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FA宣言今江の涙が示す感動と制度の構造的・運用上問題点

豊浦彰太郎Baseball Writer
(写真:ロイター/アフロ)

海外FA権を有するロッテの今江敏晃が権利行使を発表した。会見では、涙を流しながら苦しんだ末の決断だったことを語った。彼の涙には、共感させられる部分と大いに考えさせられる点がある。それについて、述べてみたい。

まずは前者だ。これは、日本人ならではの帰属意識とグループオリエンテッドな思想の美徳を感じさせる。本来、彼の判断には何ら後めたい部分はない。長年チームに貢献してきた結果として得られた貴重な権利なのだから。行使するのは後進のためにも重要なことだ(ここでは、多くの球団が宣言後の再契約を認めていない事実は置いておく)。

それでも、お世話になった球団なりファンへの感謝で感極まるのは、彼の人徳だろう。ぼくはこの会見を見て、2001年のオフに日本ハムからFA宣言をした片岡篤史が、大粒の涙をハラハラと流しながら、去りゆくことをファンに詫びた会見を思い出した。

しかし、今江の会見は感動のストーリーのみとして捉えることはできない。彼に涙を流させたのは、「FA宣言」という本質的に不要なプロセスが存在しているからだ。どうして、 メジャーのようにFA権を得た選手はオフに自動的にFAとなることにできないのか?現在の「宣言」を要する規定は、FA発生を精神的に抑制しようという意図が感じられる。はっきり言って手続き上不要だし、人道的にも問題があると思う。そして、多くの球団は宣言後の残留を認めていない。これにより、宣言するかしないかは、あたかも球団への忠誠心を問う踏み絵の儀式のような存在になっている。

他球団がどんな条件提示をしてくるかどうかも分からないのに、まずは出て行くか残るかを決めろと言う。これでは、チームやファンを愛しつつも他球団の評価を聞いてみたい選手は、今江のように苦しみ抜いて涙にくれるしかない。選手がかわいそうだ。

ぼくは、このことでNPB機構や球団経営者を責めようとは思わない。このような制度に対し、改善の動きを見せようとしない(動いているのかもしれないが、成果はすくなくとも見えてこない)選手会の姿勢こそが問われるべきだと思う。現状を是としては何も生まれない。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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