊急性を要する」と判断し、相当の数の部隊を現場に急行させます。それくらい目撃者による119番通報は重要なのです。

 水難救助とは、上陸させて初めて完了します。今回はお子さんがそれ以上流されないように食い止めた男性、119番したと思われる大勢の目撃者、そしてプロの救助隊による上陸支援の連携がうまくかみ合った例だといえます。その現場にいた全員の連係プレーに称賛が向けられてよいでしょう。

さいごに。飛び込むことを否定しません

 なにも持たずに飛び込んで素手で救助する方法は日本赤十字社水上安全法で学ぶことができます。飛び込んで大切な人がそれ以上流されないように、沈まないようにサポートするには体力ばかりでなく安全を担保できる技能が必要です。志のある方にはぜひ受講をして、水難救助のなんたるかを学ぶことをお勧めます。筆者の所属では、来週から4日間の日程で同講習会を実施します。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

斎藤秀俊の最近の記事