イラン核合意でどうなる原油価格?(Q&A)
Q そもそもイラン核協議とは?
2002年にイラン国内の反体制派が、国際原子力機関(IAEA)への申請なしにイラン政府が核開発を進めていたことを暴露したことを受けて、発電などの平和利用を主張するイランと、核兵器開発を疑う欧米諸国との間で、過去13年にわたって行われてきた協議です。今年4月に最終合意の枠組で合意し、交渉期限とされた6月30日までには間に合わなかったものの、7月14日に最終合意に至りました。イランの核開発を長期にわたって制限する一方、イランに対する経済制裁を段階的に解除することで中東地区の安定を目指します。
Q 石油市場にとってイランの位置付けは?
石油メジャーBPによると、2014年末時点のイランの原油埋蔵量は1,578億バレルと推計されており、ベネズエラ、サウジアラビア、カナダに次ぐ世界第4位の石油埋蔵国になります。世界シェアは9.3%となっており、石油輸出国機構(OPEC)にも加盟している主要産油国になっています。イランによると、6月時点の産油量は日量311万バレルとなっており、世界原油供給の3%強をカバーした状態にあります。しかし、同じく膨大な埋蔵量を有するサウジアラビアやイラク、クウェートなどが積極的な増産政策を展開する一方、イランは欧米諸国からの経済制裁で原油開発のみならず原油取引の金融決済、更には輸送の際の保険などで制約を受け、逆に減産を強いられている状況にあります。経済制裁前と比較すると、100万バレル前後の減産を強いられた状態にあります。
Q 今回の合意を受けて何が変る?
イラン産原油取引に対する制裁が段階的に解除される見通しです。イラン政府は、制裁が解除されれば半年で日量100万バレルの増産が可能としており、低迷する原油価格にとって新たなダメージになる可能性があります。既に欧米メジャーが開発余地の大きいイラン権益に興味を示しており、少なくともイランが増産政策に転じるのは確実視されています。日本にとっても、これまで米国の経済制裁の影響でイラン産原油取引を圧縮してきましたが、今後は原油調達環境の更なる安定化が期待できそうです。
Q 今回の合意を受けての原油相場の反応は?
NYMEX原油先物相場は、13日終値の1バレル52.20ドルに対して、今回の合意を受けての14日の取引では一時50.88ドル(前日比-1.32ドル、2.5%)の急落となりました。しかし、取引終了時点では前日比+0.84ドルの53.04ドルと逆に上昇しています。
Q なぜ原油価格は上昇した?
イラン核合意の成立については、4月の枠組合意が成立した時点で、ほぼ確実視されていたためです。このため、原油相場は段階的に最終合意の成立、それに伴うイラン産原油供給増加の可能性を織り込んできており、今回の最終合意で原油需給見通しが大きく変わったと驚いた向きは少なかったためです。いわゆる、「織り込み済み」や「(売り)材料出尽くし」との評価が、一旦は急落したものの、その後の原油相場回復を促したようです。
Q 今後の原油価格の見通しは?
今回のイラン核合意で原油相場は急落を回避したとは言え、原油需給に緩和圧力が強まり易くなる見通しに変化はありません。今後は実際にイランの増産圧力が確認されれば、原油価格は一段と上値の重い展開を強いられることになるでしょう。イランの増産に対応して生産調整を行う国は存在せず、今後も過剰供給が生産国・消費国の在庫として蓄えられ、原油価格の上値が圧迫される状況が長期化しそうです。昨年の原油相場急落は、イランの減産状態の中で発生した動きであることを考慮すると、イラン産原油の市場復帰を受け入れる石油需要環境が実現できるのかは疑問視されます。特に、イランは3,000万~4,000万バレル規模の海上在庫を抱えていると推計されており、これが市場に供給され始めると、実際の増産を前にイラン産原油の供給増加が国際原油需給・価格の撹乱要因になる可能性もあります。
Q 原油価格が上昇する不安要素はないのか?
今回はオバマ米大統領が主導する形で最終合意にたどりつきましたが、実際の経済制裁解除には米議会の承認が必要不可欠です。議会で多数派となる共和党は「テロ支援国家」であるイランに対する宥和政策には批判的な声も強く、実際に経済制裁を解除できるのか、オバマ大統領の政治的な手腕が問われることになります。また、イランと敵対するイスラエルやサウジアラビアなどは、イランと米国との接近に警戒感を強めており、新たな地政学的リスクを浮上させる要因になる可能性もあります。今回の核合意を中東安定につなげることができるのか、国際政治環境の変化にも注意が必要です。