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【マリノスうぉっち】山中亮輔の衝撃的な4ゴールを解析する【1】

河治良幸スポーツジャーナリスト
(写真:フォトレイド/アフロ)

森保一監督が率いる日本代表は11月16日のベネズエラ戦、20日のキルギス戦に向けたメンバーを発表。注目されたのは気胸の手術で戦線を離脱した長友佑都(ガラタサライ)の”代役”だったが、森保監督は横浜F・マリノスの山中亮輔を抜擢した。

「マリノスで年間通して継続して試合に出場し、いいパフォーマンスを出しているので招集させてもらいました。パフォーマンスに波のある選手ですが、特徴にスペシャルなものを持っている選手だと思います。特に攻撃で、左利きを生かしたプレー、クロスや攻撃に絡むプレーが代表招集につながった理由です」

森保監督がそう評価する山中は今季のJ1で4得点8アシストを記録している。タグマのウェブマガジン【KAWAJIうぉっち】では山中の4ゴールにフォーカスした記事をシリーズ掲載中。無料公開している【マリノスうぉっち】の記事「山中亮輔の衝撃的な4ゴールを解析する【1】」をYahoo!ニュースでも紹介する。

「KAWAJIうぉっち」から転載■

革新的なスタイルでJリーグにインパクトを与えている横浜F・マリノス。その象徴的な選手が左サイドバックの山中亮輔だ。”偽サイドバック”とも呼ばれるインサイド寄りのポジショニングと本来のアウトサイドからの攻め上がりを駆使しながら、J1の第30節が終了した時点で4得点8アシストを記録している。

今回はここまでの4得点を検証する。すべて豪快な左足のミドルシュートによりもたらされたが、その布石となったのは巧みなポジショニングと仲間からボールを受けるタイミング、そして冷静にゴールを射抜くビジョンだ。

■第1節 セレッソ大阪戦(前半17分)

2018 明治安田生命J1リーグ 第1節 vs.セレッソ大阪 ハイライト動画

布陣:

C大阪 4−4−2

キム・ジンヒョン

松田、ヨニッチ、木本、丸橋

水沼、山村、山口、福満

柿谷、杉本

横浜FM 4−3−3

飯倉

松原、中澤、デゲネク、山中

中町、喜田、天野

遠藤、ウーゴ・ヴィエイラ、ユン・イルロク

展開:右サイドで右センターバックの中澤佑二、手前に引いていたMF中町公祐とつなぎ、中町が中盤のディフェンスを引きつけながら左足で前方の遠藤渓太にパスを出す。遠藤は右サイドバックのポジションからインサイドから追い越す松原健とワンツーでカットイン。そこから少しタメて中にグラウンダーのボールを出すと、山中がタイミング良く助走しながらダイレクトの左足でボールを捉え、地を滑るような弾道がゴール右隅に突き刺さった。

解説:山中は4−3−3の左サイドバックですが、いわゆる”偽サイドバック”と呼ばれるポジショニングで、本来ボランチのいるポジションにいました。アンカーの喜田拓也が中澤の前あたり。山中は左センターバックのミロシュ・デゲネクとほぼ直線上、少し内側あたりでした。その時に山中より左アウトサイドにいたのは中盤の左インサイドハーフを担う天野純と左ウィングのユン・イルロクです。

一方で右サイドバックの松原健は中町から縦パスを受ける遠藤より内側にいました。つまり4−3−3の布陣で2人のサイドバックだけが基本フォーメーションからはズレたポジションを取っており、喜田も中央よりは右にズレて、一時的に山中と2ボランチを組んでいるような形です。興味深いのは、この時点では山中より松原の方が前目のポジションにいたということです。

相手のセレッソは4−4−2ですが、マリノスのビルドアップに合わせて全体がボールサイドに寄っています。右サイドはーふの水沼宏太も山中よりはワイドですが、少し手前の距離にいるので、仮にマリノスがボールを失った場合でも山中が対応できる関係にはなっています。右サイドでボールが展開されたところでは山中は攻撃の選択肢としてだけでなく、守備のリスク管理も兼ねていたことが分かります。

そこから遠藤が右サイドのライン側でボールを受け、インサイドから縦に追い越した松原とのワンツーで相手の左ボランチである山口蛍のインサイドに入っていくわけですが、ここで1つ大きな動きがありました。中盤の左ワイドにいた天野が右斜めにダッシュしてセレッソの2センターバックの間に入り込みました。センターFWのウーゴ・ヴィエイラは右センターバックと右サイドバックの間、松原は左センターバックと左サイドバックの間に走る。

3人が縦に走り出す形になり、そのうちの天野がディフェンスラインより裏に出たため、セレッソの選手たちは手をあげてオフサイドをアピールしますが、遠藤はニアサイドの松原に縦のボールをつけ、すかさずインサイドに動いてリターンを受けました。

この時点ですでにボランチの1人である山口がボールより外側につり出された状態になっているわけですが、ポイントはもう一人のボランチの山村です。右サイドでボールが展開されたことに加え、先ほどの天野の動きによりセンターバックがワイドに引っ張られた状況で、トップ中央のウーゴは縦に連動しながらも少し膨らむような動きをしたことで、右センターバックのヨニッチと右サイドバックの松田の間が少し開きました。

そこで山村がその間を埋めるように下がります。結果的に右サイドバックの松田がウーゴとマッチアップする位置どりになりましたが、左ウィングのユン・イルロクが逆サイドに張る”メインテイン。ポジション”から松田の外側を突く構えを見せたため、右サイドハーフの水沼がそのエッジを埋めに下がり、セレッソは7人がベタ引きのような形になり、バイタルエリアの中央が完全に空きました。

そこで遠藤がカットインしてきたことで、下がりながら対応していた山村がとっさに遠藤をチェックしようとしたことで、山中が前に出て遠藤からボールを受けた時点で誰もチェックできず、山村が反転して対応しようとしますが、左利きの山中はほぼフリーで左足を振り抜きました。

山中のポジショニング、そこから前を空けておいて、タイミングを見てスペースを活用したこと、そして狙いすましたシュート。山中の一連の動きそのものはシンプルですが、チームの攻撃のメカニズムと見事にマッチしたゴールだったことがわかります。

スポーツジャーナリスト

タグマのウェブマガジン【サッカーの羅針盤】 https://www.targma.jp/kawaji/ を運営。 『エル・ゴラッソ』の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。セガのサッカーゲーム『WCCF』選手カードデータを製作協力。著書は『ジャイアントキリングはキセキじゃない』(東邦出版)『勝負のスイッチ』(白夜書房)、『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(ソル・メディア)『解説者のコトバを知れば サッカーの観かたが解る』(内外出版社)など。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才脳”」監修。

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