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藤井聡太八冠に挑む「藤井世代」 輝く才能を持つ新世代の挑戦者たち

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
記事中の画像作成:筆者

 藤井聡太八冠(21)が全冠制覇を達成して、将棋ファンの注目は誰が藤井八冠からタイトルを奪うかに向けられています。

 王座戦五番勝負で死闘を繰り広げた永瀬拓矢九段(31)など、トップ棋士が今なお有力候補ですが、若手の活躍にも期待が高まっています。

 この記事では、藤井八冠と同世代またはそれ以下の世代に属する有望な棋士に焦点を当てて紹介します。

実績を残している挑戦者たち

 まず、注目すべきは伊藤匠七段(21)です。竜王戦で強豪を連破して挑戦権を勝ち取ったのは記憶に新しい出来事です。

 現在、伊藤七段は藤井竜王と七番勝負を戦っています。

藤井竜王が防衛にあと1勝と迫っている
藤井竜王が防衛にあと1勝と迫っている

 今回の七番勝負で伊藤七段は真っ向勝負を挑んでいます。最新形の序盤戦術を試み、中盤、終盤と正面からぶつかっています。

 しかし、残念ながら、ここまではそれが結果につながっていません。

 伊藤七段は初めてのタイトル戦とは思えないほど堂々と戦っており、それが現在の実力差を埋める可能性を示唆しています。伊藤七段はまだ21歳であり、今回の経験は今後の成長に必ず役立つことでしょう。

 次に注目すべきは、藤井竜王よりも若い藤本渚四段(18)です。

 現在、2つある若手棋士の棋戦の両方で決勝に進出しています。これは素晴らしい実績であり、若手棋士の中で頭一つ抜け出ている証明です。

 そのうちの一つである第54期新人王戦決勝三番勝負は第3局が明日(10月31日)行われます。勝利した方が優勝となる、大一番です。

ここまで1勝1敗。第2局は180手を超える大熱戦だった
ここまで1勝1敗。第2局は180手を超える大熱戦だった

 先月、筆者は藤本四段と公式戦で対戦しました。

 序盤から優位に進めながら、終盤の一失で逆転負けを喫する残念な対局でした。

 感想戦での話を聞いた感じでは、藤本四段は終盤での読みの速さと正確性に強みがあるようです。

 一方で、本人も自認しているように序盤が課題のようで、藤井八冠を倒すためには序盤の強化が鍵となるでしょう。

10代の挑戦者たち

 藤本四段と新人王戦の決勝で対戦中の上野裕寿四段(20)はプロ入りからまだ日の浅い新人です。プロ入り前にこの棋戦に参加し、増田康宏七段(25)や伊藤七段に勝利して決勝進出を果たしました。

 決勝進出を決めた後にプロ入りを果たし、プロデビュー戦が決勝戦という珍しい記録を作っています。

 上野四段は三段リーグの突破に時間がかかりましたが、新人王戦での実績からもその間に力を蓄えていたことがわかります。破った相手を見ても、今後の活躍に期待が高まります。

 正統派の居飛車党という将棋のスタイルや、三段リーグでやや苦戦したこと、さらにはルックスまで、全ての点で斎藤慎太郎八段(30)に似ていると筆者は感じています。

 藤本四段が決勝に進出しているもう一つの棋戦は第13期加古川青流戦です。

今週末に全3局が行われる
今週末に全3局が行われる

 こちらの対戦相手はまだプロ入り前の吉池隆真三段(18)です。吉池三段はプロに4連勝して決勝に進出しました。

 相居飛車では右玉、対振り飛車でも右玉と、右玉のスペシャリストとして知られています。新人王戦では服部慎一郎五段(24)を右玉で破り、ファンの間で話題になりました。

 プロ入りを目指す三段リーグには、吉池三段以外にも10代で有望な人が多くいます。

 藤井八冠が「詰将棋の実力では自分より上かもしれない」と語る岩村凛太朗三段(17)。

 前期の三段リーグでは惜しくも3位(プロ入りは2位まで)だった山下数毅三段(15)は、今期の三段リーグで中学生棋士のラストチャンスを迎えています。

 三段リーグに初参加の炭崎俊毅三段(15)も中学生棋士の可能性があります。

 三段リーグで複数名に中学生棋士の可能性があるのは珍しいです。

 若手棋戦の2つで決勝に進出しているメンバーも非常に若く、若い世代が育ってきている様子がうかがえます。

 これは藤井八冠の強い影響でしょう。藤井八冠の輝く才能に触発されて、新世代の挑戦者たちの才能も光り輝き始めているのだと思います。

俊英揃いの「藤井世代」

 まだ大きな活躍は見せていないものの、ポテンシャルを秘めた「藤井世代」の若手棋士が関西に揃っています。

 高田明浩四段(21)は藤井八冠と同学年で、高勝率を誇っており今後の成長が期待されています。

 いまは、あと一歩のところで敗戦を喫することが続いています。その壁を突破すれば、大きな活躍につながるでしょう。

 狩山幹生四段(22)は藤井八冠の一つ上の学年で、受けに偏った独特の棋風の持ち主です。その将棋には強い個性を感じます。

 新人の森本才跳四段(22)も藤井八冠の一つ上の学年で、四間飛車のスペシャリストとして知られています。

 最近では、振り飛車を得意とする若手棋士が少ないので、その活躍は将棋界に新たな息吹をもたらすかもしれません。

 今回挙げた若手たちが、伊藤七段を除けば、直ちにタイトル戦の舞台に立つのは難しいかもしれません。

 しかし、2~3年後を見据えると、彼らが藤井八冠に挑む有力な候補になる可能性は十分にあります。

 これらの若手棋士の名前を覚えておくことで、将棋界を楽しむ際に新たな魅力を発見できるでしょう。 

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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