英中銀、またも利下げ開始の大英断避ける―高金利政策に懐疑論も台頭(上)
英中銀はいつまで高金利水準を維持すべきか検討中だが、ベイリー総裁は「利下げ段階でないが、正しい方向にある」とハト派姿勢に変わったものの、利下げに躊躇している。経済界には高金利政策への懐疑論も台頭。
イングランド銀行(英中銀、BOE)は3月21日、金融政策委員会(MPC)の結果を発表し、政策金利を5.25%に据え置くことを9委員中、8対1の賛成多数で決めた。
これで金利据え置きは5会合連続。BOEの利上げサイクルは2021年12月から今年8月までの14会合連続で止まっているが、現行の5.25%の金利水準は依然、2008年2月以来、約16年ぶりの高水準となっている。
市場では今回の会合で9人の政策委員のうち、タカ派とハト派の割合が前回2月会合時からどう変化するかに注目していた。
今回の会合では、9人の政策委員のうち、タカ派(インフレ重視の強硬派)のアンドリュー・ベイリー総裁ら8委員(前回は6人)が据え置きを支持した一方で、ハト派のスワティ・ディングラ委員が前回に続き0.25ポイントの利下げを主張、BOEのハト派姿勢が鮮明となった。注目された、前回会合でインフレ高止まりの長期化懸念から利上げを主張した超タカ派のジョナサン・ハスケルとキャサリン・マンの2委員が据え置き支持に回ったことにより、利上げ派委員が消えた。
■MPC、再び近視眼的な決定下す
しかし、著名なエコノミストで、英紙デイリー・テレグラフのコラムニストでもあるリアム・ハリガン氏は3月24日付コラムで、「9人の政策委員は重要な機会を逃してしまった」と悔やむ。同氏が悔やんでも悔やみきれないというのは、MPCは今回の会合で利下げ転換という重要な決定機を逃したことだという。「MPCは再び近視眼的な決定を下し、不必要な経済的損害を引き起こそうとしている」と警告した。
ハリガン氏は、「3年前の2021年、ベイリー総裁はその年の秋までインフレ上昇は一過性で終わるとの主張を繰り返し、MPCは利上げ開始を躊躇した。その結果、インフレ率が思っていた以上に急上昇、2022年9月には40年ぶりの高水準となる前年比11.1%上昇に達し、英国の生計費危機(エネルギー高騰による生活水準の低下)をさらに悪化させた」と断じる。
その上で、「現在、世界的に利上げサイクルが逆転、(各国中銀が)利下げに向かう中、BOEだけがあまりにも利下げに慎重となり、3年前の過ちをさらに悪化させている」と、3年前と同じ轍を踏んでいると指摘する。同氏は3年前、インフレが加速したとき、BOEはすぐに利上げを開始すべきだったが、遅きに失したと見ている。
ハリガン氏はBOEが利下げを決定するには今後、金利据え置きを支持した8人のMPC委員のうち、少なくとも4人が利下げに回る必要があると見ている。すでに利下げを支持しているディングラ委員に、あと4人が加われば、利下げは5対4の賛成多数で決まるからだ。同氏は、「世界の金利サイクルは変化しており、一方的に行動する気概と勇気に欠けるBOEは最終的には他の中銀の後塵を拝することになる」と、警告している。
■市場は6月利下げ・年内3回利下げを予想
MPCが金融政策決定で意見が割れたのは2022年9月会合以降、これで13会合連続となり、金融政策を巡り、分裂状態が続いている。今回の会合では利下げ開始決定に至らなかったものの、利下げ含みの据え置き支持が圧倒的多数を占めたことを受け、金融市場ではBOEは利下げに対し、寛容的になり、6月利下げ開始に舵を切ったと見ている。短期金融市場では会合後、6月利下げ開始の確率を50%超織り込んだ。
英国の株式市場では6月利下げ観測が強まったため、主要株価指数のFTSE100種総合株価指数が一時、1.5%上昇。外為市場でもポンド相場が対ドル・ユーロで、一時0.3-0.4%下落した。
これまで市場では利下げ開始までにはBOEは再び、インフレが上昇すると懸念、金融政策を十分な期間にわたって制限的に保つ必要性を指摘すると予想。6月か8月までに利下げサイクルが始まり、年末までにあと1回(1回0.25ポイント換算)の利下げを予想していた。しかし、会合後、金融先物市場は年末までにあと2回の利下げを織り込んだ。「制限的」とは景気に打撃を与えることになる金利水準にまで、金融引き締めを行うことを意味する。
ただ、オランダ金融サービス大手INGのエコノミスト、ジェームス・スミス氏は3月21日付の英紙ガーディアンで、「サービス物価が依然高止まりしているため、サービス物価の低下のタイミングを計ると、8月開始の可能性が高い」とし、その場合でも8月以降、会合ごとに利下げが実施され、2024年末には1ポイント(0.25ポイント換算で4回)の利下げを予想している。(『中』に続く)