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内山/マクラクラン組が第1シードを撃破。各々が歩む独自の道が交錯し、誕生した25歳ペアの化学反応

内田暁フリーランスライター
拳を合わせるマクラクラン勉(左)と内山靖崇(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

楽天ジャパンオープンダブルス準々決勝 ○内山/マクラクラン 7-6,7-6 テカウ/ロイヤー

 勝利の瞬間の歓喜の表出は、二人そろって、しばし遅れた……。

 内山靖崇とマクラクラン勉の“日本人ペア”が、大会第1シードで先の全米オープン優勝者でもあるテカウ/ロイヤー組から金星奪取。いずれのセットもタイブレークにもつれ込む緊迫の展開のなか、最後は相手が、日本ペアの勝利を願う会場の想いにも屈したように、サーブを2本連続でネットに掛ける――。その唐突な幕切れに、内山たちはまず状況を理解し、次に力が抜けたように深く息を吐き出すと、ようやく勝利の事実を噛みしめるように、二人でハグし喜びを分かち合った。

「今日は勉が、最初から最後まで素晴らしかった。第1セットでリードされた時も、勉のお陰で追いつけて。みなさん、『ベン、すげー!』って覚えて帰って下さい!」

 オンコートインタビューでは、日頃はやや寡黙な内山が、最後は少しおどけてパートナーを絶賛する。

「はんぱねー!」

 パートナーも声を上ずらせ、内山曰く「最近覚えたばかりの日本語」で感激を表現した。

 内山と同期のマクラクランは、ニュージーランド人の父と日本人の母を持ち、今年6月から日本国籍でプレーすることを選択した25歳。ATPチャレンジャー(ツアーの下部大会群)を主戦場に戦う云わばダブルスのスペシャリストで、約3週間前のデビスカップで、内山と組み日本代表デビューを果たした。

 一方、錦織圭同様に盛田正明テニスファンドの支援を受けIMGアカデミーに留学していた内山は、少年時代から高い能力を買われた選手。一番の武器は攻撃的なストロークとサーブだが、ボレーなども器用にこなすオールラウンダーだ。

 その器用さゆえに内山は、デビスカップの日本代表では、常にダブルス要因として使われてきた。たしかにジュニア時代の内山は、全豪ジュニアのダブルス準優勝などの実績も残している。とはいえ本人の目標はあくまで、シングルスで世界トップクラスの選手になること。日頃はダブルスをプレーする機会は少なく、しかも過去にデビスカップで組んだパートナーは、添田豪や伊藤竜馬らいずれもシングルスプレーヤーだった。

 

 その内山が今大会、マクラクランというダブルス巧者のパートナーを得て、コート上で躍動した。

 第1シードペアとの対戦では、内山本人も認めるように、ダブルスの実績や経験では相手が遥かに上回る。実際に内山がサーブ&ボレーを試みても、ピンポイントで足元にボールを返され苦労した。しかし内山には、コート上4人のなかで、恐らく最も威力に富むストロークがある。内山はマクラクランを「ネットでの反応が凄い。僕がサーブしている時も、安心して前を任せられる」と評したが、その信頼と安心感があるからこそ、後衛から自分の武器を存分に発揮できた。

 一方のマクラクランも「彼(内山)には弱点がない。ダブルス専門の選手だとどうしてもストロークが弱かったりするが、彼はなんでもできる」と、オールラウンダーな相棒を絶賛する。

 「(コート上の4人のなかで)僕一人がダブルスプレーヤーではないので……」と謙遜していた内山だが、持ち味の強打をダブルスで活かせるのも、そしてまだ組んで日の浅いパートナーと息のあったコンビネーションを発揮できるのも、内山自身のダブルス経験と理解があってのこと。それはこれまで、誰に強制されずとも「デビスカップで必要になるから」と機を見てはダブルスにも出場し、添田や伊藤らが同じ大会に出ている時は自ら先輩たちに声を掛けてきた、細やかな責任感と目的意識の集積が築いたものだ。

 錦織が手首のケガで欠場し、今季大躍進中の杉田祐一もシングルス準々決勝で敗れたため、内山/マクラクラン組が今大会で唯一残った日本勢となった。

 その期待と注視も受け止めて、本日、フレッシュなダブルスペアが準決勝に挑む。

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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