開催間近「ニキ・ド・サンファル展」。芸術家ニキとコレクターヨーコの友情と情熱の物語、見どころを紹介!
7月21日(日)に三重県総合文化センター(以下:そうぶん)にて行われた三重県生涯学習センター主催みえミュージアムセミナー「ニキとヨーコ 下町の女将からニキ美術館を建てるまで」に参加してきました。芸術家のニキとそのコレクターであったヨーコの人生と、ニキ美術館を創立する夢を叶えたヒストリーについての特集です。”ニキ”とは、そうぶんの広場にある青いオブジェ・通称「ナナ」の作者である、フランス生まれの女性芸術家ニキ・ド・サンファル。一方、ヨーコとはニキ作品の日本人コレクター増田静江(以下:ヨーコ)のこと。日本に世界唯一のニキ美術館を作ると決意したのは、ヨーコが50歳の時です。紆余曲折を乗り越え、あきらめない姿勢を貫いたからこそ実現したニキ美術館(※現在は閉館しています)。セミナー講師は、今は亡きヨーコと共に走り続けた元美術館館長である黒岩有希さん。美術館の創立までのお話をじっくりとうかがいました。
本セミナーは、8月31日より開催の三重県総合文化センター開館30周年記念事業「ニキ・ド・サンファル展」の関連イベント。開催間近のこの展覧会をより楽しむために本記事を参考にしていただければ嬉しいです。
セミナー講師は、元ニキ美術館館長の黒岩有希さん
黒岩有希さん
[講師プロフィール]
1968年、愛知県名古屋市生まれ
2000年頃から那須にあるニキ美術館を手伝い始め、2007年に館長に就任(現在は閉館)
イラストレーター・版画家としても活動。
著書『ニキとヨーコ』NHK出版、韓国版『ニキとヨーコ』SIGONGSA出版、詩画集『虹の小人』(詩・いしだえつ子)沖積舎
司会進行は、宇田恭子さん
三重県男女共同参画センター課長、ニキ・ド・サンファル展担当。
”ニキファン”が集合し、グッと聞き入った90分!
会場の三重県総合文化センター小ホールは、ほぼ満席。日本国内では、2015年に国立新美術館(東京)でニキ作品の大回顧展とも言える大規模な展覧会が開催されました。その展覧会について「観に行かれた方はいらっしゃいますか」と司会の宇田さんから参加者全体への問いかけがあり、何名もの方が挙手され、ニキファンの多さがうかがわれました。
ニキとは、どんな芸術家?
セミナーは芸術家ニキ・ド・サンファルの紹介からスタート。ニキは、1960年代に「怒り」をテーマにし、絵の具を入れた缶や袋を画面に付着させた絵画を銃で撃つという衝撃的なパフォーマンスで国際的に有名になったそうです。その後、「魔女」「娼婦」「結婚」「出産」といった女性をテーマにした作品に取り組み、「ナナ」シリーズを作り始めたそう。三重県総合文化センターにある青いオブジェのナナもこの中の一つ。平面作品から、彫刻、巨大建築、演劇、映画など活動の枠を広げていったそうです。
セミナーでは、ニキが生きた時代の世界恐慌などの不安定な情勢や、ニキの性格や信念、幼少期の複雑な家庭環境なども知ることができました。
ニキ作品コレクターのヨーコは、どんな女性?
ヨーコこと増田静江は、妻・母親・下町の料理屋女将として、戦後の混沌とした東京で生きてきたのだそう。ヨーコは、50歳の時にある日偶然入ったギャラリーで観たニキの版画作品に一目惚れし、そこにあった作品を全て購入し、なんとその数ヶ月後には自分でニキ作品を展示するギャラリーを開いたのだとか。そんな行動力の塊のようにも見えるヨーコですが、本名である静江の「静かな入り江」という意味が自身の豪傑な気質に合わず、「広い大海原」の"洋子"という名前にし、それが片仮名となってヨーコと自ら名乗ることにしたのだそう。実はヨーコは、本セミナー講師の黒岩さんの義理の母にあたり、美術館創立の大きな夢を叶えていった偉大な女性として、憧れの存在だったそう。しかしその一方で、ヨーコが目の前の小さなことで悩んだり、落ち込んだりする様子も見てきたと黒岩さんは言います。
ニキ作品には、明るい色彩のものだけでなく、苦渋に満ちた雰囲気のものもあります。”作品はニキの人生そのもの”だとニキ自身が言っていたということが印象的でした。ヨーコ自身も人と同じように悩み、生きづらさから目を背けず自分に正直に生きた人だったからこそ、ニキ作品のどんな表現も全て敬愛していたのかなと思いました。
ニキ美術館創立までのヒストリーから学ぶこと
栃木県那須にあったニキ美術館は、多数のニキ作品のみを展示した世界で唯一の美術館(現在は閉館しています)でした。美術館創立までには、たくさんの壁が立ちはだかっていたと黒岩さんは言います。日本中を探しまわって場所選び、建築に伴う法律の問題、ニキとの意見の相違など、数々のエピソードを聞くことができました。ニキとヨーコも高齢になってきて、お互いの健康を気遣いながら美術館創立、数年後のニキの来日までたどり着いたそう。ニキが初めてニキ美術館を訪れ、涙を流しながらヨーコと抱き合った様子は、まるでお互いの人生の健闘をたたえ合うようだったと言います。2人は後半の人生で友情と情熱を分かち合い、豊かな時間を過ごしたのではないかと黒岩さんは続けます。50歳で情熱をかけたいものに出逢い、美術館創立の夢を達成するために歩みを続けてきたヨーコ。その行動力の源は、年齢や性別の役割にしばられることなく、どう生きていくべきかを常に考えてきたからではないかと黒岩さんは話します。
ニキ作品との運命的な出逢いから、新しい自分を見つけて走り始めたヨーコ。国や年齢、時代、性別の役割にとらわれることなく、いくつになっても挑戦ができるという希望を私たちに与えてくれます。
「ニキ・ド・サンファル展」担当の宇田さんから見どころの紹介
三重県総合文化センター開館30周年記念事業8月31日より開催の「ニキ・ド・サンファル展」。担当の宇田さん曰く「ニキ作品の魅力の一つは、色彩の鮮やかさ」。ニキ作品の多彩な色使いは、自由と喜びや多様性の象徴から来ているそう。版画や立体など貴重な作品群から美しい色彩を見て、楽しんで欲しいと言います。
たくさんのニキ作品の中から、自身の心がどんな色使いに心が動くか今からワクワクしています。ニキとヨーコが友情を紡いできた数々の絵葉書の絵や言葉も、必見です。そうぶん内にあるアートショップMikke(みっけ)では、ニキ・ド・サンファル展の関連グッズを先行販売中。こちらもぜひ覗いてみてください。
【関連情報】
三重県総合文化センター開館30周年記念事業
「ニキ・ド・サンファル展」
会期:2024年8月31(土)〜9月23(月・祝)
会場:三重県総合文化センター 第1ギャラリー
三重県津市一身田上津部田1234
子供向けのイベントなど各種の企画が予定されています。詳細は下記のページをご覧ください。