伊達公子氏が、日本女子テニス界の明るい未来創造へ放つ3本の矢とは!?
Jr松山大会で、女子シングルスは里が、男子シングルスは前田が、初優勝!
伊達公子氏が、3年前に大会新設に携わり、大会のゼネラルプロデューサーを務める「リポビタン国際ジュニア in 愛媛 supported by伊達公子×ヨネックスプロジェクト」(12月7~11日、愛媛県松山市・愛媛県総合運動公園)が開催され、ジュニア選手たちが熱戦を繰り広げた。
新型コロナウィルス感染症のパンデミックは続く中、国際テニス連盟(ITF)公認のジュニア大会(グレード5)である松山大会は、2022年で3回目を迎えたが、ようやくごく少数ではあるが、海外ジュニア選手のエントリーがあり、まだ完全にではないものの、本来の国際ジュニア大会の形に近づいた。
「まぁ、(本来の大会の姿に)なったというレベルではまだないですけど、思いとしては、外国の選手がもっと戻って来て、その中で日本ジュニアたちが、もまれて戦って、結果やポイント(につながる)という目的もあります。(松山大会が)いろんな選手と戦う機会っていうところにもなっていくことが理想形ではあると思う。いずれそういう時になっていけばいいなとは思いますね。
一方で、今はほぼ日本人で戦っていることを考えると、当然誰かしらにチャンスがあるってことなので、そのチャンスをしっかりと活かしてくれるようになればいいなと思います」(伊達氏)
今年は、岐阜と松山の日程が入れ替わって、松山が後になりITFジュニアサーキットの最終週になった。入れ替わりの理由を、伊達氏は次のように語る。
「日没と気温のことですね。たかが1週間されど1週間で、岐阜は1週早い方がいい、松山はどちらでも大丈夫ですということでしたのでスイッチしていただいた。あと、岐阜は屋外コートにナイターがないんですよね」
松山大会のチャンピオンは以下のとおり。
男子シングルス優勝 前田透空
女子シングルス優勝 里菜央
男子ダブルス優勝 前田透空/若松泰地組
女子ダブルス優勝 五島宇莉/石田実莉組
男子シングルスは、第3シードの前田透空が、第2シードの山本夏生を6-1、6-4で破って、松山での初優勝と共にITFジュニア初タイトルを獲得した。
「優勝できると思っていなかったので、驚きと、素直にうれしいです。試合になると緊張してしまう癖があるのですが、今大会は勝ち負けより試合を楽しむことを優先してやったら自分のいいテニスができたので、それが良かったんじゃないかと思います」(前田)
女子シングルスは、ノーシードの里菜央が、決勝で3時間15分の熱戦の末に、第1シードの新井愛梨を6-7(5)、 6-2 、6-3で下して優勝。11月に優勝した山梨大会に続いてITFジュニアで2つ目のタイトルを獲得した。現在高校2年生の里は、松山がITFジュニア最後のチャレンジと決めていて、「最後の大会で優勝できてうれしいです」と笑顔で締めくくった。
伊達氏が、2022年シーズンでの木下晴結の成長を評価
残念ながら松山大会で、伊達&ヨネックスジュニアプロジェクト2期生の大きな活躍は見られず、古谷ひなたのシングルスベスト8が最高成績で、プロジェクトに参加しているジュニア選手による初優勝は実現しなかった。
ただ、2022年シーズンを振り返ると、昨年以上の結果を残した2期生がいた。
木下晴結(ITFジュニアランキング35位、12月19日付、以下同)は、プロジェクトの目標とされているグランドスラム・ジュニア本戦の出場を4大会すべてで成し遂げた。しかもウィンブルドン・ジュニアでは3回戦まで進出。プロジェクトの先頭をきって結果を残した木下を、伊達氏はどう評価しているのだろうか。
「彼女の成長とプロジェクトに入って来た時期が重なった。ローランギャロスの時は無理するよりも、もうちょっとしっかりとテニスを作って、という話があったんです。元々みんなの想定では、USオープンを目指すっていうところもあったんですけど、やっぱり本人もチャレンジしたいということでした。結果、4大会出場できて、ウィンブルドンでは勝利もできた。なので、そういう意味では、やっぱり大きな経験になったことは間違いないだろう。本人のモチベーションに基づいて戦ったのは良かったのかなと思います」
さらに、木下は、ジュニア大会だけでなく、プロが参加する一般のITF大会にもトライして、15歳で初めてWTAポイントを獲得して、10月17日付のWTAランキングで初めて710位となった。
「(木下さんは)WTAポイントも取れたし、BJK(女子国別対抗戦ビリー ジーン・キングカップ)の日本代表チームのサポートにも入ったりして、この1年で想像以上のたくさんの経験をした。それがまた彼女のモチベーションだったり、確実に成長した部分になっていたりして、評価できる部分ではある。でも、その分これだけ試合を重ねると、どうしてもトレーニングにしっかりと取り組める時間が無くなってしまうので、長い目でそこ(トレーニング)にかける時間を作らないと、いざプロになることへ近づいて行った時に、何かが欠けているということになりかねないので、気をつけないといけない」
16歳になった木下は、2023年シーズンに、ジュニア大会とプロも参戦する一般大会の両方をトライしていくことになるが、その難しさについて伊達氏は次のように語る。
「難しいことはもうわかっていることだと思うので、それによって自信を失わないようにすることです。国内のジュニア大会、グランドスラムレベルのジュニア大会、WTAポイント獲得へトライする時、それぞれ気持ちとしてその時の調子も出てくると思うので、その辺のバランスをどういう風に挑まなきゃいけないかっていうことをやってかないと、全体的に自信を失くすこともある。当然、上のレベルが多くなれば勝てる数っていうのが減ってくる。勝てる試合が少なくなってくるってことは、試合数が減ってくる。そうすると自信を失くすことに繋がってくるケースもあるので、その辺をしっかり理解したうえで、大会選びと調子を上げていくことのバランスの取り方に注意しなきゃいけない」
伊達氏が日本女子テニス界の未来へ放つ3本の矢
伊達氏は、ヨネックスとのジュニアプロジェクト、ジュニアプロジェクトから派生したITFジュニア大会の設立と運営に加えて、今年からJWT50の活動も始めた。
JWT50は、2022年6月20日に設立された一般社団法人で、テニスに携わる次世代が本気で世界を目指せるような環境づくりを目指すと同時に、テニス普及の面では、小中高校生へ向けて興味喚起を働きかけていく。
入会資格は、WTAランキング50位以上の実績をもつ元プロテニスプレーヤーで、メンバーには、理事に伊達公子氏、杉山愛氏(冒頭写真左から3人目)、神尾米氏、会員に浅越しのぶ氏(左から4人目)、長塚京子氏(右端)、森上亜希子氏(左端)、小畑沙織氏(左から6人目)、中村藍子氏(左から7人目)、奈良くるみ氏(左から5人目)が名を連ねている。
ジュニアプロジェクト、ジュニア大会、そしてJWT50、伊達氏は、どういう心持で臨んでいるのだろうか。
「自分の中では、テニスとどう関わっていくかっていうことでは全て繋がっている。関わり方としての形は違うけれど、日本の女子テニス界が世界と向き合っていくために必要なことはなんなのか。その1つがジュニア。ジュニアたちにとって必要なことはなんなのか。その実現の理解者を増やして、同じ方向に向いてくれる人と一緒にやっているだけのこと。また、これは違うなと思えば、それは修正するかもしれないし、突き進む方がいいと思うものは突き進むだろうし。本当にまだわからないこともたくさんあるので、簡単なことではないこともあるんですけど、その都度、やれることをやっている。
何ができるかな、と、未来を明るくするために(日本テニス協会の)土橋(登志久)さんたちと話してることは楽しいです」
日本テニスの明るい未来のためにアクションを起こしている伊達氏は、義務感のようなあるいは自分自身を犠牲にしているようなしがらみに囚われているわけではない。
「昔からそうですけど、日本はジュニア時代では強いけど、やっぱりジュニアからプロになっていって、そこから足踏みになる傾向がある。今の世界の流れを見ても、ジュニア時代にいかにWTA(プロの戦う舞台)へうまく移行していくか。今、ジュニアたちも目標が高いし、意識も高い。であれば、木下さんのケースのように、早めにWTA(ポイント)にトライして、いざプロになった時には、(ジュニアレベルだけでなく一般レベルでも)数年経験をした準備期間を経て、プロをスタートすることで、足踏みを省けるのではないか。これまでなかったジュニアからのパスウェイをちゃんと作るために、みんなが同じ方向に向けばいい、というトライですね」
1本目の矢がジュニアプロジェクト始動、2本目の矢がITFジュニア大会の設立運営、そして、3本目の矢がJWT50による新たな取り組み。今、伊達公子氏が、日本女子テニス界の明るい未来創造へ放つ3本の矢が、果たしてどう飛んでいき、どのような新しい時代をつくるのか、見守りたい。