石炭火力は温暖化対策の本命 国際社会にセクシーだと説明せよ!
「化石賞」2度受賞
小泉環境大臣が石炭火力発電脱却について具体的に説明しなかったことを受けて、COP25で、国際NGOのグループが日本に2つめの「化石賞」を授与した。
これは世界各地の約1300の環境NGOグループが、COPの会期中、温暖化対策に消極的だと判断した国や地域を毎日選び、皮肉を込めて贈っている賞である(*)。
しかし、CO2を分離して地中に埋める技術が確立すれば、石炭火力は地球温暖化対策の本命である。日本の技術力で、あと少しで実用化されるところまできている。このことが国際社会に全然伝わっていない。
小泉環境大臣の演説でも、CO2を分離して埋める技術についての言及はなかった。CO2なしの石炭火力こそ「セクシーな」解決策だと強調しなかったのはなぜだろう。
CO2削減のための石炭火力
一般には、石炭火力発電所というと、褐炭などの低品質の石炭を燃やして発電し、黒い煙をモクモクと出しているイメージを持つ人もいるかもしれない。しかし、このイメージは時代遅れである。
今の日本の石炭火力はクリーンで、エネルギー変換効率もいい。CO2排出ももうすぐ何とかなりそうである。
1粒で2度おいしい
日本の火力発電ではコンバインドサイクル発電という効率のよい発電方法が採用されている。
まずは、燃料をガス化してガスタービンを回して発電する。ガスタービンを回した排ガスはまだ十分に熱いので、この余熱を使って蒸気タービンを回してもう1度発電する。1粒で2度おいしい効率のよい発電方法である(*)。
効率がいいので、CO2(二酸化炭素)があまり出ない。同じ電気をつくるならCO2排出は少ないほうがいい。
発電効率を高めた改良型コンバインドサイクル発電では、約50%の熱効率が達成されているという。これは1950年代の火力発電の2倍から3倍の効率である。
石炭ガス化複合発電(IGCC)
さらに、石炭をガスにしてガスタービンで燃やし、それからコンバインドサイクル発電を使うこともできる。石炭ガス化複合発電(IGCC)という方式である。
IGCCでは、石炭を細かく砕いた微粉炭を燃料とし、これをガス化炉で石炭ガスにする。次のガス精製設備で硫黄化合物などの大気汚染の原因物質を除去してクリーンな燃料にしてからガスタービンへ送る。
このため、現代の石炭火力発電は、黒煙をモクモクと上げるかつてのイメージと違ってクリーンである。
この後、ガス化炉やガスタービンで生じた排ガスの熱を再利用して蒸気タービンを回すコンバインドサイクル発電が使われる(*)。
熱効率のよいIGCCを使えば、電気をつくるときに出るCO2を減らすことができる。
CO2排出量の多い中国、アメリカ、インド、ロシアの石炭火力発電をIGCCに置き換えるだけでかなりのCO2が削減できよう。
IGCCは、すでに1990年代にオランダやスペイン、アメリカなどで実証実験が進められていた。欧米のIGCCと日本のIGCCの違いは、石炭をガス化するときに酸素を使うか(酸素吹き)か空気を使うか(空気吹き)である。
欧米のIGCCは酸素吹きであった。空気吹きのほうが熱効率は高く、安くて粗悪な石炭を使うことができるが、技術的に難しい。
日本企業は、この技術的な壁を乗り越えて空気吹きIGCCを実現した。この技術は、三菱日立パワーシステムズ(三菱重工の連結子会社、日立製作所の持分法適用会社)にある。
二酸化炭素回収・貯留(CCS)
空気吹きIGCCがいかに素晴らしく高効率だといっても、CO2が出ることには変わりはない。化石燃料が嫌われるのは燃やすとCO2が出るからである。
しかし、そのCO2を捕まえて地中に埋めてしまう技術があれば話は違ってくる。CCSと呼ばれるCO2回収・貯留技術があと少しで実用化できそうである。
現在、北海道苫小牧市でCCSの大規模実証実験が行なわれており、30万トンの圧入に成功している(*)。
国際エネルギー機関 (IEA) によると、2060年までの累積CO2削減量の14%をCCSが担うことが期待されている。
現在も世界中で多くのCCSプロジェクトが動いている。日本も来年(2020年)頃のCCS技術の実用化を目指して、実証実験、研究開発を進めているところである(*)。
温暖化対策の切り札
これらのテクノロジーの確立によって、CO2の出ない石炭火力が実現する。空気吹きのIGCCは、褐炭などエネルギー密度の低い低品質の石炭が利用でき、コストも安い。
石炭資源は、世界各地に散らばっていて、石油や天然ガスのように地域的に偏っていないので、日本のエネルギー安全保障上も有利である。日本国内にも高品質なものだけで3億6000万トンの石炭があるとされる。
しかし、コスト面で外国産に太刀打ちできないので、現在はオーストラリアやインドネシアなどから輸入している(*)。瀝青炭、無煙炭といった高品質な石炭は輸入でいい。
ただ、エネルギー密度の低い褐炭を日本まで運んでは輸送コストがかさむ。そこで、オーストラリアでCCS付きの石炭火力で発電し、これを液体水素に変えて日本へ輸入するプロジェクトなどもある(*)(**)。
気候行動ネットワーク(CAN)は知らなかったのか?
COP25は環境問題の専門家の集まりである。そこで「石炭火力の削減」へのコミットが繰り返し求められ、CCS付きIGCCの最先端を走る日本とオーストラリアが「化石賞」というジョークで揶揄される。これはかなり不思議な現象である。
「化石賞」を出している気候行動ネットワーク(CAN)は、石炭火力を敵視して、日本に2度も「化石賞」を授与した。あたかもCO2の出ない石炭火力発電がもうすぐできそうだということを知らないかのようである。
考えられる可能性は2つ。まず、本当に知らないという可能性がある。しかし、世界を代表する環境問題の専門家が、もし本当に石炭火力のテクノロジーについて知らなかったとすれば、地球温暖化対策の前途は真っ暗である。さすがにこれはないだろう。
もう1つは、日本やオーストラリアのCCS付き石炭火力発電が有望だと知っていて、何らかの理由でそれを妨害しようとしている可能性である。
環境NGOにはスポンサーが不可欠である。賛助会員などのスポンサーがどういう利権を持っているのかについては詳細なディスクロージャーが欲しい。
再生可能エネルギービジネスの企業群の資金が入っていて石炭火力を嫌うバイアスはないのだろうか。あるいはどこかの国の資金が間接的に投入されていたりはしないのか。
アースジャスティス
「化石賞」を授与した気候変動行動ネットワーク(CAN)のメンバーにアースジャスティスがいる。以下、憶測を交えずに、比較的信頼できそうなソースの情報だけを列挙する。
この団体は、非営利の法律事務所で、沖縄普天間基地の辺野古への移転に反対し、アメリカで沖縄ジュゴン訴訟の原告側の弁護を担当していた(*)。
沖縄の米軍の基地移転に反対していただけでなく、ハワイのカウアイ島の米空軍の訓練に反対し、海獣の保護を訴えている(*)。
米下院天然資源委員会は、沖縄ジュゴン訴訟に関連してアースジャスティスに書簡を送って、外国政府の代理人として振る舞い、アメリカの国益を損ねているのではないかと質問している(*)。
これに応えて、アースジャスティスは外国代理人登録法の下で、外国代理人として登録した(*)。つまり、アースジャスティスは、アメリカでは、外国の利益のために行動する法律事務所であり、監視の対象になっているということである。
そして、国連総会で怒りのスピーチをしたグレタ・トゥーンベリさんのお膳立てをした法律事務所の2つのうちの1つはアースジャスティスである。これはユニセフのサイトで確認できる。
グレタさんを含む16人の環境活動家の「子どもたちによる非難声明」もアースジャスティスなどが準備したようである。この書類はアースジャスティスのサイトにおいてある(*)。
また、米下院天然資源委員会はアースジャスティスの外国代理人登録を知らせるページで、NRDCという組織に送った書簡も公表している(*)。
中国は、CO2の最大の排出国で、北京五輪のときに環境汚染が酷いと国際的な評判を落としたため、国際的に「印象管理」を始めており、NRDCはそのために活動しているとのことである。NRDCは、中国が環境問題に熱心に取り組んでいるというニュースを流し、ネガティブな側面には触れない。中国が環境問題解決のリーダーであるかのような宣伝をしていると米下院天然資源委員会は指摘している。
日本の石炭火力を嫌ってネガティブ・キャンペーンを繰り返す環境NGOの中で、どういう政治的な力が働いているのかはよくわからない。
COP25では、世界最大のCO2排出国である中国に対する批判がどれくらいなされているのだろうか。
マスコミの記者のかたがたには、一段と踏み込んだ調査報道を期待したい。