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“杉山ジャパン”が、女子テニス国別対抗戦BJKカップ・ファイナルズへ初進出できた5つの理由

神仁司ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト
BJKカップ・ファイナルズ初進出の日本代表と杉山監督(写真すべて/神 仁司)

 4月12~13日に、東京・有明コロシアムで、ITF(国際テニス連盟)主催の女子テニス国別対抗戦ビリー ジーン・キングカップ(以下BJKカップ)・ファイナルズ予選「日本vs.カザフスタン」が開催され、日本は3勝1敗でカザフスタンを破り、トップ12ヶ国で構成されるBJKカップ・ファイナルズ(11月にスペイン・セビーリャで開催)へ初進出した。大会初日には、平日にもかかわらず4029人、2日目には7939人の観客が有明コロシアムに訪れ、日本代表チームを応援で勝利へ後押しした。

 まず、カザフスタンのエースであるエレナ・ルバキナ(WTAランキング4位、大会時、以下同)が参戦しなかったことを、正直に勝因に挙げなければならない。ルバキナは、2022年ウィンブルドンチャンピオンで、今季優勝2回(ブリスベンとアブダビ)、直近のWTA1000・マイアミ大会では準優勝していた。各国の代表メンバーにはいつもベストメンバーがそろうとは限らない。試合数が多くなりがちなトップ選手ほど、ツアーでの個人戦とBJKカップでの団体戦の両立は難しくなる部分をいつもはらんでおり、今回、ルバキナは個人のスケジュールを優先する形になった。もしルバキナが来日していたら、日比野菜緒(79位)も大坂なおみ(193位)も厳しい戦いを強いられただろう。だから、試合前から日本には追い風が吹いていたのだ。

 2つ目の勝因は、日比野の成長だ。シングルス1として2勝を挙げ、日本のエースとしての役目をきっちり果たした。

「自分的にはいいパフォーマンスができたんじゃないかと思います。一緒に戦ってくれた選手、そして、素晴らしいチームを作ってくださった杉山(愛)監督には感謝の気持ちでいっぱいです」

 こう語った日比野のコート上で見せた涙がとても印象的だったが、それは彼女の日本代表への愛情の強さの証しとも言えた。そして、ファイナルズにも出場したいと気持ちを新たにしていた。

「11月のファイナルズに選ばれるように自分のランキングも上げていきたい。すごくモチベーションになるなと感じています。やっぱり日本代表に対しては、年を重ねるごとに、かつて自分があこがれてきた選手たちのように、自分もなりたいという思いが強くなってきた。小さいお子さんが見に来てくれて、私の試合を見て、自分も日の丸を背負ってプレーをしたいと思ってくれる人が1人でもいたら、今日ここで試合した意味があるなと思います」

「日本vs.カザフスタン」では、シングルス1として2勝を挙げた日比野。大好きな日本代表で、自らの責務をきっちり果たし、コート上で何度も涙を見せた
「日本vs.カザフスタン」では、シングルス1として2勝を挙げた日比野。大好きな日本代表で、自らの責務をきっちり果たし、コート上で何度も涙を見せた

 3つ目の勝因は、4年2ヶ月ぶりに日本代表に復帰した大坂だ。

 今回、「素晴らしい経験ができた」と振り返った大坂は、BJK日本代表メンバーとしては、日本テニスの聖地と言われる有明コロシアムで初めてプレーし勝利を挙げた。女子ツアー屈指のスウィングスピードから放たれるパワーのあるサーブやグランドストロークは、2023年7月に出産したことを踏まえると、よくここまで戻してきたなという印象を正直受けた。

「特別な気分で試合に臨みました。(コロシアムには)いたる所に日本の国旗が見られ、雰囲気も特別でした。(初日第1試合の日比野)菜緒の第1セットを見て、観客も信じられないくらい素晴らしかった。だから自分にはエクストラモチベーションがわいていました」

 今後大坂は、さらに試合を重ねていけば、かつてナンバーワンだった頃のベストテニスへ徐々に戻していけるのではないだろうか。

 4つ目の勝因は、青山修子(WTAダブルスランキング20位、4月8日付)と柴原瑛菜(WTAダブルスランキング21位)の存在だ。もし2勝2敗になった場合、最重要となる第5試合を二人に任せられるという安心感と杉山監督の信頼が、日本代表チームのベースにある。これは現在の日本の強みに間違いなくなっている。

 カザフスタン戦では、日本が3連勝してチームとしての勝利は確定していたが、青山のプレーはいつもと違って硬く、彼女らしくないミスが多かった。実は、青山が思わず硬くなってしまう要因があった。青山の日本代表でのマッチ成績は24勝4敗(単複含めて史上3位)で、もし青山が、ダブルスで勝利すると25勝目となり、杉山さんが残したマッチ勝利数(25勝22敗)と並び日本史上2位タイの記録になるのだった(最多マッチ勝利は沢松和子さんの44勝10敗)。

「もちろん勝ちたい試合でした。ただ力が入ってしまった」と青山は、柴原と一緒に懸命にプレーしたが、カザフスタンのペアも最後まであきらめず、ファイナルセット10ポイントマッチタイブレークの末敗れた。杉山さんの記録と肩を並べるのは、11月に持ち越しになったものの、青山は「チャンスがあれば、ぜひ抜きに行きたいと思います」と目を輝かせた。

 そして、5つ目の勝因は、日本代表監督に2023年シーズンから就任している杉山監督だ。元選手である彼女は、「やっぱりみんなのポテンシャルを信じて、もっとできるよな」という思いからのスタートだったが、ツアーや日本代表での自らの実体験を踏まえながら各選手に寄り添うようにしてアドバイスをして選手から絶大なる信頼を獲得した。

 カザフスタン戦で、初めて“杉山ジャパン”に合流した大坂は、杉山監督の印象を「いつもとても優しく、雰囲気もよく、とてもクール」と語り、日本代表チームへの誘いを快諾した。これは杉山監督の人柄と人徳があってのことだったと推察される。

 監督就任から1年4ヶ月で、日本代表チームをファイナルズへ導いた杉山監督の手腕は見事だったが、もちろん選手への労いも忘れない。

「本当に誇りに思うチームです。選手のみんなに心から感謝したい。それぞれがやるべきことをきちっとプロセスの中でやっているからこそ、今のチームがある。BJKで悔しい思いをした選手がたくさんいるが、次により強い選手になって帰って来ると思いながら過ごしてきたからこそ、ファイナルズへの道が開けた」

カザフスタン戦ではベストメンバーがそろった日本代表チーム。11月のファイナルズに向けて、各選手の成長を期待したい
カザフスタン戦ではベストメンバーがそろった日本代表チーム。11月のファイナルズに向けて、各選手の成長を期待したい

 ファイナルズでは、日本はどこと対戦することになっても簡単な試合は一つもないだろう。厳しい試合になるかもしれないが、日本代表メンバーが気後れすることはないのではないか。なぜなら、杉山監督が「どうせやるからには世界一を狙いたい」という目標を掲げているからだ。求心力のある彼女のリーダーシップのもとで、日本代表が躍動できるか非常に楽しみではあるが、それには11月までに各選手がどれだけ成長できるかがキーポイントになっていく。

ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト

1969年2月15日生まれ。東京都出身。明治大学商学部卒業。キヤノン販売(現キヤノンMJ)勤務後、テニス専門誌記者を経てフリーランスに。グランドスラムをはじめ、数々のテニス国際大会を取材。錦織圭や伊達公子や松岡修造ら、多数のテニス選手へのインタビュー取材をした。切れ味鋭い記事を執筆すると同時に、写真も撮影する。ラジオでは、スポーツコメンテーターも務める。ITWA国際テニスライター協会メンバー、国際テニスの殿堂の審査員。著書、「錦織圭 15-0」(実業之日本社)や「STEP~森田あゆみ、トップへの階段~」(出版芸術社)。盛田正明氏との共著、「人の力を活かすリーダーシップ」(ワン・パブリッシング)

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