世界のゴルフ界を震撼させたPGAツアーとリブゴルフの統合は「たったの7週間」で合意に達した!?
今、思えば、今年4月のマスターズ以降、米ゴルフ界ではPGAツアーとリブゴルフの対立に関わる話題が激減していた。
それは、束の間の休息のように感じられていたが、実際は、あの静寂期間こそが、PGAツアーとリブゴルフが統合合意を迎えるための水面下の交渉期間だった。
【7週間で合意に至った】
「PGAツアー」「DPワールドツアー」、リブゴルフを支援するサウジアラビアの政府系ファンド「PIF(パブリック・インベストメント・ファンド)」の3者の統合合意が発表されたのは6月6日(米国時間)の朝だった。
発表後は、米ゴルフ界も世界のゴルフ界も蜂の巣をつついたような状態になり、PGAツアーのジェイ・モナハン会長は、合意に至った「説明」というより、むしろ「釈明」に追われている。
今週のPGAツアーの大会、RBCカナディアン・オープンの会場で開かれた緊急の選手ミーティングでは、モナハン会長に質問の嵐が浴びせられた。
これまでリブゴルフからの誘惑を振り切り、PGAツアーに忠誠を誓ってきた選手たちの中には「裏切られた」といった言葉をSNSで発信している者もいる。
そんな彼らがモナハン会長にぶつけた最大の疑問は、「サウジアラビア側(PIF)の首脳陣と直接会うことをあれほど拒んでいたのに、一体なぜ、どうやって会合を持ち、合意に至ったのか?」というものだった。
モナハン会長は「お互いに緊張状態を続けるより、会って話して理解し合うことがベストだと思った。状況は変わるし、取り巻く環境も変わるんだ。常にビッグ・ピクチャーを描いて行くべきだと考えた」と答えた。
そして、覚悟を決めたかのように、こんな言葉を口にした。
「人々は私のことを偽善者と呼ぶだろう。私に対する批判は、甘んじて受ける」
米ゴルフウィーク誌によると、モナハン会長とPIFのヤセル・ルマイセン会長を筆頭とする双方のごく少人数の首脳陣が、水面下で交渉を行なったのは、ここ7週間だそうだ。
世界を震撼させた統合合意までの所要時間は、驚くなかれ、「たったの7週間」だったのだ。
米ゴルフ界が妙に静かになっていたマスターズ終了後から6月にかけての7週間に、彼らはひっそりと動き、直接会ったのは4回、それ以外はリモートと電話による話し合いによって、この途轍もなく大きな統合の合意に至ったという。
リブゴルフへの対抗策として賞金を高額化し、新たなボーナス制度を創設し、裁判費用はかさむ一方というこの2年を経て、「『内戦』にかかる費用があまりにも莫大」「そのために失なわれていくマネーは果てしない」と認識したことが、モナハン会長の心を動かし、変えた様子である。
「失われたお金を2024年シーズンに向けて補填できるかどうか。PIFは、いい返事をくれた」
モナハン会長の言葉を聞く限りでは、それが合意に至った最大の理由なのだと思われる。
【僕は今でもLIVが嫌いだ】
しかし、モナハン会長とともにリブゴルフとの『内戦』を戦っていると信じていたPGAツアーの選手たちにとっては、あまりにも「寝耳に水」すぎて、すぐさま「はい、そうですか」と頷けるものではないだろう。
とりわけ、選手たちの先頭に立って「アンチ・リブゴルフ」の旗を振ってきたローリー・マキロイは、冷静さを保とうとしながらも、語気は自ずと強まり、ついには激しい言葉も口を付いた。
マキロイは、モナハン会長がPIFと水面下で交渉していたことは「知っていた」。だが、「こんなにも早く結論が出され、発表されるとは思いもしなかった。もっと時間が欲しかった。もっと話をしたかった」。
「巨大な資金力を持つ相手を、敵にしたいか、味方にしたいか?そりゃあ、味方にする方が得策だ。それは理解できる」
とはいえ、「僕は今でもLIVが嫌いだ。できることなら、消えてほしい」。
ストレートに胸の内を吐き出したマキロイは、今後はリブゴルフに絡む事柄に積極的に関わることは「僕は辞退する」と言い切った。
【反トラスト法違反?】
統合合意によって、リブゴルフとの緊張状態にはピリオドが打たれたものの、当面はモナハン会長と選手たちとの間に生まれてしまった緊張状態によって、米ゴルフ界は大揺れしそうである。
「PGAツアーvsリブゴルフ」の法廷闘争も、双方が訴えを取り下げることで「終了」となると見られているが、今度は、この統合によって誕生する一大組織が「反トラスト法に違反するのではないか?」と指摘され、すでに米司法省が調査を開始している。
ゴルフ界に本当の静寂が訪れるのは、まだまだ先になりそうである。