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爆笑問題・太田光が「くだらない」と言い放った『ツギクル芸人グランプリ』の若手芸人

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

太田光が全力でふざけて始まった『ツギクル芸人グランプリ』

『ツギクル芸人グランプリ2023』が7月8日に生放送されていた。

司会は爆笑問題であった。

放送開始早々、太田光は客席におりて「助けてくれ!」と叫んでいる。

あいかわらずである。

いちおうお笑い賞レースの一つであるが、あまり緊張感がない。

出演者はおそらくかなり真剣だろう。

しかし、M−1ほどの緊迫感を持たせないように作られていた。

それをわかって、最初から爆笑問題の太田が全力でふざけて、いろんな空気を掻き乱していた。あのキャリアでもこれをやりつづけているのは、なかなかにすごいことである。

選考基準がやや曖昧な「ツギクル芸人グランプリ」

太田光は、計算して羽目をはずしているようだった。

それに合わせて、相方の田中裕二は、かなり冷静にツッコんで制御していった。このあたりの呼吸は見事である。

このコンビがこういう「息」を見せると、場を圧倒的に制御して、すごい。

爆笑問題の二人が司会(MC)で、進行がフジテレビの永島優美アナであった。

「ツギクル芸人」に出場している基準は、すこし曖昧である。

目立ったテレビレギュラーを持っておらず、芸能事務所からの推薦があったもの。そこから選ばれているらしい。

春の選抜高校野球のように、選考基準がちょっと曖昧だ。

べつだんそれはかまわない。

5組ずつパフォーマンスが終わってから審査する

出場したのは全部で15組だった。

5組ずつ3ブロックに分けて、勝ち抜き戦となる。

5組のパフォーマンスが終わってから、一番よかったものを選ぶ。

ブロックごとの1位が決まり、その3組がもういちどパフォーマンスを見せて、優勝を決める。

対象チームのパフォーマンスをすべて見終わってから順位を決める審査である。負担はやや少ない。そのあたりも緊迫感を薄める要因になっている。

爆笑問題がパフォーマンスごとにコメントする

パフォーマンスは5組連続でおこなわれる。

1組終わるたびに、司会の爆笑問題が少しだけコメントする。

そのコメントが長引かないうちに(太田が暴走する前に)すぐさま永島アナが引き取って次に進める。

そういう手順で進んでいった。

まず最初にひとこと言うのは太田光である。

このへんはコンビの呼吸だろう。

15組中、田中のほうが先に喋りだしたことが1回だけあったが、残りは太田の受けから始まっていた。

「嚙まないでくださいよ」と田中にツッコまれる

それぞれのパフォーマンスを受けて、太田光はどう言ったのか。

並べてみる。

まず最初の5組。

インテイク。

「すっごいねえ、一発目からねえ……」

さんだる。

「いやあ、すごい世界だねえ」

ツンツクツン万博。

「いやあ、これは斬新だったねえ」

さすらいラビ−。

「まあ、あいつは絶対クスリやってるとおもいます」

三日月マンハッタン。

「いやあすごかったね、松竹芸能所属っていう逆っこ、逆境をですね……」(田中;そこ嚙まないでくださいよ)

「すごいねえ」と言ってしまうのが基準である。

そういう大会なのだ。

最初の5組では、ツンツクツン万博への「斬新だった」というのはかなりの褒め言葉だろう。

このブロックではツンツクツン万博が勝ち抜けた。

「くだらない」と言い放たれたファイヤーサンダー

次のブロックの5組。

群青団地。

「すごいねえ、これは驚いたねえ。Netflixでドラマ化してほしい」

TCクラクション。

「すごい、まさに一寸先は闇、これはキャンドル・ジュンに見せたい」

ファイヤーサンダー。

(先に田中が「すごいねー」と言ったあと)「くだらなかったですね、間違いなく今日一番くだらないネタだとおもいます」

ママタルト。

「いやあ、もっとくだらないやつ、いましたね」

ひつじねいり。

「すごいねえ、いまどきあんなベタベタな関西人いねえだろ」

ここでは「くだらない」という言葉を使っていた。

ファイヤーサンダーがくだらないと言われ、ママタルトはもっとくだらない、といわれていた。

この場合、くだらない、はかなりの褒め言葉である。

ただ、このブロックで勝ち抜いたのは「べたべたの関西人」のひつじねいりだった。

変なだけじゃ人は笑わない

最後の5組。

ゼンモンキー。

「すごいねえ、衝撃作! おそろしいよ」

徳原旅行。

「いやあ、むかつくやつですね。あいつも絶対テントに食われりゃいい」

まんじゅう大帝国。

「新しいねえ、あいつら落語やってたからね、落語うまいの、鼻につくね」

パンプキンポテトフライ。

「すごかったね。またね、変なだけじゃ人は笑わないって、名言だよね、おれも肝に銘じなきゃ」

ナイチンゲールダンス。

「すごいなまた。結局、変なだけでも人は笑うな」

太田光はいろんなことを言うもんだと感心する。

「新しい」と言ったまんじゅう大帝国を気に入っているように見えた。

ただ、このグループで抜け出したのはナイチンゲールダンス。

優勝したのはナイチンゲールダンス

決勝で3組がもういちどネタを披露して、結局、ナイチンゲールダンスが優勝した。

「ツギクル」の芸人たちは、みんな元気があふれていた。

M−1や、セカンドなどとはずいぶん空気が違っている。

勢いが突き刺さってくるようだ。

だから、パフォーマンスが終わったあと、まず「すごいなあ」と言ってしまうのがわかる。

とにかく売り込もうとしている

M−1など、賞金が1000万円の大会の漫才は、もっと緊張が高い。

完成させたものをきちんとみせようという意識が高いからだろう。おもいかえしてみると、制限内の芸を見ている気分が強い。

「ツギクル」はもう少し気楽で、そのぶん勢いがすごい。

賞金は100万円らしいが、優勝すると数々のバラエティ番組に出演できる。

それで売れるとはかぎらないが、でも大きなチャンスをつかむことはできる。

だから「どれだけうまく漫才(お笑い)を演じられたか」よりも「どれだけおもしろいパフォーマーであるか」のアピールが高かったようにおもう。

私はおもしろいよ、という主張が強い。

キャラクターが目立つ。

とにかく売り込もうとしている。

パフォーマンスも、型にはまっていない芸が多かった。

見終わって「ほう」という言葉が出てしまうような元気な芸である。

「すごいねえ」と受けるのが、まあ、ふつうだった。

太田光の選んだ言葉

若手が売り込みのために精一杯見せている芸は、元気に満ち溢れていると同時に可能性のかたまりでもあった。

「すごい」という反応がノーマルであり、太田もそれを常用している。

でもそれだけではおさめない。

「新鮮」

「くだらない」

「むかつく」

「新しい」

こういう言葉も使っていた。

太田光の言語センスの光ったところだ。

賞レースを盛り立て、会場を盛り上げるための言葉選びだろう。

このあたりが太田光のパフォーマンス力なのだな、とあらためておもう。

お笑い賞レースでの爆笑問題の司会はまた、独特の味わいがある。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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