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新一年生の交通安全。学校や家庭での安全教育、何をどのように教えるのか?

大谷亮心理学博士・日本交通心理学会/主幹総合交通心理士
(写真:アフロ)

 児童が歩行中に死亡・重傷を負った事故の中で、子ども側の法令違反の約4割は“飛び出し”です。

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出典:警察庁交通局「歩行中児童の交通事故の特徴等について」(https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/anzen/anzenundou/h31hokoutyujidou.pdf)より

 この点から、ドライバーの皆様には、小学校近辺などで子どもの飛び出しが予想される道路では、いつでも停止できる防衛運転をお願いします。

 また、7歳児の歩行中の事故が顕著なことから、新一年生の保護者の皆様や周りの方々には、入学前に道路の歩き方を必ずお子様に教えていただきたいと思います。

 小さな子にとって道路の横断は難しい課題ですので、「うちの子は大丈夫!」という方も再度確認して下さい。

◆何を教えれば良いのか?

 イギリスでは、王立災害防止協会(RoSPA)がGreen Cross Codeと呼ばれる交通安全のための指針を定め、学校などで広く活用されています。この中で、道路の横断方法として、次の内容を子どもに教えるように求めています。

(1)横断するのに安全な場所を探す

(2)飛び出さない

(3)車が接近していないかを目で観て耳で聴く

(4)接近する車がいる場合には、無理して横断しない

(5)横断する際には決して走らず、繰り返し目と耳で確認する

 (1)では、安全な場所として、信号や横断歩道のある道路、交通量の少ない道路、見通しの良い道路などを選んで横断することを教えます。

 (2)は、事故の原因として飛び出しが多いため、特に重要な内容です。ただし、飛び出しは衝動的な行動なので、「飛び出しは危ないよ」と言葉で伝えても、抑えられない場合があります。

 (3)について、“見る”“聞く”ではなく、“観る”“聴く”をお子様ができるようにしましょう。“見る”“聞く”は映像や音が自然と入ってくるものですが、“観る”“聴く”は、自分から意識して観たり聴いたりすることです。

 (4)では、“無理して横断しない”と書きましたが、「交通量が多いと横断できない」と考える方がいるかもしれません。しかし、交通量の多い道路を無理して横断すること自体が事故につながる危険な行為ですから、むしろ、(1)に戻って、信号機や横断歩道のある箇所を渡るようにお子様に伝えると良いでしょう。

 最後に、(5)のポイントは、“走らない”です。車道は危ないところだから、速く渡るべきという考えもあるかもしれませんが、(1)で安全な道路を横断することをお子様に理解してもらえれば、走る機会も減るでしょう。また、道路上を走ることを推奨することで、飛び出しと似た状況を生み出しますので、横断時には走らないことを教える必要があります。

◆どのように教えるか?

 次に、横断方法の教え方です。

1.具体的に

 新一年生の場合、頭でイメージして考えることが、まだまだ難しい場合があります。そこで、通学路やお家の周りなどをお子様と歩き、道路の横断方法を“具体的に”教える必要があります。ここで、“具体的に”教えるというのは、言葉で説明するだけではなく、安全を確保した上でお子様に道路を横断してもらい、例えば、確認方法などの“行動”に焦点を当て教育を進めることです。

2.主体的に

 “具体的な行動”に焦点を当てる場合、お子様が行った横断に対して、良い点を褒め、不安全な行動が見られたら問題点を問いかけて、お子様が主体的に考えられるようにして下さい。この際、例えば、“道路を渡るとき右左後ろを見た?”といった「はい」「いいえ」で答えられるクローズド・クエスチョンとともに、「道路を渡るとき、何が見えた?」といった「はい」「いいえ」では答えられないオープン・クエスチョンで問いかけることで、お子様が何を理解しているかを確認できるとともに、お子様が主体的に考えることにもつながります。

3.スモールステップで

 道路の横断方法といっても色々と教える内容があります。一度に多くの内容を伝えても、小さいお子様が確実に理解できない場合があります。そこで、一つの目標を達成できたら次の目標を立てて、課題を一つずつクリアしていく方法を実践して下さい。例えば、安全確認について、横断前に止まって右左後ろに顔を向けられるようになったら、次に、接近する車がいないかを確実に確認するにはどのようにしたら良いかなどを習得できるようにすると良いでしょう。

4.継続的に

 スモールステップで一つ一つ教える作業は時間を要します。そこで、散歩や買い物に行く時間を利用して、繰り返しお子様に道路の横断方法を教えましょう。ここで、繰り返し教えていると、行動の自動化といって、顔だけを左右に向け、接近する車の確認が疎かになる場合があります。行動の自動化が見られたら、「道路を渡るとき何を見た?」などの問いかけを行って下さい。お子様のその時の状況や様子を見極めつつ、道路の横断方法を入学後も継続して教えていただきたく思います。

 その時のお子様の状況や様子を見極め、きめ細やかな教育ができるのは、普段からお子様と接している保護者の皆様や学校の先生方だけです。

 尊いお子様の命を守るために、小さいことの積み重ねが大事です。

心理学博士・日本交通心理学会/主幹総合交通心理士

心理学の観点から、交通事故防止に関する研究に従事。特に、交通社会における子どもの発達や、交通参加者(ドライバーや歩行者など)に対する安全教育プログラムの開発と評価に関する研究が専門。最近では、道路上の保護者の監視や見守りを対象にした研究に勤しんでいる。共著に「子どものための交通安全教育入門:心理学からのアプローチ」等がある。小さい頃からの愛読書は、「星の王子様」。

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