マネタリーベースの呪縛、日銀は動けない
現在の日銀の金融政策の目標は何であるのか。ここをしっかり抑えておかないと日銀の次の一手を見誤る。現在の日銀の金融政策における市場調節の操作目標は、公定歩合でもないし、無担保コール翌日物の金利でもない。「マネタリーベース」なのである。
日銀は2013年4月4日の金融政策決定会合で、量的な金融緩和を推進する観点から、金融市場調節の操作目標を、無担保コールレート(オーバーナイト物)からマネタリーベースに変更した。マネタリーベースとは現金通貨(日銀券、補助貨幣)と日銀当座預金を合計したものであり、現金通貨は基本的に操作できないため、日銀の当座預金残高を増加させることになる。
そのための手段として国債を中心に金融資産を大量に買いあげているのである。日銀が大量の国債を民間金融機関から買い入れれば、売った代金が民間金融機関の日銀当座預金口座に積み上がる。それによりマネタリーベースの目標を達成させようとしている。このマネタリーベースは順調に目標値に向けて積み上がり、4月末残高は300兆円を超えている。
ただし、それによって肝心要の物価は前年比2%どころかゼロ%近辺にいる。だから追加緩和を日銀は決定するではないかとの観測がある。それでは日銀はいったい何ができるのか。黒田総裁は手段はいろいろあるとし、市場でもいろいろな観測が出ているが、実は日銀はできるものはあまりない。それはマネタリーベースの呪縛があるためである。
12日に参院財政金融委員会に出席した日銀の黒田総裁は、日銀の当座預金の超過準備に付く金利(付利)について「引き下げるとか撤廃するということは考えていない」と述べていた。これは当然のことである。付利があればこそ金融機関は日銀の当座預金口座に資金を置いておける。この資金を追い出すというか積みづらくさせるような政策は取りづらく、付利の撤廃や引き下げは「マネタリーベース」が目標となっている間は考えにくいのである。
これ以上は買入を大きく増やすことが難しい国債に替わり、社債やETFなどを買い増せば良いとの見方もある。しかし、量を増やせなければ現在の日銀の貨幣数量説に基づいた政策では理屈が成り立たない。量ではなく質であったとしても、それは株価対策などのように映ることで説明がより困難になる。
量を増やして国債をさらに2倍買いあげれば良いのかといえば、現在の買入額でもいずれ札割れが生じるリスクが出ている。いったん札割れが起きると国債の買い入れを減額せざるを得ない状況にもなりかねず、それを市場はテーパリングと認識する可能性がある。
それでは政策目標の「マネタリーベース」を再び金利に戻して、ECBのようにマイナス金利も許容するといった政策にすれば良いのかといえばこれにも無理がある。それをするとマネタリーベースを増やしても物価は上げられなかった、ということを正式に認めてしまうことになり、現在の黒田日銀の金融政策そのものへの信任が失われかねない。
このように日銀はマネタリーベースの呪縛により、物価目標が達成できずとも新たに動くことは難しい。あとは物価の前年比が目標値に向かって上がることを祈るしかない状況にあると言える。だからこそ「物価の基調は確実に回復」との発言を繰り返すしかないのである。