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金正恩の健康悪化説「最も単純な説明は”新型コロナ疎開”だが、真相は闇の中」米専門家

木村正人在英国際ジャーナリスト
健康悪化説が報じられている北朝鮮の金正恩氏(写真:ロイター/アフロ)

[ロンドン発]北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長の健康悪化説を巡り、さまざまな情報が飛び交っています。朝鮮半島情勢に詳しい核問題の第一人者である有力シンクタンク・国際戦略研究所(IISS)アメリカのマーク・フィッツパトリック前本部長(現研究員)におうかがいしました。

木村:金正恩氏が手術を受けたあと重体になったとか、心臓手術が失敗して植物人間になったという報道が続いていますが、どう見ておられますか。

フィッツパトリック氏:確認されている情報が少ないため、金正恩氏の健康状態について推測するのをためらいます。彼が2014年の秋、40日間も姿を消したことがあります。この時、多くの北朝鮮ウォッチャーが何か恐ろしいことが彼に起こったに違いないと考えたことを思い出します。

しかし、それはあとで嚢胞(のうほう)を取り除くための足首の手術に過ぎなかったことが判明しました。今回はもっと深刻かもしれません。しかし、新型コロナウイルスの感染から逃れるため、北朝鮮東海岸の元山市にある邸宅にこもっている可能性もあります。

木村:何か前兆はありましたか。

フィッツパトリック氏:金正恩氏が祖父・金日成の誕生日の4月15日の祝賀行事に姿を見せなかったこと、4月14日の短距離巡航ミサイルの発射実験に出席したと伝えられなかったことも注目に値します。

韓国の新聞は、金正恩氏がミサイル発射を視察している間にケガをしたのかもしれないと推測しています。しかし、これは単に推測に過ぎません。異常を示唆する北朝鮮の軍の動きまたはその他の軍事活動についての公開情報はありません。

木村:金正恩氏の病歴について教えて下さい。

フィッツパトリック氏:金正恩氏は著しく太りすぎで、ヘビースモーカーであり、高血圧と糖尿病とみられています。祖父や父の心臓病を受け継いだとも疑われます。 金日成や父の金正日も心臓発作を起こして亡くなりました。

金正恩氏が先週、心臓発作を起こしたという未確認情報はもっともらしいですが、韓国政府は、彼は健在で健康だと言っています。

木村:今回の騒動は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)と関係していると思いますか。金正恩氏はひょっとするとウイルスに感染しているのでしょうか。

フィッツパトリック氏:金正恩氏が公の場から姿を消していることへの最も単純な説明は、新型コロナウイルスの感染予防のために彼が社会と距離を置いているということかもしれませんが、真実を知るのは難しいです。彼自身が感染したというウワサは根拠のない推測のようです。

木村:金日成が1994年に急死し、金正日が2011年に亡くなった時には何が起きましたか。

フィッツパトリック氏:金日成が1994年に突然亡くなった時、82歳で体調を崩していたにもかかわらず、驚きました。その夏、ジミー・カーター元米大統領との会談で、金日成は核兵器計画を中止することに同意し、アメリカとの新たな関係を開きたいと示唆していたからです。

米国務省でわれわれは、金日成の死後、米朝の関係改善の方向性が維持できるかどうか疑問に思いました。北朝鮮は合意された枠組みに残ることに同意したので安心しました。

金正日が2011年に亡くなった時、数年間健康状態が悪いと疑われていたので驚きませんでした。彼もまた死の直前にアメリカとの関係改善を進めたかったと言われました。

金正恩氏の場合、表面的にはドナルド・トランプ米大統領との関係を改善しましたが、核兵器またはミサイル計画を削減するための措置を講じていません。トランプ大統領との関係も個人的なものに過ぎません。

金正恩氏が死んだとしても、それに左右されるものはほとんどなく、彼の後継者が金正恩氏以上に核兵器を放棄する意思があると考える根拠はありません。

木村:もし金正恩氏が死んだ場合、誰が後継者になるのでしょう。

フィッツパトリック氏:北朝鮮における血統の重要性と、金王朝が「白頭山血統」と呼ばれる神話に重点を置いていることを考えると、最も可能性の高い後継者は金正恩氏の妹である金与正氏です。

32歳で若すぎると言う人もいますが、金正恩氏が2011年に金正日の跡を継いだ時は27歳でもっと若かったです。一部の人は、北朝鮮は女性指導者を受け入れないだろうと言いますが、韓国で朴槿恵大統領が誕生した時、ジェンダーは問題にはなりませんでした。

金与正氏が後継した場合、マイク・ペンス米副大統領は2018年平昌冬季五輪に出席した時に彼女を敬遠したことで非難されるべきでしょう。2人は非常に接近してVIP席に座ったのに、ペンス副大統領は金与正氏を見もしませんでした。

この失礼な態度は、彼女が実際に後継者になった場合、アメリカの努力の妨げになる恐れがあります。

マーク・フィッツパトリック氏

マーク・フィッツパトリック氏(筆者撮影)
マーク・フィッツパトリック氏(筆者撮影)

米ハーバード大学ケネディ行政大学院修了後、米国国務省で26年間勤務し、国務次官補代理として核不拡散問題を担当。2005年よりIISSに移り、不拡散・軍縮プログラム部長などを務める。日本の防衛研究所(1990~91年)のプログラムに参加したこともある。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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