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熊本バスケ界で「鷹の祭典」を超える仕掛けを!ホークス元職員の社長が黒Tシャツに込めた「熊本城復興」

田尻耕太郎スポーツライター
熊本城でPRするベンジャミン・ローソン選手と田渡凌選手(熊本ヴォルターズ提供)

 地元プロスポーツチームを応援し会場に足を運ぶことが、郷土の誇りの復興に結びつく。

 そんな理念に基づいてイベントを仕掛けたチームがある。プロバスケットボールで今季B2リーグを戦っている熊本ヴォルターズだ。

BLACK VOL FESとは何か

 正月の来月1日、2日に行われる「熊本ヴォルターズvs愛媛オレンジバイキングス」、同7日、8日の「熊本ヴォルターズvsバンビシャス奈良」の計4試合(いずれも熊本県立総合体育館が会場)を『BLACK VOL FES』と銘打って開催する。

 この4試合ではこのイベントに合わせ作成されたオリジナルTシャツが来場者全員に配布されることになっており、BLACK VOL FESを通して熊本城の復興状況を伝えていくとともに、イベント売上の一部を熊本城の復興のために寄付するとしている。

熊本城の復旧はまだ序盤

 熊本城といえば、日本三名城に挙げられ、県民にとって誇りであり心の拠り所にもなっているが、2016年に発生した熊本地震で甚大な被害を受けた。

 懸命な復旧工事が続けられているものの、つい先日には完全復旧には当初の計画より15年遅れて2052年度になる見通しであることが報じられたばかり。

 道半ばというより、まだまだ序盤である。

京都サンガ~ホークスで職員歴のある球団社長

熊本ヴォルターズの福田拓哉社長(筆者撮影)
熊本ヴォルターズの福田拓哉社長(筆者撮影)

 また、熊本ヴォルターズは今季開幕前の7月に福田拓哉新社長が就任。経営体制が一新された。

 福田社長は北海道生まれの43歳。経歴がなかなか興味深い。立命館大学卒業後に「大家友和ベースボールクラブ初代事務局長」~「京都パープルサンガ(現・京都サンガF.C.)普及部スタッフとしてプロ契約」(その間に立命館大学大学院・経営学研究科博士課程前期課程修了)~「福岡ソフトバンクホークス・ホークスマーケティング」と歩み、新潟県内と福岡県内の大学でそれぞれ准教授となり教壇に立ち、スポーツビジネス・マネジメントの研究も行ってきた。

 来場者全員に配布――こう聞けば、特に九州のスポーツファンならば福岡ソフトバンクホークスの名物企画「鷹の祭典」を思い浮かべるはずだ。

 チーム社長が元ホークス職員と聞けば、なおさら点と点がつながる。

 『BLACK VOL FES』の舞台裏、そして込められた想いは――? 福田社長にインタビューした。

――「BLACK VOL FES」を考えたきっかけは?

「やっぱりプロスポーツの魅力って、会場が満員になって盛り上がる空間を作り出すこと。でも、新型コロナの影響もあり、満員とは程遠いのが実情です。しかし、Bリーグをはじめ各スポーツ界ともすでに動員率100%での試合運営が行われています。『熊本にも満員を作りたい』という思いが一つです」

――今回は熊本城復興が1つのカギとなっている。

「ただ満員を作るだけならば、それは『クラブの中』だけの話になるじゃないですか。満員になれば身内はハッピーになります。だけど、実際にはまだヴォルターズを知らない熊本県民の方がはるかに多いわけで、そういう皆様も一緒にハッピーになれるというか、ヴォルターズのことはなんとなく知ってるけど『いいことやってんだな』とか『このチームはこの地域にとってすごく必要かもしれないな』と感じてもらえる仕組みを作りたいとずっと思ってたんです。

 プロチームって困ったときは企業様に助けてくださいとスポンサーになってもらおうとするじゃないですか。いや、助けてくださいって言う前にちょっとできることをしたいな、その地域が困ってることとか、地域が抱えている課題の解決に、我々が一生懸命取り組むっていう姿勢をまずは見せることが大事だろうというのが思いのもう1つです」

――来場者全員に黒のTシャツを配布。やはり「鷹の祭典」がヒントに?

「来場者数を増やすというキーワードで考えると、やっぱり九州といえばホークス。鷹の祭典というお化けイベントがありますので、まずはこれをなぞろうと思いました。ただ、鷹の祭典をなぞるんだけど、鷹の祭典を超えるためにはどうしたらいいのか。社会性というか、ブースターやファンの皆様1人1人の来場促進が地域のためにもなるんだという、もう1つの軸や柱を立てたいと考えたんです。

 ならば、どの課題に対して取り組むかと考えた時、思い浮かんだのが熊本城でした。7月に(社長に)就任してから、最初はホテル暮らしでした。朝早く起きたときは熊本城を散歩したんです。それまで熊本県外の在住者だったので、熊本城も復興しつつあるというニュースは見ていました。だけど、そう思って足を運ぶと実情は全く違いました。それが頭にずっと残っていたんです」

インタビュー写真撮影時のみマスクを外してもらいました(筆者撮影)
インタビュー写真撮影時のみマスクを外してもらいました(筆者撮影)

――ヴォルターズのチームカラーは特に赤を基調としたトリコロールです。今回はなぜ黒に?

「熊本の色って何色なんだろうなと考えました。地域の色を考えたときに飛び込んでくるのが黒なんですよね。お城の黒壁って特徴的だし、熊本駅も外に出てぱっと振り返ると漆黒のモダンな感じ。熊本って400年前にできた熊本城も最近出来た駅も『黒』のキーワードで繋がってるな、と。これが熊本の色だなと思ったんですよ。熊本のプロスポーツチームは我々もロアッソ熊本も火の国サラマンダーズも、火の国をイメージして赤がチームカラーですが、赤いTシャツを配るよりも街の歴史や伝統文化と絡めたいという思いがありました」

――ちなみにホークスマーケティングに在籍していた際はどんなお仕事を?

「ファンクラブのクラブホークス担当でした。会員数を増やすとか、会員の皆様が何を考え、何を望んでいるかという部署にいたので、今もそういうことはしっかりやっていきたいと思っています。そして、プロ野球の球団だけでなくJリーグクラブにいた経験もあるので、Jリーグの特色である地域色をしっかり推すことを大事にしました。そもそもBリーグの理念はJリーグをモデルにしていますから。ホークスとサンガでの経験の合わせ技です(笑)」

――元日から試合があるのはすごい。

「1月1日にゲームを行うのはヴォルターズ史上初めて。会場にどれだけの方が足を運んでいただけるのか、正直不安はあります。今度のお正月はコロナ後では初めて規制のないお正月。久々に東京など県外から家族や友人がたくさん帰ってこられるんじゃないかと思います。そういった時に集まるきっかけだったり、みんなで盛り上がれる場所として『ヴォルターズ行ってみよう』と思ってもらえるように。しかも何か特別なイベントもやってるとなれば。そういうきっかけ作りにしたいですね」

応援が、郷土の復興に結びつく

 B2リーグは10月に開幕し、レギュラーシーズンは来年4月まで行われる。まずは地区上位に入り、B1昇格をかけたプレーオフ進出を目指す。

 現在チームはプレーオフ圏内におり、戦いは現在中盤に差し掛かったところだ。ただ、観客動員は苦戦を強いられており、熊本が主にホームに使用する県立総合体育館は満員で4000人ほど収容できるが、半数も満たない試合が多く続いている。

 ブースターやファンで満員になった会場ほど心地よい空間はない。非日常を味わえるプロスポーツの最高の醍醐味である。ファンもチームも、そして熊本も笑顔でハッピーになれるこの試みを成功させ、ヴォルターズやバスケットボールの観戦習慣を定着させるキッカケづくり、そして熊本の街を活気づける新たな“目玉イベント”にしたいところだ。

参考:熊本ヴォルターズ『BLACK VOL FES』

スポーツライター

1978年8月18日生まれ、熊本市出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。卒業後、2年半のホークス球団誌編集者を経てフリーに。現在は「Number web」「文春野球」「NewsPicks」にて連載。ホークス球団公式サイトへの寄稿や、デイリースポーツ新聞社特約記者も務める。また、毎年1月には千賀(ソフトバンク)ら数多くのプロ野球選手をはじめソフトボールの上野由岐子投手が参加する「鴻江スポーツアカデミー」合宿の運営サポートをライフワークとしている。2020年は上野投手、菅野投手(巨人)、千賀投手が顔を揃えた。

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