学生を救う答えゼロの就活本
石渡嶺司、Yahoo!個人に登場
石渡嶺司です。今回からこちら「Yahoo!個人」で大学や就活、キャリアのあれこれを書かせていただくことになりました。コラムから就活・進路相談、どうでもいい話まで色々と展開予定です。ごひいきのほどを。
さて、1回目は「学生を救う?答えゼロの就活本」です。就活本、特に就活マニュアル本は「こうすれば就活に勝てる」といった答えが書いてあります。
それを読めば就活生は一歩先に行った気になります。中には就活マニュアル本の内容を徹底的に暗記して「これで就活は勝ったも同然」と思い込む学生もいます。
しかし、採用担当者に取材すると就活マニュアル本はほとんどが疑問視されています。内容が時代遅れだったり、大多数の学生に当てはまらないということもしばしば。
エントリーシートなどの書類選考にしろ、面接にしろ、「これを書けば(言えば)就活で勝てる」なんてことはまずありません。
仮にそういうマジックワードがあったとしましょう。あるとしても、それが他の学生にも当てはまる、なんてことはまずありません。星の数ほど刊行されている就活マニュアル本と同じことをやったとして、それでは企業側はどこで学生の良し悪しを判断することになるのでしょうか?大学名?それとも適性検査や学力テストの点数?
消えた「内定を取った一言」特集の理由
企業側がマニュアル回答にうんざりしている状況をよく示すのが週刊誌の「内定を取った一言」特集の消滅です。
2000年代半ばごろまで週刊誌ではよく「内定を取った一言」という特集が就活シーズンに組まれていました。私も某週刊誌でそうした記事を書いたことがあります。
ところが2010年代に入ってから、こうした特集は週刊誌から姿を消しました。週刊誌の読者年齢が上がり、就活というテーマ自体が編集部から敬遠されるようになったのが一番の理由です。そして、「内定を取った一言」特集をやろうとしても企業側が取材拒否をするようになったのも大きな要因です。
企業側からすれば取材に協力してもメリットはあまりありません。
メリットどころか、特集を読んだ学生のほぼ全員がその一言を真似てうんざり、というデメリットが目立ちます。企業からすれば、それぞれ違う学生に対して違う話を聞くために手間暇とお金をかけて面接を実施するわけです。それが「内定を取った一言」を全員話すようでは面接の機会を作った意味がありません。デメリットと言うのはそういう意味においてなのです。
このデメリットの大きさに気づいた企業が次々と取材拒否をするようになりました。
今でも、週刊誌なりネット媒体なりが「内定を取った一言」をやろうとしても、企業側からコメントを得るのは難しいでしょう。
▼マニュアル本の逆、「落とし穴」本の登場
企業・採用担当者からすれば、学生と話をすることで人物を推しはかりたいわけです。そこに答えなどありません。その企業を取り巻く環境、前年の内定者、面接担当者の性格、経営幹部の思いつき、社風、業界事情、経済状況、あるいは他も含め、不確定要素があまりにも多すぎます。
この不確定要素を上回る就活マニュアル本があるか、と言えば正直なところ、どれも厳しいものばかりです。
一方、2000年代に入ってから就活の答えを書かない、逆に落とし穴だけを書く逆マニュアル本、「落とし穴」本が登場しました。数こそ少ないのですが、今回はその中から5冊、ご紹介したいと思います。
なお、「落とし穴」本を読んだ学生から「だったらどう書けば(話せば)いいのか?」と聞かれます。そこは学生本人の考えどころ。考えて実行した結果、うまく行くこともあれば失敗することもあります。
ん?そんなの無責任だ?
そうでしょうか、少なくとも、落とし穴に気づいて避けていくだけでも、就活がうまく行く確率って上がると思うのですけどどうでしょう?マニュアル本を過信しすぎて失敗が続くよりは、まだましと思います。ま、どちらがより良いか、その辺は読者のみなさんのご判断にお任せするとします。
▼エントリーシートの落とし穴を指摘 『すべらない就活』
『2014年度版 勝てるエントリーシート 負けない面接テクニックすべらない就活』(原田康久、中央公論新社)はタイトルにある面接の話はあまりなく、エントリーシートの落とし穴を指摘している本です。
著者は読売新聞の採用担当デスク(現在は販売企画調査部長)。その経験を元に、エントリーシートの失敗例をこれでもか、とダメ出ししています。最初の一行目に印象的な一言を書く、数字を使う、カラーペンで目立つように…など学生からすればなぜそれがまずいのか、他の本で(あるいは就活ガイダンスなどで)勧められていた事例も相当含みます。
採用担当デスクから他部署の部長に出世したこともあってか、2009年から毎年刊行されていた同書は2012年に『2014年度版』を最後に刊行が止まってしまいました。それでも内容は古びているわけでなく、就活生に強く勧めることのできる良本です。
なお、著者・原田氏は読売新聞本紙でも就活面「就活on」にて「原田部長の新・必勝講座」という連載を2012~2013年に掲載していました。今でも、読売新聞のサイトで読むことができます。就活の本質を突きながらコンパクトにまとめられた名コラムです。
▼どうせ自分は、と卑下する前に 『短所を言えたら内定が出る』
『短所を言えたら内定が出る』(柳本周介、パブラボ)の著者は関西の採用コンサルタントであり、将来塾という就活セミナーの塾長でもあります。就活セミナーは私の本で散々書いてきましたがぼったくりのものが多くあまり好きになれませんが、将来塾は数少ない例外の1つ。有料ではありますが、セミナー回数などを考えればまあ妥当なところ。行くか行かないかはまあ趣味の問題でしょう。もちろん、私としては「そんなところにお金を使うなら石渡の本こそ買う」という趣味を応援する立場です(待て)。
話を戻すと、この将来塾や自身の採用コンサルタント活動を通して書かれたのが同書です。第1章の「勘違いの面接」「勘違いの返答」はいずれも採用担当者からすれば「ああ、あるある」と苦笑するものばかり。学生からすれば「え?これがアウト?」と青ざめるかもしれませんね。
そもそも短所を話すのもハードルが高い、と勘違いしている学生も多いようです。これも「短所を話しつつ、克服したことに結び付けるべき」とするマニュアル本の悪影響なのでしょう。学生だろうが社会人だろうが短所のない人間なんていないわけで。
無理に完璧な学生を演じようとしてもしんどいだけですし、そうならないためにも同書はお勧めです。
▼タイトル最悪でも企業分析力がアップ『就活生はユーホーをさがせ』
先にお断りすると同書『就活生はユーホ―をさがせ』(郡司昌恭、青月社)はこのコラムで紹介する他の4冊と違い、どの学生にもお勧めという訳ではありません。具体的には企業の経営分析などを講義・ゼミでやっている経済・経営系学部の学生や他学部でも有価証券報告書の読み方を知っている学生は買わなくていいでしょう。
同書タイトルの「ユーホ―を探せ」は学生を困惑させるに十分なものですが、具体的には「有価証券報告書」の略称。つまり同書は有価証券報告書の読み方を含んだ就活本です。
有価証券報告書は全部読みだすときりがないのですが、どの辺を就活生が読むべきかも解説しています。
企業分析や業界研究などがよくわからない、そもそもそれをどうエントリーシートや面接に反映させればいいかわからない、という就活生は読む価値がある本です。
▼なーんもない凡人学生が勝つ方法 『凡人内定戦略』
『凡人内定戦略』とその続編『凡人面接戦略』(どちらも武野光、中経出版)の著者、武野光は『凡人面接戦略』刊行の2013年時点で23歳、社会人2年目の若手です。
本コラムでご紹介した他の3冊の著者は採用担当デスク、採用コンサルタント・就活塾塾長、公認会計士とそれぞれ立場がある方なのですが、武野はそうではありません。
『凡人』2冊はどちらも、武野が就活生だった経験を元に書かれたものです。では武野は学生のとき、さぞ、すごい経歴やすごい資格を持っていたのでしょうか?
「TOEIC未受験」「週の半分以上の講義を自主休講」「友達の数が片手未満」…、えと、悪口を書いているのではありません。『凡人』2冊とも著者プロフィールにそう書かれています。
特にアピールできるネタがあるわけでもない凡人の学生が結果的に就活がうまく行ったことをまとめたのが『凡人内定戦略』、そして面接についてより詳しくまとめたのが続編の『凡人面接戦略』です。
ルポとも言えますし、平凡な学生向けの就活マニュアル本とも言えるでしょう。その場合は「答えゼロの逆マニュアル本」とは言えないかもしれません。
それでも同書をお勧めするのは、著者が自身の経験を踏まえながら、「自己PRできるネタが何もない」と思い込んでいる学生をフォローしようとする姿勢に好感が持てるからです。
それから就活本は大体が読み物としてはしんどいものが多く、だからこそ私の本が受け入れられるのですが(ちょっと待て自分)、武野の本はいずれも読みやすい、という特徴があります。
何しろ、ご本人曰く「史上初めて就活本に○ナニーと書いた男」(そりゃ、君くらいしかいないだろうよ)。
下ネタやばかばかしいネタも多いのですが、仕事や業務内容などについて「高校2年生が似たようなことを自分に言ったら、自分はどう思うか」などの金言も多く含まれています。
自分にはアピールできるものがない、と落ち込む普通の学生はぜひ武野の『凡人内定戦略』『凡人面接戦略』を読んでみてください。
ここまで5冊、ご紹介しました。まあ、この5冊よりは私の…とステマになりそうなところで、おあとがよろしいようで。