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【次期総理との声も強まるが】 石破氏を阻む“前門の安倍首相と後門の竹下派”

安積明子政治ジャーナリスト
総裁選に意欲を見せる石破氏だが……(写真:アフロ)

安倍VS石破

「本日、(人が)集まらなかったら、自殺しようかと思った」

 5月30日にホテルニューオータニで開催された石破茂元自民党幹事長が率いる「水月会」のパーティー。午後5時半から開かれた講演会の冒頭で、同会の会長代行を務める山本有二元農水大臣が危なっかしい冗談を言うと、会場からどっと笑いが起こった。

 しかし芙蓉の間で開かれた講演会は満席になったものの、20名に過ぎない派閥にとって、懇親会での鶴の間は広すぎたようだ。鶴の間はオータニの最大のバンケットルームで、同じ会場で麻生派が4月12日、二階派が4月23日にパーティーを開いたが、いずれも動けないほどの満席だった。しかし石破派のパーティーでは、後方部にスペースが目立っていた。

 もうひとつ、麻生派や二階派と異なる点があった。この2つのパーティーには安倍晋三首相が顔を見せ、祝辞を述べたが、石破派のパーティーでは安倍首相の姿はなかった。安倍首相と石破氏は不仲説がささやかれており、「官邸からパーティーに参加しないようにという指令が飛んだ」との噂も飛んだ。

 だが同時刻、安倍首相にはベトナムのクアン国家主席夫妻を歓待する宮中晩さん会に昭恵夫人とともに出席する予定が入っていた。公務優先という口実は、安倍首相に幸いした。噂はすぐに消えた。

「石破さんと喧嘩する」

 もうひとつ、物騒な話が持ち上がっている。竹下派の竹下亘代表が挨拶に立った時、開口一番に「今年の夏にかけて、石破さんと喧嘩しなくてはいけない」と述べたことだ。

「喧嘩しなくてはいけない」というのは、もちろん来年夏の参議院選での公認をめぐる問題だ。参議院の選挙区は2年前の選挙から「合区制度」が採用され、高知県選挙区と徳島選挙区、島根選挙区と鳥取選挙区がそれぞれ1つの選挙区となった。前回の参議院選では、自民党は島根県側の青木一彦氏を公認候補に擁立。青木氏はかつて自民党参議院を牛耳り、今でも影響力を発揮する青木幹雄官房長官の長男で、当選1期目だった。鳥取県側には、2010年に自民党で当選した浜田和幸氏が離党し、選挙区選出の現職がいなかったのが幸いした。

 これをもって、「次期総裁選をめぐって青木氏と石破氏がバーターした」と見る向きもあるが、実際にはそれほど単純ではない。実は鳥取県側も、竹内功前鳥取市長が出馬の準備をしていたが、青木氏への一本化により比例区に転出となったのだ。竹内氏は8万7578票を獲得したが、次点で落選した。

合区がネックに

 一方で徳島・高知の合区によって比例区に転出した中西哲氏は竹内氏よりも30万票以上も多い39万2433票を獲得している。その理由は麻生派の頑張りだ。中西氏が選挙区を譲った中西祐介氏は麻生派の所属で、そのために麻生派は「譲ってもらった恩義」に応えるべく、中西哲氏の比例票獲得に全力で動いたという。

「しかし額賀派(現竹下派)は動いてくれなかった。島根県も竹内票が多かったわけではない」

 石破派関係者は不満を漏らす。しかも石破派には、2013年の参議院選で鳥取選挙区で当選し、来年には改選を迎える舞立昇治参議院議員がいる。パーティーでは「竹下さんも、本人もいるのだから、少しは気を遣ったらいいのに」という声も出た。

 だが竹下派も、来年に改選を迎える島田三郎参議院議員を抱えている。故・竹下登元首相の秘書を務めた島田氏を無下に降ろすことはできないが、そうなると下手をすれば国会には鳥取県の参議院議員がいなくなる可能性も出てきている。これは鳥取県を地元とする石破氏にとって大ピンチだ。

 もし竹下派と石破派が合流すれば、この問題は解消する。しかも石破氏はかつて故・田中角栄元首相の門下生で、竹下派と共通のDNAを持つ。

 しかしそう簡単にいくのなら、竹下氏が「石破さんと喧嘩しなくてはいけない」と言うだろうか。また竹下派には将来の総裁候補として、故・小渕恵三元首相の次女の優子氏がいる。

 各世論調査ではおしなべて「総理大臣にしたいナンバーワン」である石破氏だが、9月に予定される総裁選では投票権を持つのは自民党員であり自民党所属の国会議員。よって党内でパワーがいまいちでは勝負にならない。

 あと3か月余りで、思わぬ展開が繰り広げられる可能性も否定できない。自民党の権力闘争ほど、面白いものはない。

 

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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