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暴言や暴力に悩む介護家族も応用可能なハラスメントへの対応 【介護職へのハラスメント4:対応・後編】

宮下公美子介護福祉ライター/社会福祉士+公認心理師+臨床心理士
どんな行動にも背景には理由がある。それを理解できればハラスメント被害は減らせる(ペイレスイメージズ/アフロ)

利用者、その家族による介護職(介護従事者)へのセクハラ、パワハラについて考えるシリーズ。締めくくりとして、その対応について取り上げ、3つのポイントを挙げた。

1.法人・管理者が意識を変える……ハラスメントは許さないという毅然とした態度をとる

2.介護職が我慢を辞める……ハラスメントを我慢しない。防ぐ・かわす対応を身につける

3.利用者の心理への理解……ハラスメントを起こす背景にある心理を理解する

前回は1、2について取り上げた。最終回の今回取り上げるのは、3.利用者の心理への理解。利用者がなぜハラスメントを起こすのか、背景にある心理を理解することでハラスメントを防ぐ対応について考える。暴言、暴力等に悩んでいる介護家族もぜひ参考にしてほしい。

3.利用者の心理への理解

常に全裸の利用者が全裸でいるわけは?

2回目の記事で伝えたように、利用者がハラスメントを起こすのには何らかの背景がある。その背景を理解した対応をすることで、ハラスメントを防止したり、回避したりすることができる場合もある。黒川さんが、例としてある利用者への対応を紹介してくれた。

それは、ホームヘルパーが訪問すると、いつも全裸でいる男性への対応だ。どれだけ服を着るように言っても着ようとはせず、どのホームヘルパーも対応に困っていたという。

あるとき、一人のホームヘルパーが、困りながらも「全裸であること」に反応せず、部屋の中をよく見回すと、家族の写真がたくさん飾ってあることに気がついた。そして、「この写真、ご家族なのですね」と声をかけると、「そうなんだよ、そうなんだよ」と、話に乗ってきた。

そこから、「全裸の男性」という見方ではなく、「家族の話を大切に思う男性」という見方をするよう意識して接していくうちに、男性は次第に服を着るようになっていったという。

会話を楽しむことが、利用者に大きな変化をもたらすこともある(ペイレスイメージズ/アフロ)
会話を楽しむことが、利用者に大きな変化をもたらすこともある(ペイレスイメージズ/アフロ)

良い関係を築けば介護もスムーズに

「この利用者は、寂しい、注目してほしいという気持ちから、注目を集める手段として、全裸でいたのでしょう。でも、ホームヘルパーがこの利用者に注目し、気持ちに触れる会話ができたことで、次第に全裸でいる必要がなくなっていったのですね。

これが全ての利用者に当てはまるとは言えません。しかし、どの利用者もこれまでいろいろな体験をし、ここまで人生を歩んで生きています。その人が大切にしているものは何か。そこに目を向け、話を聞いていけるとよいのではないかと思うのです」と黒川さん。

これは、親などを介護している家族にも言えることだ。家族であれば、本人が何を大切にしているか、何を求めているか、思い至ることも多いはずだ。しかし家族であるがゆえの甘えから、それをないがしろにしたり、後回しにしたりしてしまうこともある。結果として、それで本人の機嫌を損ねて関係が難しくなり、かえって対応に時間や手間をとられてはいないか。

親子間で機嫌取りのようなことをするのは、面倒だ、気恥ずかしいという人もいるだろう。しかし、そこに時間と気持ちを使うことで良い関係を保つことができ、やりとりがスムーズになるのであれば、その方がよいのではないか。

自分に注目して、自分の話を聞いてほしい。そんな思いに気づいてほしいと望む利用者は少なくない(ペイレスイメージズ/アフロ)
自分に注目して、自分の話を聞いてほしい。そんな思いに気づいてほしいと望む利用者は少なくない(ペイレスイメージズ/アフロ)

難しい相手には心を整えてから会う

話を聞くといっても、本人が本当に混乱しているときには、なかなか難しい。そんなときは、少し時間をおくほうがいいだろう。どんなに難しい利用者も親も、ずっと怒鳴り続けたり、セクハラ行為をし続けたりするわけではないはずだ。

「ちょっと落ち着いているとき、ちょっといい表情をしているときに、少しでも心が通う会話ができれば、そこが一つの突破口になるのではないでしょうか」と黒川さん。

「もう一つ大切なのは、混乱した方に向き合ったとき、介護職自身がパニックにならないよう心がけることです。そうでないと、相乗作用で余計混乱してしまいます。対応が難しい人のところに行くときには、深呼吸をして、『これからちょっと難しい人に会うのだ』と、自分の態勢を整えてから出向くのも大事なのではないかと思います」と黒川さんは語る。

実は、介護している家族こそ、これが重要だ。親子など心理的距離の近い相手ほど、一度気持ちが泡立つと、なかなか冷静なやりとりができなくなるからだ。カチンとくることを言われたとき、それが他人であれば受け流せるのに、親や兄弟、子どもから言われると、つい言い返してしまうという人も多いのではないか。そこから、感情的なやりとりになって関係を悪くしてしまう恐れもある。だからこそ、何かあっても過剰に反応しないよう、心を整えてから顔を合わせたい

心理的な距離が近いほど、カッとなると冷静に話すことが難しくなるものだ(写真:フリー画像)
心理的な距離が近いほど、カッとなると冷静に話すことが難しくなるものだ(写真:フリー画像)

介護している相手から、カチンとすることを言われ、心が泡立ったら、何も言わずに一度その場を離れることだ。腹が立ったら10秒数える、というアドバイスもあるが、これは意外に難しい。それよりその場を立ち去り、気持ちが落ち着いてから戻って話をする方が簡単だ。試してみてほしい。

以上、介護職へのハラスメントや、介護する家族への暴言などへの対応を見てきた。

人間相手のことに100%の対策はない。しかし、人が起こすどんな行動にも何か理由がある。その理由、背景にある思いは何なのか。それを知りたい、理解したいという気持ちさえあれば、いつかわかり合い、上手に対応できるのではないだろうか。

介護福祉ライター/社会福祉士+公認心理師+臨床心理士

高齢者介護を中心に、認知症ケア、介護現場でのハラスメント、地域づくり等について取材する介護福祉ライター。できるだけ現場に近づき、現場目線からの情報発信をすることがモットー。取材や講演、研修講師としての活動をしつつ、社会福祉士として認知症がある高齢者の成年後見人、公認心理師・臨床心理士として神経内科クリニックの心理士も務める。著書として、『介護職員を利用者・家族によるハラスメントから守る本』(日本法令)、『多職種連携から統合へ向かう地域包括ケア』(メディカ出版)、分担執筆として『医療・介護・福祉の地域ネットワークづくり事例集』(素朴社)など。

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