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小泉進次郎氏 解雇規制見直しの発言はどう変化したか? #事実整理 #自民党総裁選

楊井人文弁護士
自民党総裁選に立候補した小泉進次郎氏。出馬会見で解雇規制見直しに言及していたが…(写真:ロイター/アフロ)

 自民党総裁選に立候補している小泉進次郎氏が、実現したい政策として掲げている解雇規制の見直しについて、「緩和でも自由化でもない」と打ち消す発言を行い、トーンダウンしたとも報じられている。

 小泉氏は、実際に何を発言し、何を発言していなかったのか。本当に「緩和」ではないのか。発言がどう変化しているのか。これまでの発言内容を詳しく分析、整理した。

(9月15日現在のまとめ)

ポイント:解雇規制をめぐる小泉氏の発言

(1)小泉氏は出馬会見で、解雇規制の「見直し」と言ったが、「緩和」や「自由化」という表現は一度も使っていなかった。

(2)小泉氏は出馬会見で、大企業について解雇を容易に許さない判例があることに言及した上で「働く人が、業績が悪くなった企業や居心地の悪い職場に縛り付けられる今の制度」から「新しい成長分野やより自分にあった職場で活躍することを応援する制度」に変えると述べた。解雇規制の見直しは「大企業」の「人員整理」(整理解雇)の要件について述べたものだと説明していた。

(3)解雇規制の「緩和」は、出馬会見で記者側が使った表現だった。小泉氏はこのとき「緩和」という表現を明確に打ち消す発言をしていなかった。

(4)小泉氏が街頭演説で解雇規制の「緩和」と発言したかのような一部報道もあったが、小泉氏自身が「緩和」と述べたことはない。

(5)これまでのところ、小泉氏が「金銭解決」による解雇促進、容易化に言及したことはない。

(6)告示日以後、「解雇規制の見直し」を自ら積極的にアピールしなくなった。質問が出たときに「緩和」という捉え方を打ち消しつつ、働く立場に立った「労働市場改革」を強調している。解雇規制に関する具体的な制度設計は明らかにしていない。

(9月15日現在)

出馬会見で「解雇規制見直し」明言

 小泉氏は、9月6日に出馬会見を行った。

 冒頭で、「私が総理総裁になったら、1年以内に実現する改革と、中長期を見据えた構造改革の方向性を説明します」と発言。改革の1つ目に「労働市場改革を含め聖域なき規制改革」を挙げ、次のように述べた。

 その上で、選挙で選ばれた新たなメンバーで自民党を作り直し、今までの自民党ではできなかったこと、これからの私たちだからこそできることに挑戦します。
 一つ目は、次の時代も稼げる新しい産業が産まれる国にしたい。自動車産業に加え、世界で稼げる産業を子どもたちに見せたい。日本の産業の柱を一本足打法から二刀流へ。そして、世界へ。そのためには、必要な人材が必要な場所で輝けるように、労働市場改革を含め聖域なき規制改革を断行します。
 賃上げ、人手不足、正規非正規格差を同時に解決するため、労働市場改革の本丸、解雇規制を見直します。誰もが求められ、自分らしく、適材適所で働ける本来当たり前の社会に変え、日本の経済社会にダイナミズムを取り戻す。
 来年法案を提出します。

 この後、日本の現状認識、自民党の政治資金問題、政治改革について考えを述べた上で、「聖域なき規制改革」についての詳しい説明に入った。

 解雇規制の見直しについては、次のように発言した。

 岸田政権でも、リスキリング支援、ジョブ型人事の導入、労働移動の円滑化など、労働市場改革に取り組んできました。
 しかし、現在の改革は、本丸部分が抜け落ちています。それが、解雇規制の見直しです。
 解雇規制は、今まで何十年も議論されてきました。現在の解雇規制は、昭和の高度成長期に確立した裁判所の判例を、労働法に明記したもので、大企業については、解雇を容易に許さず、企業の中での配置転換を促進してきました。
 一方、今では、働く人のマインドも大きく変わり、転職も当たり前になってきています。社会の変化も踏まえて、働く人が、業績が悪くなった企業や居心地の悪い職場に縛り付けられる今の制度から、新しい成長分野やより自分にあった職場で活躍することを応援する制度に変えるべきです。
 こうした観点から、日本経済のダイナミズムを取り戻すために不可欠な労働市場改革の本丸である、解雇規制の見直しに挑みたい。
 まず、大企業で働く人には、いつでもリスキリングや学び直しの機会が与えられるよう、職業訓練制度を見直します。働く人は誰でも、新しい成長分野に移動できるよう、生活の安定を確保しつつ、リスキリングや学び直しが受けられる環境を整備します。
 その上で、企業が解雇を検討せざるを得ない状況になった場合、働く人が、自分らしく働くことのできない職場に留まり続けるより、企業にリスキリング・学び直しとその間の生活支援、再就職支援を義務付けることで、前向きに成長分野へ移ることのできる制度を構想したい。
 こうした労働市場改革を進めれば、大企業に眠る人材が動き出し、スタートアップや中小企業に人が流れやすくなる。これを機に、スタートアップが劇的に拡大する仕組みも整備します。そして、日本経済のダイナミズムを復活させます。

 冒頭、「解雇規制見直し」について原稿を読み上げながら発言した箇所は、以上である(小泉氏の公式サイトでも確認できる)。

 このあとの質疑応答で、記者から解雇規制について質問される場面が2回あった。このうち2回目の方で、記者が解雇規制の「緩和」という表現で質問していた。

(記者)政策の本丸とおっしゃった労働市場改革のところもう少し具体的にうかがいたいのですけども、解雇規制の緩和というと、やはりまた労組などから反対が出る大変難しい改革だと思うんですが、まず基本的な確認として、緩和といった時に金銭保障のルールを具体化するという理解でいいのか、あとその両輪でセーフティネット、雇用のですね、を拡充するということがセットなのかなと思うんですけれど、この拡充策をどういうふうに考えるのか。
 今日のご発言からすると、企業を温存するというよりは、そこで働いている…、企業を守るんじゃなくて、働いている人の暮らしを守るという、そっちなのかなという印象なのですけど、そういう意味では企業の新陳代謝を図るという、高いお金で人を雇えない非生産的な会社については場合によっては退場してもらう、という新陳代謝を図る必要性というのを感じておられるのか、ということを確認させていただきたいのと、最後に、これは結構な大変な改革と思うので、法案提出とかって一瞬聞こえた気もするんですが、どれくらいのスケジュール感で、どういうふうに進めていくのかというのを教えてください。

 この質問に対して答えた際、小泉氏は、記者の「緩和」という捉え方を明確に否定する発言はしていなかった。

(小泉氏)はい、ありがとうございます。もう一回ちゃんと聞こえるように言い直しますと、来年法案を提出します。
 これは今まで長年議論されてきた課題です。まさにここに「決着」とつけている通り(注:キャッチフレーズの「決着 新時代の扉をあける」を指さす)、もう長年議論されてますから、あとは政治の決めだと思います。
 そして、そこの強い思いをもって不退転の覚悟でやるからこそ、あえて1年で国会に法案を提出すると申し上げました。
 いま中身の具体的なご指摘がありましたが、金銭の保障というところを考えているのかというところでしたけれども、それは特に中小企業にとってのご指摘だと思いますけど、そこは専門家の検討が必要なところだと思っています
 むしろ今回私が言っているのは大企業の話です。
 やはり今の労働契約法の判例の中で4つの要件があって、それを満たされないと人員整理が認められにくい、この状況を変えていくこと、それが私が考えていることです。
 特にこの4つの要件の中の2つ目ですね、この人員整理をする際に、解雇を回避することをしっかり努力義務を履行したか、これが問われます。
 そこの部分が、今は希望退職者の募集とか配置転換などの努力を行うことというふうにされていますが、私はこれにリスキリング、そして学び直し、再就職の支援、こういったことを企業に義務づけることで、大企業に限定してですよ、そのことで労働市場の流動性、求められている人が求められているところに行きやすい、そして、必要な方が必要なところで活躍しやすい、そういう労働市場に、本来あたり前だと思いますけど、そこに私は実現するために、来年法案を提出していきたい、そう思っています。

(記者)セーフティネットについても言及いただけますか。

(小泉氏)はい、セーフティネットはすごく大事なので…。
 社会の前提として一つ踏まえなければならないのは、いまの日本には仕事はあっても人が足りない、これが今までとは全く違う前提条件だと思います。
そこの中で、求められている方が求め…、行きたい企業に、どれだけやすいような再就職の支援をやるか。
 なので、今まさに、セーフティネットといったところを、大企業が再就職支援、リスキリング、学び直し、こういったことに日頃とか、働いている方にそういったことが機会として提供される環境と、仮にそういった形になったときに、そこはちゃんとやってくださいよという義務付けを行っていくことが、私は必要だと思っています。

(9月6日の出馬会見=THE PAGE

 以上のとおり、小泉氏は「セーフティネット」について記者に問われた際、大企業における再就職支援やリスキリングについての義務付けに言及した。金銭保障については言及していなかった。

実質的に「解雇規制の緩和」か?

 小泉氏は出馬会見で自ら解雇規制の「緩和」とも「自由化」とも言っていなかったことは、確認した通りだ。では、明言していなくても、見直しの内容は実質的に「緩和」と言えるのかどうか。

 小泉氏は「現在の解雇規制は、昭和の高度成長期に確立した裁判所の判例を、労働法に明記したもので、大企業については、解雇を容易に許さず、企業の中での配置転換を促進してきました」と発言。質疑応答で「整理解雇」に関する4要件に言及し、「4つの要件があって、それを満たされないと人員整理が認められにくい、この状況を変えていく」と明言するとともに、「解雇回避努力義務」の要件に言及した上で、再就職支援などの「義務付け」にも言及していた。

 一連の発言を素直に受け取れば、少なくとも大企業の整理解雇において、「解雇回避努力」として配置転換などが必要とされている現状を改め、再就職支援やリスキリングなどを行えば有効な解雇が可能となるような制度改正を目指している、と解釈できる。

 日経新聞の水野裕司編集委員も「小泉氏の提言は、希望退職募集などが想定されている解雇回避努力の要件の中身を広げ、学び直しや再就職の支援などを追加する案と読める」と指摘している(日経新聞9月12日)。

 したがって、実質的にみれば、解雇規制の「緩和」とみることもできる。だが、その後、小泉氏自身が「緩和」ではないと打ち消す発言を繰り返し、制度設計の詳細も明らかにしていないため、理解や評価は定まっていない。

現在の整理解雇の4要件
(1)人員削減の必要性があること
(2)会社が解雇を回避するための努力をしたこと
(3)人選が合理的であること(恣意的でないこと)
(4)手続が相当であること(労働組合との間で協議・説明義務があるときはそれを実施すること)
(出所:ベリーベスト法律事務所

解雇規制「緩和」と報道

 9月6日、出馬会見で小泉氏自身は「緩和」とは言っていなかったが、共同通信は解雇規制の緩和と報じ、反発が強いと伝えていた。

 朝日新聞は9月7日、「『解雇規制の緩和を』小泉進次郎氏が銀座で演説」という見出しをつけて報じた。

 かぎカッコつきだったため、小泉氏の口から「解雇規制の緩和」と発せられたような印象も受けるが、銀座での約10分の街頭演説で、小泉氏は「緩和」とは言っていなかった。「労働市場改革」に言及していたが、「解雇規制」に直接触れた発言はなかった。

(小泉氏)・・・私が総理になった暁には、できるだけ早期に衆議院を解散して、みなさんの信を問います。
 そして、私がその時におはかりをしたいのは、1年で私がやりたい改革の一つ、賃上げをさらに加速する、人手不足を解消する、正規・非正規の収入の格差を解消する、そのすべてを同時解決していくために必要な、労働市場改革を抜本的にやっていきたい。
 なかなかできなかったこの課題を、誰もが求められ、誰もが評価される、そんな一人ひとりが自分らしく働くことが出来る労働市場を作っていく、そして新しい産業を日本に作りたい。
 今日この左側に日産のビルがあります。いま日本の世界の中でトップだといえる産業は、この日産やトヨタやホンダ、自動車の産業は世界で間違いなくトップクラスだと言えます。しかし、残念ながらこの30年間、世界で戦えるひとりひとりの日本人は出てきても、世界でトップクラスで輝けるような自動車産業以外の産業が出てきません。
 私はそれを作るために、大企業に多くいる優秀な人材、資金、技術が、中小企業、小規模事業者、スタートアップ、ベンチャー、人が欲しいと求められているところに人が流れていくような、この新しい、だけど当たり前に、本当だったらもっと前にやってこなきゃいけなかった当たり前の改革をやりたい。
 だからみなさん、どうか、私は1年でこれをやりますから、みなさんの力を貸してください。
 そして、もう一つ、私は目指している国づくりは誰もが自分らしい生き方ができる国を作ることです。・・・(このあとは選択的夫婦別姓について言及)
(9月7日、東京・銀座での演説動画より=時事通信YouTube

告示日前は「本丸が解雇規制の見直し」と発言

 小泉氏は、9月7日に日本テレビ「zero」に出演した際、キャスターから「リスキリングや再就職支援をしさえすれば、企業側の論理でクビを切りやすくなるということなるのでは」と聞かれると、「解雇を促進するための労働市場改革ではなく、働く方のための労働市場改革をやりたいという思い」と説明した。制度設計の詳細は明らかにしなかった(日テレ)。

 同日の読売テレビ「ウェークアップ」では、「今回私が言っている労働市場改革は、大企業に限定したうえで、リスキリング、再就職の支援、こういったことを義務付けた上での労働市場の抜本的な改革なんですね。今までだったら、なかなかできなかった本丸が解雇規制の見直しですが、自民党の中でもこれをやらなければ日本経済は成長につながらない、正規・不正規の所得の格差は埋まらないという思いを持っている方は多いと思います」と、はっきり「解雇規制の見直し」と述べた(読売テレビ)。

 だが、 9月11日に出演したBS11「報道ライブインサイドOUT」では、質問に答える形で「解雇しやすい社会をつくることではなく、一人ひとりが求められ実現できるための労働市場改革をやりたいということなんです」と発言するにとどまり、解雇規制の見直しについて多くを語らなかった(BS11)。

所見発表演説会・共同記者会見(9月12・13日)では明言せず

 告示日である9月12日の所見発表演説会では、6日の出馬会見で明言していた「解雇規制の見直し」には言及しなかった(自民党YouTube)。

 9月13日の共同記者会見でも、「解雇の自由化を言っている人は、私も含めて誰もいない」と述べ、解雇規制の見直しには直接言及しなかった(自民党YouTube)。

告示日後は「解雇規制」に直接言及避ける

 小泉氏は、9月12日にフジテレビ「イット!」に出演した際、候補者の高市早苗氏からの質問に答える形で、「解雇の自由化は全く考えていません」「とくに正規・非正規の格差解消のための労働市場改革をやりたい。そのために大企業にセーフティネットとしてリスキリングの義務付け、再就職支援の義務付け、こういったことをやっていきたい、それが私が訴えている労働市場改革です」と述べ、「解雇規制」への直接的言及を避けた(FNN)。

 9月13日の日本テレビ「news every.」では、キャスターから「企業からすれば今よりは解雇しやすくなるという理解で大丈夫でしょうか」と問われたが、小泉氏は「私が話しているのは大企業。誰もがより自分らしい働き方ができる労働市場の方向性にもっていきたい」と答えた。

 その後、改めて「大企業の解雇がしやすくする改革を行うんですか」と質問されると、小泉氏は「違います」と即座に否定し、メディアが「解雇規制の緩和」と表現するのをやめるように求めたが、解雇規制をどのように変えるのかについての具体的な説明はなかった(日テレ)。

 9月15日のフジテレビ「日曜報道 THE PRIME」、NHK「日曜討論」では、解雇規制がテーマになることはなかった。

日本記者クラブ討論会では整理解雇4要件に再び言及

 小泉氏は、9月14日の日本記者クラブ討論会で、記者の質問に答える形で、解雇規制の見直しについて、次のように発言した。

(小泉氏)私がずっと言っているのは、解雇規制の緩和ではなく、見直しです、と。
 見直しをなぜやるのかといえば、もしも今のままの労働市場の形を維持すると、世の中の変化が早いですから、大企業の業績が悪くなって、一部の部門を整理解雇しなきゃいけないときに、100人整理解雇しますと、今だと40人は配置転換でやる、しかし残り60人はどうしますかと言ったら、今のままだと解雇なんですよ。雇用保障ないです。
 私はそこに、これだけいま人手不足の時代で、労働市場の形もだいぶ変わってきて、多くの企業で成長分野に人が欲しい、この産業が変わってきた時には、縦割りで、企業の中だけで配置転換だけやって、それに合わない方々は全く守られないままを、変えようということを言っているんです。
 ですから、今の4要件の2つ目は、解雇を回避する義務を履行しているかどうかですよね。そこに対して、いま選択肢としてないのが、リスキリング、再就職の支援なんです。こういったことを企業にやってもらうことによって、一人ひとり働いている方が、今までだったらそのまま解雇されてしまったところを、リスキリングと再就職支援によって新たなところに移動しやすいようにしていく、むしろ今よりも企業が働く方に対してきめ細かい対応をしているかがはかられる時代になっていくと思います。
 そして、そのような環境が整っていけば、正規と非正規の長年続いた格差、収入格差、賃金格差が7割違いますから、ここに対して、より正規の方を雇いやすい労働市場の環境になることによって、非正規の方が正規として雇用されやすい社会を作っていきたいと思っています。

(9月14日、日本記者クラブ討論会より=FNN

 この日の発言は、整理解雇4要件のうち「解雇回避努力義務」を満たさなくても、リスキリングや再就職支援を行えば解雇を可能とするような制度変更を行う方針を示唆したようにもみえるが、そのように明言したわけではない。

(今後、新たな事実や状況変化があれば加筆修正する予定)

弁護士

慶應義塾大学卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHoo運営(2019年解散)。2017年からファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年『ファクトチェックとは何か』出版(共著、尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー受賞)。2022年、衆議院憲法審査会に参考人として出席。2023年、Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット賞受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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