金価格が急騰中、資産防衛に傾斜する投資家たち
内外の金相場が急伸している。COMEX金先物相場は、昨年末の1オンス=1,184.10ドルに対して、1月20日の欧州タイム入り直後に1,290ドル台に乗せ、昨年9月以来となる約4ヶ月ぶりの高値を更新している。東京商品取引所(TOCOM)の円建て金相場も、昨年末の1グラム=4,588円に対して4,900円台乗せを窺う動きを見せており、5,000円の大台も視界に入り始めている。
何か金相場を買い進む切迫した事情がある訳ではないが、世界金融市場の混乱状況が続く中、「安全資産」である金に対する投資ニーズが著しく高まっている。リスク資産に対する積極投資ではなく、金で購買力を維持する資産防衛に魅力を感じている向きが増えている。
国際通貨基金(IMF)は1月20日に発表した最新の「世界経済見通し(WEO)」において、2015年の世界経済成長率予想を昨年10月時点の+3.8%から+3.5%まで下方修正している。「原油価格の下落が、世界の経済成長を押し上げることになるだろう」との楽観的な見方も示されているが、欧州債務危機後の経済成長加速の流れに一定のブレーキが掛かっている。
資源価格の急落という強力な追い風が吹いているものの、世界経済は未だその恩恵を受け切れていない状況にある。寧ろ、資源国経済や資源関連企業を取り巻く環境悪化が市場のボラティリティ(変動率)を高めており、現在の投資環境ではリスクに見合ったリターンが得られるのか、不安心理が広がっている。シンボリックなのがシカゴのボラティリティ指数(恐怖指数)になるだろう。昨年11月時点では10ポイント台前半に留まっていたのが、今年に入ってからは15~25ポイント水準までコアレンジを切り上げている。2010~11年の欧州債務危機のように50ポイントを窺うような動きまでは見せていないが、投資リスクの高まりがリスク資産から安全資産に対する資金シフトを促している。
また、スイス国立銀行(中央銀行、SNB)が自国通貨フランの対ユーロ上限を撤廃したことも、国際通貨市場に大きな混乱をもたらしている。本来であれば、安全通貨であるフランの天井が撤廃されたことは、同じ安全通貨・資産である金にとってはネガティブな動きとも評価できる。しかし、投資家はスイスの一中央銀行の政策変更で国際通貨市場が大きな混乱状況に陥っていることに注目し、購買力の維持・保存に適した金市場に資金を投入して、この危機を乗り切りたいと考えている。
金市場における従来の買い手は短期投機筋だったが、先週後半に入ってからは金上場投資信託(ETF)経由の買い圧力が強まっていることも報告されている。ドル建て金相場には、ドル高・商品安と強力な逆風も吹いているが、この逆風を打ち消してしまう程に、安全資産に対するニーズが高まっている。