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また1つ歴史が動きつつあるが、ウッズ・キャプテンがウッズ選手を選んだことは「何の驚きでもない」

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
2017年の前回大会では副キャプテンだった。振り返れば、いろんな「伏線」があった(写真:REX/アフロ)

 米国チームと欧州チームの対抗戦はライダーカップ。米国チームと世界選抜チームの対抗戦はプレジデンツカップ。

 どちらも国や大陸、地域の名誉をかけて戦うチーム戦であり、チームメンバーたちを率いるキャプテンの任務と責任は、きわめて重大である。キャプテンの人柄や采配次第で勝敗が左右されると言っても過言ではない。

 そう、キャプテン業はきわめて難しい。ましてや、選手とキャプテンを同時にこなす「プレイング・キャプテン」は、もっと難しい。ちなみに、プレジデンツカップにおいて過去にプレイング・キャプテンを務めたのは、1994年大会のへール・アーウィン、ただ1人だった。

 だが、また1つ、その歴史が動きつつある。

 今年のプレジデンツカップで米国チームのキャプテンを務めるタイガー・ウッズが、11月7日(米国時間)、4名を選び出すキャプテン推薦で自分自身を選び、プレイング・キャプテンとして臨むことになった。

【エルスも周囲も期待していた】

 「米国vs世界選抜」の2年に1度の対抗戦、プレジデンツカップは今年12月12日~15日の4日間、オーストラリアのロイヤル・メルボルンGCで開催される。

 米国キャプテンはウッズ、世界選抜キャプテンはアーニー・エルスで、両チームは各々12名のメンバーで構成される。ランキングに基づいた各々8名のチーム入りが今年8月にすでに決まり、残る4名はこの11月にキャプテン推薦で選ばれることになっていた。

 その際、注目されていたのは、ウッズもエルスも自分自身を指名してプレイング・キャプテンを務めることになるのではないかという点だった。

 だが、6日にキャプテン推薦4名を発表したエルスは、自身を選ばなかった。エルスが選んだのは、チリ出身のホアキン・ニーマン(20歳)、韓国出身のイム・ソンジェ(21歳)という若い2人と、カナダ出身のアダム・ハドゥイン(32歳)、そして開催国であるオーストラリア出身のジェイソン・デイ(31歳)の4名だった。

 

 エルスは「僕の考え方はシンプルだ」と語り、プレイング・キャプテンではなくキャプテン業に専念する姿勢をキャプテン推薦を発表する以前から関係者に見せていたため、エルスが自身を選ばなかったことは、驚きではなかった。

 そして、そのエルスが自分の考え方は「シンプルだ」と語る際、その前に「タイガーとは違って」という前置きも付けていた。つまりエルスは、ウッズがウッズ自身を選ぶかどうかで迷っているはずだと見ていた。

 さらに言えば、日本で開催されたZOZOチャンピオンシップを制し、通算82勝目を挙げて調子を上げているウッズゆえ、キャプテン推薦による「自薦」は大いにありうると周囲も見ていた。

 そうした予想と期待に応えるかのように、ウッズは7日、自分自身を選び、大会史上2人目のプレイング・キャプテン誕生となった。

【驚きではない】

「ウッズ・キャプテンがウッズ選手を選んだことは、何の驚きでもない」

 米メディアには、そんな見出しがすぐさま踊った。そう、習志野で堂々82勝目を飾り、サム・スニードの歴史的記録に並んだばかりのウッズが、プレイング・キャプテンを務める意志を固めたことに驚きなどあろうはずがない。

 だが、ほんの少し前まで、事情はまるで異なっていた。今年4月にマスターズを制し、メジャー15勝目を挙げたとはいえ、その後のウッズはまるで振るわず、昨秋に5年ぶりの復活優勝を遂げたプレーオフ最終戦のツアー選手権にはディフェンディング・チャンピオンでありながら出場さえ叶わなかった。

 そして、戦うことさえ許されなかったツアー選手権の週に、ウッズは生涯5度目の膝の手術を受け、ゴルフクラブを握れない日々へ突入。リハビリを経て、練習開始できたのは、10月の来日のわずか5週間前だった。

 しかしウッズは、その短い準備期間だけできっちり調子を上げ、ZOZOチャンピオンシップで勝利した。

 そんなウッズの這い上がり方、巻き返し方、ネバー・ギブアップの歩み方や生き方は、世界中の人々に元気や勇気をもたらしている。そう考えれば、ウッズがキャプテン推薦で自身を選んだことは、誰もが頷ける選択であり、「何の驚きもない」決定である。

「1人のプレーヤーとして、僕はキャプテンのアテンションを得た」

「僕は米国チームの最後の選手としてタイガー・ウッズを選ぶ」

 ウッズは、そんな表現で、自身の推薦理由を語った。

 

 振り返れば、ウッズのプレイング・キャプテンが実現するための「伏線」もあった。大会を主催する米PGAツアーは、ウッズが米国キャプテンに就任した2018年3月時点で、今年の大会のフォーマットをやや変更。日曜日の個人戦に至るまでは、すべてフォーボールあるいはフォーサムの団体戦だが、その団体戦に出場すべき最低回数をこれまでの2回から1回へ半減させた。

 そのフォーマット変更は、プレイング・キャプテンの負担を減らすための施策であり、言い換えれば、ウッズによるプレイング・キャプテンの実現を促すための施策だったと考えられる。それが、いいのか、悪いのか?もちろん、人々の期待に応え、大会の魅力を増すことになるのだから、大勢の人々が「いい」と評価するに違いない。

 ウッズ・キャプテンが選んだ他の3人は、全米オープン覇者のゲーリー・ウッドランド、マスターズ覇者のパトリック・リード、そして、絶好調で陽気でムード・メイカーになりそうなトニー・フィナウだ。

 プレジデンツカップにおける米国チームは、これまで10勝、1敗、1引き分けと圧勝を遂げてきた。

 今年、キャプテンとしても選手としても「強いウッズ」を擁する米国チームが11勝目を挙げるのか、それとも6名のルーキーを擁する若い世界選抜チームが2勝目を挙げるのか。12月が楽しみである。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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