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樋口尚文の千夜千本 第111夜「ひそねとまそたん」(樋口真嗣総監督)

樋口尚文映画評論家、映画監督。
(C) BONES・樋口真嗣・岡田麿里/「ひそねとまそたん」飛実団

ダメな少女とヘンなモンスターのほんわか青春譚

樋口真嗣総監督、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』の 岡田麿里の脚本になる連続テレビアニメ『ひそねとまそたん』の第一話・第二話の試写を観た。航空自衛隊の岐阜基地の新人・甘粕ひそねが、基地に密かに管理されているドラゴンと交感し、成長してゆく物語なのだが、何より面白いのは、空自に龍が秘匿されていて戦闘機に擬態するというユニークなアイディアと、それを乗りこなすパイロット要員に抜擢された主人公ひそねの珍妙なる性格設定だ。

もちろん『エヴァ』にしても主人公のパイロットたちがみんな心に傷を抱えていたり、神経衰弱みたいになっているところが画期的だったけれども、今回はそのポジティブ版と言うべきか、ひそねが思ったことを全部口に出してしまう際立った天然キャラで、ADHDっぽい言動も多く、そういう性格をついつい制御できないことに悩んでいる、という設定なのである。

その悪気はないが組織人としてはまるでダメ子なひそねなのに、なぜかドラゴンとの相性はよく、それがまた優秀なパイロットを目指して力んでいる隊員の嫉妬を買ったりと、さっそく人間関係で波乱を呼ぶ。まだほんの序盤ながら、このひそねの自他ともに呆れる「やらかしキャラ」としてのダメさ加減がなかなか面白く、ひそねをパックンと飲み込んで戦闘機に擬態するまそたんの表現もユーモア満点で、この先の展開がとても楽しみなシリーズである。岩崎太整の音楽も朗々と作品のトーンをつくっていてよかった。

映画評論家、映画監督。

1962年生まれ。早大政経学部卒業。映画評論家、映画監督。著作に「大島渚全映画秘蔵資料集成」(キネマ旬報映画本大賞2021第一位)「秋吉久美子 調書」「実相寺昭雄 才気の伽藍」「ロマンポルノと実録やくざ映画」「『砂の器』と『日本沈没』70年代日本の超大作映画」「黒澤明の映画術」「グッドモーニング、ゴジラ」「有馬稲子 わが愛と残酷の映画史」「女優 水野久美」「昭和の子役」ほか多数。文化庁芸術祭、芸術選奨、キネマ旬報ベスト・テン、毎日映画コンクール、日本民間放送連盟賞、藤本賞などの審査委員をつとめる。監督作品に「インターミッション」(主演:秋吉久美子)、「葬式の名人」(主演:前田敦子)。

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